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37 剣聖、ライバルとの再会

 帝国の仮面の剣士は、魔法少女に変身したボクの姿を見て「サキュバスか?」と言い放った。このツノ、この格好。確かにその通りかもしれない。

 いや……待て? その前に「魔法少女」と言った。確かにそう言った。

 おかしい……。

 仮面の剣士の言葉がひっかかる。帝国の兵士が、現代日本の空想の産物である「魔法少女」を知っているはずがない。


「魔法少女」


 この異世界にそんな概念があるだろうか、いや、そんなはずはない。

「魔法使い」とか「魔術師」なら分かる。ツノと衣装を見て「サキュバス」だと思うのも、まあ理解できる。でも、咄嗟とっさに「魔法少女」なんて単語が出てくるかな、普通?

 もしかして……こいつは、黒髪で長髪だし、元日本人で帝国側の転移召喚勇者?

 だがしかし、今、そんなことを考えている場合じゃない。


 倒れているクボちゃんの首元に迫る仮面の剣士の切っ先。

「クボちゃんから離れろぉぉ!」

 ボクは魔法のステッキを強く握りしめ、仮面の剣士に向かって言い放った。

「はっはっは! サキュバスごときが、この私をどうにかできるとでも思っているのか。この剣聖を始末したら次はお前だ!」

 剣先がクボちゃんの喉元に迫る。

(……どうにかできるかは分からない。でも、やるしかない)

「えいっ!」

 ステッキを振り下ろした。

 ぽわん、と間の抜けた音と共に、ピンク色の怪しい煙と光がふわふわと広がって、ゆっくり、ゆっくり仮面の剣士の方へ漂っていった。

「うわっ、なんだこの煙はっ? 気持ち悪い!」

 仮面の剣士は剣で煙を振り払おうとした。

 しかし煙はするりと剣をかわして、絡みつくようにその全身を包んでいく。

「ぐ……ぐぐぐ……」

 ――あれ?

 ボクは首を傾けた。

 いつもなら、ここでもう「あぁん♡」とか変な声が出るはずなのに。

「なっ……これは……く、苦しい」

 苦しい? おかしい。いつもの反応と全然ちがう……。

 仮面の剣士は、よろめいた。両手で頭を抱えて、低いうめき声をもらす。

「ぐ……ぐぐぐ……」

 違う。これは、「淫夢魔法」の反応じゃない。

 まるで、強く頭を締め付けているかのような。ボクの魔法の効果が変わったか?


 と、その時、仮面の剣士はその「仮面」に手をかけた。

 苦しさのあまりか、仮面の剣士はむしり取るようにして「仮面」を地面に叩きつけた。

 長い黒髪の間から、剣士の素顔が見えた。

 あらわになった剣士の素顔を見て、クボちゃんが叫んだ。

「ああっ! その顔、おまえ! しずくちゃん? え、待って、ちょっと待って、でも男じゃん……」

「え、誰?」

 ボクがそう言うとクボちゃんは、答えた。

「あたしが日本にいた頃の剣道のライバル! でも、男だ……あっ、転移召喚勇者!」

「ええっ!? するとやっぱり元日本人?」

 ボクとクボちゃんが話をしていると、それを聞いていた剣士が頭を抱えながら言った。

「け……剣道……だと? うっ、頭が……あぁああぁあ!」

 うめきながらも、剣を握り直す。

「しずくちゃん……! その顔、その声。すこし野太いけど、しずくちゃん?」

 両手で剣を持ち、正面に構えているその姿を見ると、確かに剣道の構えに見えなくもない。剣は、両刃のロングソードではあるが……。

 立ち上がるクボちゃん。

 クボちゃんも剣道の構えをする。切っ先が今にも触れそうな緊張感。

 しかし仮面の剣士はなおも痛みに苦しむ。ぐぐぐ……。


 そんな時、少し離れたところで、空間転移術式の魔法陣が現れた。


 ――ブゥン


 先に撤退していた帝都警備隊長だ。

「なんだ、まだこいつらを始末していなかったのか。まあいい、いくぞ」

 そういうと警備隊長は、仮面の剣士の肩に手を乗せた。

 剣士は、「王国の勇者たちよ、また会うことになるだろう……」と捨て台詞を吐いた。

 再び空間転移術式を展開し始める。

 空間が歪み辺りが眩しく輝き出した。


 その時、王都の方角から激しく土煙をあげながら馬車が走ってきた。


「シノヤマさぁぁん」

(……! アリシアさんだ!)

 アリシアさんは手綱を思い切りひき馬車はドリフトしながら目の前に急停車した。

「ちっ、王都の教会の者か……」

 警備隊長は転移術式展開を急いだ。

「変身!」

 状況を把握したアリシアさんは急ぎ魔法少女に変身した。その時間わずかコンマ五秒。

 そう彼女もベルンハルトと契約をしていたので魔法少女に《《なれる》》のだ。

「ま、またサキュバスか。王都の人間は一体どうなっているんだ」

 仮面の剣士が困惑していると警備隊長は怯まず、「構うな行くぞ」と手を空に向けた。


 ――ブウン


 空間が歪み、帝国の二人は光の粒子を散らし、そして消えた。

「ああっ逃げられた。しずくちゃんめぇぇ」

 クボちゃんはあの仮面の剣士をどうやら過去の知り合いの「しずくちゃん」と確信しているようだ。

 ボクは魔法のステッキを握ったまま呆然と立ち尽くしていた。

 突然やってきて、すぐさま変身したアリシアさんは、息を切らしながらボクとクボちゃんの元に近づいた。

「ちょっと来るのが遅かったようですね。今のは帝国の人間ですね」

「はい。アリシアさんどうしてここに?」

「今王都が大変なことになっているのよ。詳しくは馬車の中で話ましょう。さ、急いで馬車に乗って」



          ―― つづく

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