僕の知らない少女
ー次の日ー
俺の頬に変な刺激が走る。目を開ける。古音が俺の頬をつついていた。
「お、おぉ…もう起きていたのか。」
ゆっくり上半身を起こす。
「そふぁーっやつ最高だった」
寝癖でボサボサ頭のままニッと笑う。
「そうか。それは良かったな」
つられて俺も笑う。
「さて。朝ご飯にしよう。」
「アサゴハン?」
「あぁ。知らないのか?朝に食べるご飯のことだ。お腹空いただろ?」
そう言いながら炊飯器の蓋を開ける。
「やぁしまった」
昨晩お米を炊くのを忘れていた。なんとか冷凍してあるやつを使おう。ストックされたお米を電子レンジの中に放り込む。3分を設定してスタートボタンを押す。懐かしいピーと言う音がする。と、同時に古音が驚く。
「あぁ驚かせてごめん。電子レンジの音だ。」
古音が寄ってくる。
「へぇぇ〜」
こいう声が漏れる。古音がレンジを見ている間にソーセージを用意する。朝ご飯には欠かせないアイテムだ。お米とソーセージと、あとスクランブルエッグを用意する。
「さぁ召し上がれ」
「こ、このワタみたいなのはなんだ?」
「ん?これはワタじゃなくてお米だ。日本の主食だよ。」
箸の使い方をレクチャーする。しかしまだ慣れていないようで結局スプーンに変えた。古音がお米をすくう。口に運ぶ。
「お…美味しい…」
スプーンを落とし、手で夢中で食べ始める。
「気に入ったか。良かった。よく、噛んで食べるんだよ。」
次にソーセージを食べる。
「この指みたいなのも美味しいな」
「ソーセージな」
次に スクランブルエッグを口に入れる。
「このぐちゃぐちゃのも美味しい!!」
「スクランブルエッグな」
「す、すくれんぐるえっぐ?」
「ス、ク、ラ、ン、ブ、ル、エッ、グ」
「すくらんぶるえっぐ」
可愛い名前だなと言いながら食べ始める。温かい目で見守る。あ、そうだ。明日やるって言っていた資料まだだった。よし。こいつ(正解 古音)との信頼感UPのために今日は休もう。(その間に資料も作ってしまおう)
「古音が通う学校も探さなくちゃな。」
「がっこう?」
「そうだ。お勉強して賢くなるんだ。格好いいぞ〜」
「へぇー。興味ない。」
こいつ何に興味あるんだ?
着替え、歯磨き、片付けが終わり、ひとまず仕事をやる。
「え、えぇ…」
ページを開いた瞬間、やる気がなくなる。こういうやる気って、終わる寸前にしか来ないからな…。
と、急に背中に重みを感じる。古音が乗ってきたのだ。
「どうしたんだい?」
「何してんの?」
「仕事だよ。今日中にこの資料を完成させなくちゃいけないんだ。1週間後の演説で使うんだ。」
「大人は大変だな。」
とはいえ、背中に乗ってくるなんて、甘えん坊さんだな。
1時間後。なんとか資料を作り終える。次は学校探しだ。なかなかいいのが見つからない。こういうのはもう本人に決めてもらおう。
「どこがいいか?」
即答でここと指さす。制服で決めたな。ま、いいか。ええと?転校の段取りは?転入届が必要か…後でいいや。
「古音。どこか行こう。」
「どこかって、どこ」
「そうだな…イヨンモールなんてどうだ?」
「どこ」
まあいいからと言いながら車に乗せる。
「イヨンは楽しいぞ。雑貨、ゲーセン、服…まぁとかとか。古音もファッション楽しみたいだろ?」
「ふぁっしょん?」
「お洋服だ」
「へぇぇ〜」
なんだよぉ。駐車場埋まっちまってるじゃんか。どこか止める場所あるかなぁ…
「止める所無いのか?」
「あぁ。どこかにないかな…」
「あそこはどうだ?」
「あそこは妊婦さん専用だ。」
「じゃ、あそこは?」
「あそこは体が不自由な人専用だ。」
少し走り回って、なんとか空きを見つける。
「どうだ?大きいだろ?」
大きくそびえ立つイヨンをみあげる古音。あまりの大きさにあっけにとられる。
「でっかい…」
「よし行こうぜ!!」
中に入るなり地図を手に取る。
「どこから行きたい?」
「どこでも。安全な場所。」
周りに人ばっかりで、少し警戒しているようだ。
「じゃあ雑貨屋へ行こう。何か気に入るキーホルダーがあるかもしれないぞ?」
雑貨屋に向かう。店の中に入るとクマのキーホルダーが目に入った。
「これなんかどうだ?」
「なんだコレ」
「くまさんだ。可愛いだろ。」
「へぇぇ〜」
「よし買ってやろう。あ?680円?なんだなんだ。最近は高いなぁ。」
そう言いながらレジへと向かう。
「ほら。これは古音のだぞ」
手渡しでキーホルダーを古音にやる。
「私の…?」
「そうだぞ?お前だけの物だ。」
次はアイスクリームを売るサーティーツーに行く。
「何味がいい?」
「なにこれ」
古音はアイスを初めて見るようだ。
「おいしいぞ。何でも好きなのを言うといい。」
「このばにらってやつが気になる。」
「バニラか。定番のやつだな。」
定員にバニラとレインボーシャーベットってのやつを注文する。
「なんだその可愛い色の玉。」
「レインボーシャーベットって言うんだ。少し食べてみるか?」
古音のバニラの上に、レインボーシャーベットを乗っける。古音が口に運ぶ。
「うっ。冷たっ」
こういう冷たい、アイスは初めて食べるようだ。
「甘いだろう」
「うん。」
最初は気が進まなかったが、なんかこう、女の子のいる日常も悪くない。このままでいいや。いや、このままがいいな…アイスをゆっくり食べる古音を見ながらそう考える。
その後は、ファッションセンターに行った。どんな服でも可愛く見えて驚いた。なんてったってメンズすら着こなすから。ゲーセンでは、古音が景品を100円で取るものだから驚いた。
帰り道。時はもう6時を回っていた。
「古音眠いか?」
「まだ。全然。」
「そうか良かった。これから楽しいことがあるぞ。」
家に帰るなり、2人で庭に出る。バケツに水を入れる。
「何が始まるんだ?」
「まあ見てろって。」
大きな袋から一つの棒を取り出す。ろうそくに火を付ける。その火を、今度は棒に付ける。シュボッと言う音とともに燃える棒。花火だ。
「どうた?きれいだろ?」
それでも古音は「キャッ」と言い俺の後ろに隠れる。
「おぉ。びっくりしたな。ごめんごめん。先に言っておくべきだった。」
「違う。私、火、怖い。」
「え?」と声を出す俺に古音は説明した。
「よくお母さんが私の着ている服に火を付けて遊んでたの…私が嫌がる姿を見て笑ってて…」
まさかそんなことがあったなんて。
「大丈夫だ。俺は古音に火をつけんことなんてしないよ。」
「本当に?」
「あぁ」
でも怖がるようなら中断だ。残りの花火を袋にしまい、部屋に戻る。
「さぁ今日買ったかパジャマを着て寝よう。」
そう言って古音にパジャマを渡す。パジャマに着替え、古音はソファーで眠った。
ここからが俺の時間だ。冷蔵庫の中にあるビールを一般取り出す。開ける。
「くぅー!!たまんないね!!」
机の近くに座り、ビールを飲む。やなり一日の終わりはこれだな。ビールの味を全身で感じるようだった。