表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の瞳は夢を見る。――異端のシスター巡礼記  作者: 佐倉美羽
月の瞳は夢を見る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/45

第43話 滅びの予言

 レオンと踊った、あの夜。

 私は宿の部屋に戻るなり、ベッドにバタンと倒れこんだ。


 ――はあ……幸せすぎて、息ができない。


 レオンと手を取り、音楽の中を舞った時間は、まるで夢みたいだった。できるなら、あの瞬間にずっといたかった。

 でも、もう仮面祭には行けない。三日目の今日、仮面を捨ててこの瞳を晒すなんて――危なすぎる。


 私は、レオンに「巡礼の証」を預けてきた。きっと、彼を守ってくれる。巡礼で出会ったすべてが、私たちを繋いでくれると信じてる。


 仮面をそっと机の上に置いて、私は窓の外を見た。夜のリステラはまだ煌々と輝いている。


「……今日も、いい日だった」


 私はもう一度ベッドに身を投げ、毛布にくるまった。

 明日からまた、現実が戻ってくる。異端審問官としての、あの日々が。


 でも、もう同じには見えない。旅をして、私の中は変わった。――きっと、強くなった。


 この夜の記憶は、胸の奥に大切にしまっておこう。


 ◇


 深く、深く落ちていく。

 白い光の渦の中、私は夢の底へ引きずられていた。

 次々と現れる“かもしれない未来”の断片たち。輝きながら生まれては、すぐに消えていく。


(これは……“未来視”?)


 ふいに、声が聞こえた。


「なんなんだよ……これ!? 俺たちが……簒奪者の……末裔……?」


 その声は、レオンだった。

 映像が収束していく。渦巻く光は一本の線となり、夢の奥底へと沈んでいく。

 現れたのは、石造りの薄暗い部屋と古びた本棚。


「“聖地”って、中央アルメティア大陸そのもの……?じゃあ、ネブラシス族は……帰りたかっただけ……?」


 未来の光たちは消え、最後に残った一本の運命の線が続いていく。


「俺たちは……なんのために戦ってるんだ……?英雄って……なんなんだ……?」


 その先に現れたのは──金色の瞳と、黒い瞳。

 ザラド・ロメロ……!

 彼は静かに、しかし確かな圧でレオンに語りかけていた。


「君に問おう。人を裁くというのは、そんなに簡単なことなのだろうか?」


「私も見たよ、メテウスの禁書架を。教会は、神を利用していた。……許されざる行為だ。君も、そう思うだろう?」


「……俺は……」


「君は英雄になりたいんだろう?なら、なればいい。“教会”ではなく、“人々”の英雄に」


 やめて……やめて、レオン!

 それ以上聞いちゃダメ!!

 叫ぼうとする。でも、声は届かない。身体も動かない。ただ、夢の中で彼を見つめることしかできなかった。


「レオン、この国を、正しい形に戻すべきじゃないか?」


「未来の英雄として、どう思う?」


 しばらくの沈黙。

 そして──


「……教会は……間違っていた、と……思います……」


 その瞬間。

 視界が黒く塗りつぶされた。

 線だった運命は、まっすぐに“滅び”へと落ちていく。

 ──燃えるリステラの街。崩れ落ちるソル・アルカ大教会。

 ──レオンが、ヒリンス様を……!

 ──帝国中を蹂躙するネブラシス族。

 ──そしてそれを見つめ、満足げに笑うザラド。


 やだ……やだっ……!


 私は、ただ落ちることしかできなかった。夢の底、滅びの未来へ。

 一本の未来の線は、やがて細くなり――最後には、レオンが自らに短剣を突き立てる場面で、ぷつんと切れた。


 その後。

 私は、見てしまった。

 長い銀髪の女が、闇の中で膝を抱えて座っていた。泣きはらした月の瞳。その子と目が合った。

 でも――私は止まれなかった。落ち続ける私に、その子は手を伸ばしてきた。けれど届かない。触れられない。私はただ、虚無の中をひとりで、落ちていった。


 ◇


「……ぅ……ん」


 鳥のさえずりが聞こえる。

 私はゆっくり目を開けた。宿の天井。夢……だった?

 でも、頭の中は妙にクリアだった。混乱も迷いもない。代わりに、涙があふれてきた。

 自分でも驚くほど静かに、泣いていた。

 涙を拭っても、拭っても止まらない。

 喉を震わせて、深呼吸をひとつ。

 目を閉じながら、私は思った。


 ……そう、あれが――“滅びの予言”。


 レオンが、禁書架で真実を知った。それが引き金。

 そして、あの男――ザラド・ロメロ!

 彼が、レオンを……!

 燃える教会、押し寄せるネブラシス族……そして。

 私は立ち上がった。拳をぎゅっと握りしめる。


 ――レオン、あなたには、そんな未来は歩ませない!

 ぜったいに!


 私は目元をこすり、涙をぬぐった。

 もう、大丈夫。もう泣かない。

 レオンを救うために。あの未来を、変えるために。

 私がここにいる――この“月の瞳”と共に。


【Tips:月の瞳】

 ごくまれにソラリス帝国に生まれる、蒼く輝く瞳。

 未来を夢で視る“未来視”の力を持つが、その記録は封印されている。

 髪は銀色、瞳は月色。

 予言者エル・セフィアも、この瞳の持ち主だったという――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ