表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/27

プロローグ  ――サッカーは戦争だ。

ボールを蹴る音。スタジアムに響く歓声。ゴールネットを揺らす快感。

 そのすべてが、赤沢健斗あかざわけんとにとっての生きる意味だった。


 中学サッカー部のエースストライカーとして、全国優勝を夢見ていたあの日。

 雨が降りしきる決勝戦、雷鳴とともに落ちてきた閃光が、すべてを奪い去った。


 ――目を覚ましたとき、そこは血と土の匂いがする戦場だった。


 荒れ果てた大地に無数の武装兵。剣と盾を構える騎士。杖を掲げ呪文を唱える魔法使い。空を駆ける騎竜兵の群れ。

 そして、その中心に――巨大な革のボールが転がっていた。


 「……ここは、どこだ……?」


 混乱する健斗を取り囲む甲冑の男たちが、声を上げる。


 「貴様が新たな転生者か! 救世のストライカーと聞いている!」

 「王国のサッカー部隊に入れ! すべてはゴールのために!」


 剣と魔法が飛び交う戦場で、血の臭いにまみれながら、ボールを追いかける。

 それが、この世界のサッカーだった。


 殺し合いの果てにゴールを奪い、国を制す。

 サッカーがすべてを決める――そんな狂った世界。


 与えられた称号は『救世のストライカー』。

 だが、現実は無情だった。

 戦場でボールを追えば斬られ、盾を抜ければ矢が飛び、魔法に焼かれ、倒れ、そして僧侶の蘇生魔法で生き返る。


 何度死んでも結果は出せず。

 裏切りの声が飛び交い、栄光の称号は『無能な外れ者』に変わった。


 ――そして、健斗は辺境へ捨てられた。


 だが、ここで終わるわけがない。

 荒野にひとり、ボールを抱えて立つ健斗の前に、一人の男が現れる。


 「サッカーを、教えてやろう。」


 かつて王国最強と謳われた伝説のストライカー――ローナルド。

 血の匂いをまとったその笑みが、健斗の胸に火を灯す。


 ――もう一度、蹴りあげてみせる。この命を賭けてでも。


 剣と魔法の世界で、俺のゴールを奪い返す――!



 ローナルドの元での修行は、地獄のようだった。

 剣を持った相手を正面からかわすステップ、魔法弾を見切る視力と反射神経、奪ったボールを守り切るための盗賊の身のこなし――


 「お前が求めるゴールは、血と骨の向こう側にしかない。死ぬ気で生きろ、健斗。」


 何度倒れても、ローナルドは笑ってボールを投げてきた。

 何度死んでも、立ち上がった。

 足は泥と血にまみれ、心は熱く、確かにあの日のフィールドを思い出させてくれた。


 そして――

 新しい中学校への転校が決まった。

 『盗賊』としての職業を得た健斗は、辺境の中学サッカー部に所属し、再びユニフォームに袖を通す。


 しかし、異世界人というだけで、そこには冷たい視線と拒絶の壁があった。


 (それでも……俺はもう負けない。)


 ローナルド直伝の動きを武器に、誰よりも速く走り、誰よりも貪欲にゴールを狙う。

 次第に、仲間の目が変わっていくのを、健斗は感じていた。


 そんなある日――

 近隣の中学校から、練習試合の申し込みが届いた。


 その学校には、中学サッカー界最強の呼び声高い魔法使い――トマトッツがいるという。


 高慢で傲慢で、何より絶対的な実力を持つエース。

 彼の前に立つ時が来た。


 「来いよ、トマトッツ。俺のサッカー、見せてやる。」


 ――ここからが本当の戦争だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ