表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の瞳は夢を見る。――異端のシスター巡礼記  作者: 佐倉美羽
刺客の英雄 ゼルヴァ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/45

第16話 “最後の罪人”のまなざし

 拝啓 四月五日

 お元気ですか。

 こちらは諸事情が重なり、再巡礼の旅に出ています。何も悪いことはしていないのでご安心ください。ただ、コウモリに白羽の矢を立てられただけです。日頃の行いというものはあまり運に影響しないのではないかと、つい勘ぐってしまいます。


 運で思い出しましたが、先日ラメルダ州ファット―リアにて、思いがけず味覚の祭典に参加することとなりました。ラメルダ家とカルナス家の熾烈なグルメ合戦に、思わず頬っぺたが落ちるかと思いました。私はラメルダ家を応援しましたが、結果は敗北……。けれど、どちらも互いの健闘を称え合っており、とても楽しいお祭りでした。


 また、これも偶然ですが、ラメルダ家のご子息ノール=デ=ラメルダさんのセルヴァリス狩りに同行させてもらいました。七歳とは思えないほどしっかりとした方で、とても頼もしかったです。


 ちなみに、狩りにおいて最も大切なのは“自然体”であることだそうです。作為的なことをせず、水が流れるように、あるがままでいること。貴女の恋の悩みにも、同じことが言えるのではないでしょうか。変に取り繕うことなく、素直な気持ちでロイドさんと向き合ってみてはいかがでしょう。“汝、水に習え”です。


 話は変わりますが、今はゼルヴァ州におります。ラメルダ州の緑豊かな景色から一転、ここでは渓谷がそびえ、まだ少し冷え込みます。ゼルヴァ州に来てもう四日が経ちますが、巡礼は思うように進んでおりません。ソル・アントルム州教会で祈祷は済ませましたが、しっくり来ていないようで、もう少し滞在することになりそうです。

 巡礼中につき、しばらく返信はできません。お許しください。お詫びに、味覚の祭典で見つけた美味しい飴を同封します。


 追伸、ラメルダ州では飴のことを、“飴ちゃん”と敬称をつけて呼ぶそうです。お菓子には敬称をつけるのかなと思い、“ルクス餅さん”と呼んでみたところ、怪訝な顔をされました。納得はいっていません。


 敬具


 狩猟の極意を心得たライラ

 “水”に弟子入り予定 ミア・フェルネスト 様


 ◇


「ふぅ……」


 ベッドにダイブして、声が漏れた。

 ゼルヴァを見つけるのは、やっぱり甘くなかった。ラメルダが一日で現れたのは奇跡だったらしい。


「ゼルヴァ家の屋敷も古戦場も回ったのに、ダメ……。ゼルヴァヘビって言えば岩場だけど、州全体が岩場なんだけど……?」


 頭を抱えて、窓のない部屋を見渡す。

 ここは地下にあるゼルヴァ州の宿屋。部屋には机とタンスが一つずつあるだけ。光は夜光石がぼんやり照らしていた。


(八英雄は自由に動く。場所も時も決まってない……)


 ノクタリカの言葉が頭をよぎる。

 岩場を好むのは、ゼルヴァヘビの生態。けれど、“八英雄ゼルヴァ”がそれに従うとは限らない。


(毒……。毒に関係ある場所……? 研究所とか……)


 頭を振った。今日はもう限界だった。

 灯りを落とし、毛布に包まる。夜光石の青白い光が、室内を優しく照らす。

 眠気が一気に押し寄せ、まぶたが重くなる。


(……寝て、明日考えよう)


 ◇


 馬の蹄が、石畳を優雅に叩く音が響く。

 私は帝都リステラの大通りを、静かに進んでいた。

 黒馬にまたがり、道を埋め尽くす民衆の喝采を受けながら。

 街は整い、秩序に満ちていた。まるで神の手が全てを包み込んでいるかのような、完璧な景観。


(……この美しさが、やがて戦場に変わる)


 清潔な手袋に包まれた掌を見つめる。だが、その裏には確かに――血があった。


 私は、教皇を討つ。

 ソル・アルカ大教会を焼き払い、“神を檻から解き放つ”。

 それが、この身に課された使命。

 我が信仰は、もはや“信じる”という段階ではない。


 “証明”されねばならない――神は教会にではなく、民にあることを。


 一歩ずつ、確かに歩む。

 見上げる先に、堂々とそびえる教会。

 帝国八州の代表生徒が出迎える、その前。


 その中に――いた。

 赤毛の少年。燃えるような瞳。

 金色に輝く“太陽の瞳”。


(……君か)


 レオン=ル=アストラード。

 神に選ばれたもう一人の者。

 君は、見えるか? この国の底に沈んだ矛盾と歪みが。

 私は、彼に視線を向ける。


「――よく励めよ」


 言葉は短く、しかし、すべてを告げていた。

 君が歩む道は、やがて私の前に立ちはだかる。

 その時、共に歩むか、それとも討たれるか。選ぶのは君だ。

 だが、民は私につく。


 いや――そうでなくてはならない。

 神は、民のなかに戻るべきだ。教会という檻から解き放たれ、血肉と心の中に――再び。


 私は歩く。静かに、しかし一歩一歩が重く、大地に刻まれていく。

 神を戦争の道具とする者たちの象徴、“ソル・アルカ大教会”へ。


 ここが、決戦の地となる。


 そして私は、


 ――教会が生み出す“最後の罪人”となるのだ。



【Tips:黎陽将軍】

 “ザラド・ロメロ”の異名。

 彼が帝国軍で台頭し始めたころ、その両目――片方は闇のように黒く、もう片方は太陽のように金色――から、“あけぼの”を意味するこの名が生まれた。

 神に選ばれし戦士としての神秘性と、どこか危うい二面性を象徴する言葉でもある。


【Tips:コルノドルチェ】

 ラメルダ州の名物お菓子。蜂蜜をセルヴァリスに象って固めた一口サイズの飴。

 庶民から貴族まで広く愛されており、保存性も高く、非常食としても使われる。

 なお、ラメルダ州民がよく「飴ちゃんいるか?」と配っているが、断ると「戦争か?」という空気になるので、受け取っておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ