32 新たな転移召喚者
古代魔法技術王国ゴンドーラ遺跡に残っていた聖女リリカさまから至急連絡が入った。新たに転移召喚者が発見されたという報告だった。
「これはまた監視対象が増えたかもしれないですわね」
「いやいやアリシアさま、もしかしたらまた私たちの仲間が増えるかもしれませんわよ? なりそこない勇者であったなら……」
「そうですわね、うふふ」
「そうですよう、うふふ」
アリシアさんは直ちにゴンドーラ遺跡に向かうことになった。話を聞いたボクとクボちゃんは現地での確認と護衛も兼ねて、遺跡に同行することになった。
レベッカさんはまだ不安定な状態のカレンちゃんを連れ回すわけにはいかないので保護を継続し、留守番。
あと最近は暇だったらしく、ベルンハルトはどこかに消えてしまったのだけれど今頃どうしているのだろう。
◯
王国内駅伝システムの充実により馬の乗り換えを数回繰り返し、翌日の昼前にはゴンドーラに到着した。
勿論砂漠地帯は馬代わりの大型獣カディールに乗り換えたが、これがなかなかタフなやつで、単騎でずっと走り続けられた。
「うへぇ、前にもまして揺れが酷い。おろろろろ……」
「クボさんごめんなさいね。急いでいたものでめちゃくちゃにカディールを走らせてしまいました。もう到着しましたので、降りてもいいですよ」
クボちゃん、なかなか慣れないみたいで、顔色が青くなっていて今にも吐きそうだ。
そのまま遺跡に設置されている探索隊ベースキャンプと考古学研究施設に顔をだした。
「リリカちゃん! シノちゃんたちが来たみたいだよ」
「あっ、アリシアさま!」
聖女リリカさんと少年執事の格好をしているベルンハルトが仲良さそうに話をしていた。いつの間にこの二人は親交を深めたのだろう。
「やぁシノちゃん久しぶりだね」
「ベルンハルト! あんたこんな所にいたんだ。もしかしてリリカさんをそそのかして魔族少女に……なーんてことはないですよね?」
「えっ嫌だなあ。僕は純粋にこの遺跡のことが気になって一緒に調査していただけだよ。相変わらずシノちゃんは失礼なやつだなぁ」
いやいやベルンハルトは油断ならない。アリシアさんまで魔族少女にしてしまった実績があるし。
◯
そして問題の転移召喚者に会わせてもらった。
男だ。今度の転移者は男だった。
というより少年? 小学生っぽさが残る中学二年くらいだろうか。寝かせられている。
というのも発見当時かなり興奮していて、手が付けられないほどに暴れたらしい。今はリリカさんの鎮静魔法で眠らされている。
今回もまた王都から西の深い森の中の街道で素っ裸で発見されたらしい。
◯
その時、遺跡ベースキャンプと研究施設の近隣を巡回警備していた王国の警備隊の一人が報告にきた。
「報告します! また新たに森の中で転移召喚者が発見されたとのことです。現在、こちらに向けて護送中であります」
「なんですって!?」
アリシアさんが白目を向いて驚きの声をあげた。
「おかしいですわね。ここんところ王都の大聖堂では転移召喚魔法は使われていない筈なのだけれど、こう立て続けに近い座標で転移召喚者が見つかるというのは――」
「ところでその発見された転移召喚者というのは女性でしょうか男性でしょうか」
「女性です。と、いうよりは少女といったところでしょうか。先日発見された少年と同じ年頃と思われます」
「これは気になりますね」
◯
夕方、新たに発見された少女がベースキャンプに到着した。
「あなたが森の中で裸で保護された少女ですね」
「やめてくれ、はだか裸っておまえたちは。まずは服くらいくれよ」
「……!」
荒っぽい少女だ……。これは性別反転した元少年か?
そして、リリカさんの魔法により寝かされていた少年が目を冷ました。
「……ここは……。あっ、タケルくん! タケルくんじゃない。ってあれ? なんだか女の子っぽい?」
「ああっ、おまえもしかしてカガミンか? てゆうか男子?」
どうやらこの二人、知り合いのようだ。しかも性別反転している。新たな転移召喚勇者の誕生だ。カガミンとはニックネームで、鏡の子と書いて鏡子だそうだ。
「これは……すぐにでも王都に戻ってセンターギルドで検査をしなくてはいけませんね」
「一体どうなってるのでしょう、アリシアさま。王都では確かにここしばらくは転移召喚魔法は使われてないのですよね?」
「少なくとも私の知る限りでは、実行されていないはずです」
「するとやはり……」
「ええ、森の中でなにかが起きているのかもしれない。それとも帝国の関与が……」
「えらいこっちゃ、これは戦争の予感!」
ベルンハルトがあたりをぐるぐる歩き回り、そわそわしている。
「めったなことをいうもんじゃありません! めっ! ですよ」
「リリカちゃん、ごめんよお」
なんだこの二人は……。妙に仲がいいなぁ?
ここまで付いてきておいて今更なのだけれど、今回ボクは必要はなかったのではなかろうか。森久保先輩の情報が入るのを王都で待っているべきだったと思った。
―― つづく




