4-2 潜入 ~魂喰らいの仮面
アレリウス男爵の居城である古城は、月明かりの下、不気味にそびえ立っていた。
アポロの予想通り、城の警備は手薄で、二人は音もなく城内への潜入に成功する。
「…罠のど真ん中に、自ら飛び込んでやってるわけだ。アレリウスとやらも、さぞお喜びだろう」
「せいぜい、最高の席で見ててもらうさ。あたし達のレクイエムのフィナーレをね」
二人は、城の最上階、玉座の間と思われる豪奢な扉の前にたどり着いた。
中から漏れ聞こえてくるのは、甲高い笑い声と…獣の唸り声だった。
扉を蹴破って飛び込んだ二人が見たのは、異様な光景だった。
玉座には、アレリウス男爵がワイングラスを片手に、愉快そうに座している。
そして、その手前の祭壇には、一人の狐族の少女が首に禍々しいデザインの鉄の首輪をはめられ、さらに鎖で祭壇に厳重に繋がれていた。
そして、その顔には、あの禍々しい『魂喰らいの仮面』が装着させられていた。
「ティナァァッ!!」
シルクが絶叫する。
妹…ティナは、鎖に引かれて苦痛に身をよじり、もはや自我を失った獣の唸り声を上げていた。
鎖がシャラリ、ジャラリと不吉な音を立てるたびに、シルクの心臓が締め付けられる。
「ククク…! よく来たな、シルクとやら! そして『隻眼』! 待ちわびていたぞ!」
アレリウス男爵が高らかに笑う。
「どうだ、美しいだろう? お前とそっくりだ。双子の妹だったな。その仮面は、装着者の憎しみを糧に、その魂を獣へと変える。そして…」
アレリウス男爵は、傍らに置かれた古文書を指差し、愉悦に声を震わせた。
「その呪いの真髄は『伝播』することだ! 装着者が最も執着する相手…つまり、貴様だ、シルク!」
「なっ…!?」
「お前がその妹を想い、憎しみと絶望に駆られた瞬間、呪いのパスは繋がった! お前の魂も道連れよ!」
アレリウスがシルクの胸元を指さす。
「見ろ! その胸元だ! 絆の証が刻まれ始めたぞ!」
「ぐっ…ぁ…!」
シルクは、自らの胸元を抑えた。 服の上からでもわかる。心臓を直接氷の爪で掴まれたような感覚と激痛、そして、まるで冷たいインクが皮膚に染み込んでいくような、おぞましい感覚も広がっていく。
慌てて襟元を強く引くと、白い肌の上に、それはあった。
蕾だったものが、今まさに開こうとしているかのような、禍々しい『黒い薔薇のアザ』。
それは不気味に脈打ち、ティナが苦しむ声に呼応するかのように、その黒をじわりと濃くしていく。
「ティナ! しっかりしろ!」
シルクは胸元の灼けつくような痛みと、こみ上げる絶望を振り払うかのように、アレリウスの言葉など耳に入らないとばかりに、妹に駆け寄ろうとする。
「無駄だ! そのアザが完全に開花した時、貴様の魂もティナと同じ獣に堕ちる! 姉妹揃って、互いを喰らい合うがいい!」 アレリウス男爵の狂的な高笑いが、古城に響き渡った。
「やめろ、シルク!」
アポロがシルクを制止し、サンダーボルトをアレリウス男爵に向ける。
「その手を離せ、アレリウス。さもなくば、その頭を吹き飛ばす」
「撃てるかな? 撃った瞬間、種明かしはしないが、魔導銃に反応し、この娘もろとも、この城が吹き飛ぶ仕掛けだが?」
アレリウスの言葉と同時に、男爵家執事が祭壇の周囲の絹布を取り外すと、仕掛けられていた魔導爆弾が青白い光を湛えていた。




