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プロローグ(後編)

 何も見えない。いや、何も無いのか。


 ただ何も無い白い空間が広がっていた。上も下もない。ただ自分がそこに「在る」だけの状態。


 そういえば目を閉じているという感覚と身体の感覚、心臓の動きと血液がどくんどくんと流れているのを感じる。



 僕は恐る恐る目を開けてみた。



 するとそこは薄暗い建物の中のようだ。少し埃っぽく、なんだか空気が澱んでいる。


 線香、いや、これはアロマオイルの類いだろうか。少しむせかえるような強い香りがする。


 僕は冷たい大理石敷きのような床の上に仰向けで横になっていた。



「⋯⋯!」



 ここは何処だ? 学校の屋上じゃない。

 それと何? なんで裸になっているんだ。

 あれ? 股間に違和感がある。いや、あるじゃない。ないよ!?


 それになんだか胸がふっくらぷるぷるしている。おっぱいじゃねーかあああ。


 もしかして僕、女の子になっている? どういうこと?




「おお、召喚魔法が成功したようだ」


 何やら訳の分からないことを言いながら、長い白ひげのじいさんがこちらに近づいてきた。


 ええっ、まってまって。いま僕ハダカなんですけど。

 布切れ一枚無いので手で股間と胸を必死で隠した。


 周りがなんだかザワザワしている。


 周りを見渡してみると大勢の人が僕の方に視線をむけている。


 注目されている!?


 ぺたんこ座りで床にへたりこんでいると、一人の十五、六歳くらいの女の子が近づいてきた。


「あなたは転移魔法により、異世界からこちらの世界に召喚されてきました」

「ええっ? 異世界⋯⋯ですか?」


 異世界ってあの、ライトノベルとかでよく行くあの?



   ◯ 三人の転移勇者



「そうです。来るべき魔族との戦いに備えて《《あなたがた》》を召喚しました」

「いま、あなたがたと言いました?」


「えぇ、そうです。三人の異世界勇者を召喚したのですが⋯⋯」

「そ、それじゃあ長い黒髪の長身の女性は⋯⋯」


 やっぱり先輩もあの光で、ここに呼ばれたんだ。


「それが我々の召喚術式に少し不具合が出たようで、最初の一人は運悪く、大聖堂の壁にめり込んだ状態で召喚されてしまいまして……その、身体が真っ二つに裂けて……召喚直後に絶命しました」


「そんな……」


「もう一人は、どうやら隣国の帝国内に出現したらしく、近頃冒険者たちの間で噂になっているようです」

「え? ちょっとまって、昨日召喚したのでは?」


「昨日? いえ、我々の召喚術式構築には一人あたり一ヶ月は準備がかかるので、そのもう一人の『男性』は、もうかれこれ一ヶ月前にこの世界に召喚されました。最初の一人目は、二ヶ月前の話になります。『女性』でした」


 どうやら日本とこの異世界では時間の流れが違うようだ。


「そんな……モリクボ先輩……」

「いや、ちょっとまってください? そのモリクポゥさんというのは、あちらでは女性だったのですか?」


「は? そうですが?」


「なら、安心してください。きっと一ヶ月前に召喚されてきた『男性』は、そのモリクポォさんに違いありません」


「言ってることがよくわからないのですが」


「はい。実は転移召喚する際に、性別が反転してこちらの世界に出現するんです。どういうわけか。まれに同じ性別のまま出現される場合もありますが、その場合スキルが凡庸すぎて、並の冒険者以下のクラスになってしまいますので、早晩野垂れ死にます」


「いや、野垂れ死にって……。それよりモリクボ先輩が『男性』としてこっちに来ているんですか? 今から会えないですか?」

「今すぐというのは難しいのですが、ギルドに行って登録をして冒険者として帝国内に入る事は可能かと思います」


 モリクボ先輩は無事だった。それだけでも知ることが出来てよかった。生きてさえいればいつか会える。


「彼女⋯⋯いや彼は帝国内どころか、こちらの王国内にもその勇姿を轟かせている剣聖の勇者さまにおなりになられているので、多分近いうちに再会することも可能でしょう。なのでご安心ください」


「ところであなたは?」


「大変失礼いたしました。申し遅れましたが、私は今後あなたをサポート及び冒険者として同行させていただく聖女アリシアと申します」


「アリシアさんですね。よろしく。ところで⋯⋯」


「ああっ、すみません、すっぽんぽんでしたね。すぐに服を用意させていただきますね。さすがに股間丸出しはいけませんね。ふふ、それにしても毛深いですね」


「やめて」




「まずは魔法使いらしい冒険者用の服と装備を用意させて頂きます」

「はい、お願いします」


「その後、王都内最大のセンターギルドにご案内します。登録をしていただけましたら、あとはあなたの気の向くままに行動してくださってかまいません。それが魔族との戦いの前に出来る最善の方法になります」


「行き先は運命が導いてくれるでしょう。ただし私も同行しますが、行き先についての指示も口出しもいたしません。アドバイスくらいはしますが」


「まずは魔法になれておいてください。そしていつでも魔族と戦える準備を整えてください」


「ところで僕は元いた世界では病気で余命半年と言われていたのですが⋯⋯なのであまりのんびりしている訳には」

「な、なんですってえええええ?」


「一体どうしたって言うんですアリシアさん」

「ちょっと待ってください。教会に行って大司教さまと相談して来ます。あなたはここでしばらく待っていてください。あ、少しばかりですが金貨を渡しますのでお腹がすきましたら食堂なにか食べていてください、では!」


 そういうとアリシアさんは、大急ぎでギルドを飛び出して行った。ほんとにのんびりしている場合じゃないんだけどなぁ。



 ——残された時間は、あと五ヶ月と二十九日

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