31 可憐ちゃん
異世界転移勇者シノヤマは余命半年の《《元男子》》高校生だった。
余命が残っているうちに、先に転移したはずの森久保先輩を探しているが未だ見つからない。噂や、それっぽい人の発見連絡を受けては現地に赴くも別人だった。
そんなことをしているうちに時間ばかりがすぎていく。
王都に帰還してからこちら、驚くことの連続だった。あれから一ヶ月近くが過ぎようとしていたが、新規に編成された探索パーティからは特になんの連絡もない状態だ。
――シノヤマの余命は残り三ヶ月を切った
西の森林地帯で全裸で発見され、ゴンドーラ探索隊のパーティに参加していた黒髪の女性、最初は森久保先輩ではないか? との話もあったが、実際に会って確認すると別人だった。
ただ異世界転移召喚された元日本人であることは間違いないようだが、名前などの一部の記憶が欠落していて、不明な点が多い。
どうやら転移前も後も女性っぽいので、これは「なりそこない勇者」と思われる。
王都に戻ってからすぐにセンターギルドに行き、受付嬢のアリサさんにレベル測定と、魔法属性の適正を検査してもらった。
やはり特にスキルが付与された様子もなく、ごく普通の女の子だった。
◯
聖女さまたちはこの間の遺跡探索で捉えたアタランテ兵に尋問をしたり、情報収集など色々と忙しいようだ。
ここのところ大聖堂への呼び出しもギルドでのクエスト消化依頼もないので、ボクら転移組シノヤマ、クボ、カレンは暇である。
日がな一日王都の中央広場の噴水を眺めたり退屈この上ない。
明るく元気なクボちゃん(久保のり子十七歳)は、唐突に提案してきた。
「カレンちゃん、中央広場の反対側にステキなテラスのカフェがあるの。一緒にお茶しない?」
「えっ、カフェなんてあるんですか? 行ってみたいです。でも私、お金持ってなくって」
「いいわよぉ。お金なら前に港町で討伐した魔物の魔石を換金したからいくらでもあるのよ。だから奢るわよ」
「そうですか。それじゃあ行きましょうか」
「シノちゃんも行くよね?」
「えっ、ボクもいいんですか? なんだか女子会の邪魔をするみたいで気が引けるなあ」
「なーに言ってんのよ。こんなに可愛い女の子のくせに」
「ちょっクボちゃん、やめてくださいよ」
髪をくしゃくしゃとかき乱す。ボクはよく人から髪をいじられるのだけれど、しやすいキャラなのかなぁ。
「んーなんだか混乱しますね。クボさんが中身女の子で、シノさんが男の子なんですよね?」
あまりそういう話をしていなかったが、カレンちゃんもさすがに気になるようだ。
「そーなのよ。こっちの世界に来た時に男の子になっちゃったの。シノちゃんは女の子に――」
「私は女の子のまま……なんですよね。聖女さまたちは私の事を『なりそこない勇者』とか言ってましたけど、まだよく分からなくって」
「まぁその辺の話もお茶飲みながら、ね?」
「うん」
特にする事もない暇なボクらなので、のんびりおしゃべりをしながら向かいのカフェに行った。
◯
その頃、大聖堂にいた聖女のアリシアさんとレベッカさんは可憐さんの今後について相談をしていた。
「さて、今回発見された転移召喚者の可憐さん(仮名)の件ですが――」
「記憶の一部が欠落しているのは珍しいケースですね。私もレベッカさまも、特別なスキルがなく『なりそこない勇者』となったわけですけど」
「ええ、まさかこんなにもなりそこないが多いとはね」
「ただ計算が合わないんですよね。王国が転移召喚をした人数と元日本人の数が」
「やはり帝国側が……アリシアさん帝国に捕らえられてた時に何か分かりましたか?」
「私が見たところ他にも転移勇者があちらで幽閉しているような口ぶりだったように思いました。ただシノヤマさんが警備隊の男から何かを聞かされている可能性はありそうなのですが」
「帝国は一体なにをしようとしているのか。探りを入れたいところですわね。ところでアリシアさん、ゴンドーラ遺跡で捕らえた例の甲冑兵から何か聞き出せましたか?」
「ダメね、魔法少女シノちゃんの淫夢魔法ですっかりおかしくなっちゃって、女の子の身体のことで頭の中が一杯になってしまっているのよ。尋問中も気持ち悪い視線で私の胸元やら尻ばかり、ぼーっと見つめてるの」
「はぁ、アリシアさんが担当したアタランテ兵もですか。こちらも同じ感じでした。隙あらばケツを撫で回すんですよ。気持ち悪いったら」
「はぁ……」
「ふぅ……」
◯
いち早く情報収集及び分析をする為、王国教会は領土内各地の駅伝馬車を更に高度化、駅の追加を実施した。高速駅伝による情報通信網の充実である。
これにより、王国の端から端まで半日から一日もあれば文書の連絡が可能となった。
「聖女アリシアさま、いらっしゃいますか」
駅伝配達人が大聖堂にやってきた。息を切らしている。相当いそぎの連絡だろうか。
「はい。私です」
「遺跡探索隊の聖女リリカさまより至急信書です」
探索隊から何か発見の報告だろうか。
―― つづく




