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第1話 異世界中学校サッカー部、練習試合開幕!

 教室の窓から見えるフィールドには、血と土にまみれた戦士たちが、すでに剣と魔法の準備を整えていた――。




第1話 異世界中学校サッカー部、練習試合開幕!

 金属の鎧がぶつかり合う音が、朝の校庭に響いている。

 ここは辺境の小さな中学校――正式名称《王国辺境第七中等教育機関》。

 だが、サッカーの時間だけは、この校庭は血の匂いがする戦場と化す。


 「おい健斗! お前、今日は前線に張り付けよ!」


 「はいっ!」


 掛け声に応える声は、誰よりも澄んでいるが、その背中には無数の刀傷が刻まれている。

 赤沢健斗――転生者、そして辺境サッカー部の『盗賊』フォワードだ。


 (練習試合……異世界で、初めての公式戦……!)


 グラウンドの中央には、すでに相手チームが陣形を組んでいた。

 全員が魔法防御のローブを羽織り、杖を突き立て、呪文を小声で唱えている。

 中央の一人だけが違っていた。

 白銀のローブをまとい、蒼い瞳をこちらに向けて、微笑む少年――


 トマトッツ・フェルガード

 中学サッカー界において、若き魔法使いとして頂点に立つ天才だ。


 「なるほど……君が、噂の転生者か。」


 トマトッツが、健斗を一瞥しただけで冷たい声を投げた。


 「そんな盗賊紛いの職業で、僕に挑む気? 無駄だよ。」


 周りの仲間たちがどっと笑う。

 だが、健斗は笑わない。ただゆっくりと足元のボールに触れる。


 (魔法使いだろうが何だろうが、関係ない。俺のサッカーを見せるだけだ。)


 審判役の教師が、空に向かって魔法の花火を打ち上げた。

 次の瞬間――


 「――キックオフ!!」


 爆発音と共に、戦いが始まった。


 前線に飛び出す健斗。

 相手の魔法使いが杖を向け、火球を生成する。その魔法弾をギリギリでステップを刻んで回避。

 背後から重騎士が突進してくる。盗賊のスキル《影抜き》を使い、影のように背後を取ってボールを奪う。


 (ローナルド……! あんたの教え、全部ここで出し切る!)


 ゴールまであと30メートル。

 だがその前に――立ちはだかるのは、蒼い瞳の魔法使い。


 「――来いよ、異世界人。」


 トマトッツが、片手で雷を纏わせながら笑った。


 「俺のサッカー、止めてみろッ!!」


 雷光と剣戟が交わるフィールド。

 血と魔法の練習試合が、いま――開幕した。


 雷鳴がフィールドを引き裂く。

 放たれた電撃が健斗の足元を狙うが、彼は寸前でスライディングし、ボールを足裏で跳ね上げた。


 「おおおおおおおっ!!」


 火花が背中をかすめ、鎧の一部を焦がす。

 それでも、目の前のゴールはぶれない。

 だが次の瞬間、トマトッツが消えた――否、瞬間移動テレポートか!?


 「速い……!」


 気づいた時には、トマトッツがすでに健斗の真横にいた。

 白銀の杖が閃き、雷の槍が作られる。


 「――終わりだ、転生者!」


 (終わらない……! 終わらせない!)


 心の奥で誰かが囁いた。

 ローナルドの声だ。


 『速さは武器だ。迷ったら走れ。お前の体を信じろ!』


 咄嗟に盗賊スキル《瞬歩》を発動。

 空間を裂くように一歩を踏み込み、雷の槍をかわすと同時に、トマトッツの懐へ突っ込んだ。


 驚愕の表情を見た。


 「――なっ……!」


 至近距離。

 健斗の右足がしなる。


 「うおおおおおおっ!!」


 トマトッツの杖を蹴り飛ばし、ボールをトラップ、そしてフルスイングのシュート――


 雷光が追いすがるが、彼の足から放たれたボールは、すべてを断ち切った。


 ズドンッ!!


 轟音と共にゴールネットが裂けた。


 しん、と世界が静まり返った。

 観客の一人が悲鳴のような歓声を上げる。


 「一点……取った……!」


 審判が笛を吹く。

 同時に、健斗の膝が崩れ落ちた。


 (はは……足が、もう……動かねぇ……)


 だが、耳にはちゃんと届いていた。

 目の前でトマトッツが、悔しそうに唇を噛み、そして――笑った。


 「……面白いよ、君。」


 手を差し出してきた。

 雷を纏っていない、ただの少年の手だ。


 「君のサッカー、少し気に入った。」


 血と魔法の異世界サッカー。

 健斗の物語は、ここからようやく始まったばかりだ。


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