魂喰らいの仮面~古代の遺物
アレリウス男爵の城の書斎。蝋燭の光が、壁に並ぶおびただしい数の武具を妖しく照らし出していた。
「…閣下、例の狐女の一族が隠れ住む集落、完全に蹂躙いたしました。生き残りはおりません。シエラという女が「一体」逃げ出しましたが、予定通り、深手を負わせてわざと逃がしております。いずれ果てるかと」
影のように控えていた執事が、淡々と報告する。
「うむ、ご苦労」
アレリウス男爵は、机上に置かれた桐の箱の蓋を恍惚とした表情で撫でていた。蓋をずらした箱の中には、黒曜石のような禍々しい仮面が鎮座している。
「ククク…素晴らしい。実に素晴らしい。怒りと憎しみで我を忘れた獣人など、この『魂喰らいの仮面』の器には最適よ」
彼は立ち上がると、グラスに注いだ葡萄酒を片手に、仮面の呪いの詳細を謳うように語り始めた。
「ただ力を与えるだけではない。この仮面の真髄は、呪いが『伝播』することにある。装着者が最も執着する相手の魂を、道連れにするのだ」
「あの獣の妹…ティナとか言ったか。あの小娘は予定通りか?」
「は。集落の地下牢に。まもなく、こちらへ移送が完了します」
「よろしい。あのシルクという女が、オーウェルの犬である『隻眼』の女だという報告も上がっている。好都合だ」
アレリウス男爵の唇が、残忍な笑みに歪む。
「ティナという集落の生き残りを餌に、古城へ誘き出す。シルクが怒りに任せてそのティナを助けようとすれば、仮面に喰われる・・どうなるか…見ものだな? 互いに執着するゆえに、互いを喰らい合う獣の姿は。それにあの忌々しい『隻眼』も、愛する女に喰われて死ぬか、あるいは自ら手を下すか…どちらに転んでも、絶望しかない!」
高らかな笑い声が、薄暗い書斎に響き渡った。
彼は、力でねじ伏せるのではなく、二人の魂の繋がりそのものを破滅させることに、この上ない愉悦を感じる変態の性状を示していた。
「全くそのとおりでございますな。」
傍に控える執事の追従には狂気の色すら孕んでいた。




