序章
――その者、蒼き瞳を持っていたが故に、死刑。
……思わず、くすっと笑ってしまった。
神様って、青い目がそんなに嫌いなんだろうか。
雨粒が窓ガラスを叩く音だけが静かに響いている。
私は礼拝堂の片隅で揺れる蠟燭を頼りに、古い記録のページをめくっていた。
ページの間に挟まっていたのは――異端者たちの名前と、罪状。
そしてそのほとんどが“処刑”という文字で終わっていた。
「太陽の瞳」と呼ばれる金色の目を持つ人々は、帝国では神に選ばれた存在だとされている。
でも、蒼と金で、ここまで扱いが違うなんて――。
私はいつも思う。
“そんなに光ってる目が偉いのなら、じゃあ夜空の星は、罪なのか”って。
遠くで、雷が轟いた。
思わず顔を上げる。
神の像を奉った祭壇。そして、赤黒く照らされたステンドグラスが目に入った。
隣国の侵略を打ち破った王と予言者、そして八人の英雄たちが描かれているとか言っていたっけ。
600年も前の話だというのに、未だに戦いは続いている。
神はすべてを見ておられるはずなのに、不思議なこともあるものだ。
まぁ、そんなことは口が裂けても言えないけど。
礼拝堂が一瞬、白く光る。
続けて、腹に響くような雷鳴が鳴り響いた。
……近い。
もしかして、どこかに落ちた?
窓の外を見に行く。州都だというのにもう光ひとつない闇が広がっていた。幸い、どこにも火の手は上がっていない。
少し安心する。
……そのときだった。
窓ガラスに映った“自分の姿”を、私はふと見つめてしまった。
修道服。
顔を半分ほど隠す厚いベール。
窓に近づき、ベールそっと上げる。
夜の帳が下りた街。
その闇の中で、蒼い二つの満月がぽつりと浮いていた。
そう。
これが、私の眼。
祝福無き“赦されざる者”の証。
そして、歴史に葬られた真実、伝説の予言者エル・セフィアと同じ瞳であった。
あとがき
この物語は、ファンタジー世界における信仰の中で、差別的な扱いを受ける少女・ライラが、誇りと尊厳を取り戻していく“成り上がり”の物語です。