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30 先輩

 見た目は魔族少女なのだが、ベルンハルトは魔法少女と言い張るのでそれに合わせよう。


 魔法少女シノちゃんの魔法が発動した。

 手にした魔法のステッキからピンク色の妖しい煙が漂いだし、アタランタ兵たちに向かって飛んでいった。


「ダメ! そんなのんびりふわふわ向かっていくような呑気な魔法じゃ間に合わない」

 魔法少女アリシアちゃんはそういうと魔法のステッキを振りかざし魔法を発動させた。


「ええい! 溢れんばかりの正義の心に呼応して我がうえの試練の嵐よ吹き荒れよ。サンダーストームッ!」


 まだ慣れないのか、無詠唱でよいのにそれっぽい言葉で魔法を発動させた。


 すると黄色の眩しい(イカヅチ)が敵兵の頭上で炸裂。彼らが展開していた空間転移術式が消滅したようだ。


「ぎゃあああああああ」

 魔法少女アリシアちゃんの魔法の恐るべし攻撃力。屈強な甲冑兵が悶え苦しんで転がっている。そして……。


 ボクの放ったピンク色の妖しい淫夢魔法がやっと敵兵たちに到達。

「うへへへぇぇぇぇ、あっ、ああっ、あああああ」


 相変わらずボクの淫夢魔法は効果が気持ち悪い……。


 残るは警備隊の制服の男だが魔法が効いていない?


「ヴゥン」

 再び空間転移術式を展開した。徐々に集まる青白い光粒子。渦を巻きながら次第に魔法陣のようなものに代わり遂に空間転移が発動。


 シャキィーン


 耳をつんざく高い音と共に警備隊の男はその場から消えた。よほど急いでいたのか黒髪の女性は縛ったままで置いていった。




 苦しみ悶えている甲冑兵を横目に、黒髪の女性に駆け寄った。


「こっちは私にまかせたまえ」

 金髪リーダーは器用に甲冑兵を縛り上げた。


 聖女の二人が黒髪の女性に近づく。

「大丈夫ですか」

「あなたたちは……」


 ボクも近寄って黒髪の女性を確認した。

「違う……森久保先輩じゃない」

 背格好は多少似てはいるものの、顔の造形が違う。


 まず目だ。二重でとても目が大きい。そして右目の下に泣きぼくろ。耳も少し外向きで大きい。


「記憶が一部欠落しているのが痛いですわね。とりあえず『なりそこない勇者』なのは間違いなさそうなのだけれど」

 レベッカさんは、発見当初からしばらく一緒にいたので、見た目と中身も女性であると判断している。


「金髪リーダーも頼りないし、これは一旦王都に戻って、この女性を保護することにしましょう」

 まさかこんなに冒険者パーティのリーダーが当てにならないとは、アリシアさんもがっかり。


「――変身解除!」

 ボクとアリシアさんは、当面の脅威が去ったのを確認し、魔法少女の姿からいつもの旅のスタイルに戻った。 




「ダンジョンの最深部のあの空間は気になるところだし、第十階層の異質な雰囲気も気になりますわね。ツルツルの金属に囲まれたあの迷宮は、何かまだ解明されていない秘密がありそうなのよねえ」


「アリシアさん! ボクもそう思います。異世界人の考古学者や魔道士には気が付かない何かがあるかもしれない。あの金属の壁とか隠し部屋があっても多分気が付いていないんですよ」


「それに、なぜこんなところにアタランテ帝国の軍人が居たのかが気になるのよね」

「そうですね、アリシアさま、ふふふ」


 聖女の二人が不穏な笑みを浮かべている。


「この遺跡にある何かを知って調査にきていた可能性もありそうだし……王都まで連行して尋問しなくてはいけませんわね……ふふふ」


 ボクらは話し合いをした結果、まずはダンジョンの外の遺跡のベースキャンプまで戻ることになった。アタランテ兵の甲冑が重い。素っ裸に剥いてから運ぼう。


   *


 全員で探索隊ベースキャンプに戻ったあと、焚き火を囲い夕食を取りながら今後の方針を相談した。


「まずはこの黒髪の女性の保護が最優先ですわね。王都に連れてゆきましょう。そして……」

 アリシアさん、そしてレベッカさんが概ね方針を決めて、皆も特に反対することもなく頷いていた。


 1)森久保先輩ではなかった黒髪の女性の王都での保護。

 2)アタランテ兵を王都まで連行して尋問。

 3)冒険者パーティの金髪リーダーが使えないので、帰還。そして探索隊の解散。

 4)皆で王都へ帰還。


 帰還はするも、ダンジョン第十階層にはまだ多くの秘密があると見て、新たに探索隊と恒常的な研究機関を組織し、オアシスに王都付属の研究都市を建設する打診をすることになった。


 建設といっても最初のうちはベースキャンプを大きくする位だろう。とにかく帝国側に、ここを荒らされてはかなわないのと、ボクの余命をなんとかする研究を早急に再開したいらしい。


 古代魔法技術遺跡の遺物探索は王国にとっても、転移召喚勇者の監視業務をしている聖女たちにも重要なことだとか。




 ところで森久保先輩ではなかった黒髪の女性についてだけど、皆で相談した結果、『可憐ちゃん』と呼ぶことになった。


 なぜ可憐ちゃんかって? クボちゃんが開口一番、「だって、記憶喪失で黒いロングヘアだなんて、可憐って感じしない?」だそうだ。



 ―― ボクの余命は四ヶ月を切っていた



          ―― 第三章 完 ――

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