2-4「待ってたよ、その言葉を!」
戦闘が始まった。
敵の追撃部隊が渓谷に多数殺到し、シルク率いる獣人部隊が、派手な剣舞でこれを迎え撃つ。シルク隊は敵を殲滅するのではなく、巧みにいなし、じりじりと後退しながら、敵を渓谷の奥深くへと誘い込んでいく。
そして、その時が来た。
後方の崖の上、アポロが見上げていたまさにその場所に、複数の人影が現れた。彼らが纏うのは、敵のものではなく、味方であるはずの傭兵連合軍の紋章。彼らは眼下の戦いには目もくれず、大規模な起爆魔法の詠唱を開始する。渓谷を、生き埋めにするために。
これが成功すれば、二つの小国の利権争いに終止符を打つことができる第一歩となることは間違いがなくドレフィス総司令官達は得られるであろう巨大な利権に舌なめずりをしていた。それを思えば傭兵くずれどもにくれてやった金などはと取らぬ狸の胸算用をはじいていた。
「…来たな」
崖の死角で息を潜めていたアポロが、静かにサンダーボルトを構える。
「今だ!」
アポロの号令と共に、崖の上に前夜から伏せていたアポロ部隊の一部が崖を下り、完全に無防備な味方魔道士部隊の背後を襲った。
「なっ、貴様ら、何を!?」
「何をじゃねぇだろ。この裏切り者ども。」
「ぐわあああっ!」
「加速・展開」
アポロの思考と体躯が極限まで加速され、世界が全ての動きを止める。瞬時に接近した彼の放った弾丸は、詠唱中だった魔道士たちの頭部を寸分違わず撃ち抜き、その護衛兵も瞬く間に無力化されていく。
崖の上で起きた、予期せぬ内乱。
広域の落石魔法は発動せず、退路は塞がれなかった。それどころか、崖の上の裏切り者部隊は、アポロ隊の奇襲によって大混乱に陥る。
眼下で戦っていた敵の追撃部隊は、後方で起きた仲間割れに、勢いが増し動きを全面攻勢に変えた。
その好機を、アポロは見逃さない。
「シルク! 聞こえるか! 敵を引き連れて、後方の『味方』の陣地へ突っ込め!」
通信魔導具越しの指示に、シルクは形容しがたい美しい笑顔をみせた。
「待ってたよ、その言葉を!」




