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魔族への因縁 1

第七話 魔族への因縁①

「・・・・・・これで二人か・・・・・・」

 男は静かにそう呟いた。その声には感情は籠もっていない。彼の名前は、フランリュー・フランジェ。水素爆発「エクスイドロ」の使い手だ。数年前、彼の兄は魔王軍に寝返ったのだ。

・・・・・・幹部まで上り詰めたらしいが、現在の安否は分かっていない。あんなクソ兄貴、もう死んでればいいのに。アイツのせいで、俺達家族がどんなに苦労したか!

 よく考えたら、悲惨な過去だった。働き者だった兄貴がいなくなったことで、家計は大きく打撃を受けた。母子家庭だったので、何よりも、二人では寂しかった。そして、彼の願いはただ一つ。ソンブルヴァレで強く、偉い魔法使いになり、親孝行をし、兄に報復することである。今まさに、その第一歩を踏み出そうとしているのである。

「全員倒してリュミエールに・・・・・・」

「『アズリーヌ』」

「!!」

 聞いたことのある魔法と共に、俺をめがけて蒼い炎が飛び込んできた。避けきれず、俺に直撃した。

・・・・・・これは。

 この魔法は、俺の記憶が正しければ、兄であるブルンのものだったはずだ。ということは、ブルンがこの会場にいるのか。

・・・・・・あぁ、やはりそうだ。

 彼の目の前には、白に近い灰色のローブを被った人物が立っていた。正体を隠したつもりだろうが、使用する魔法でバレバレだ。

・・・・・・殺すな、と言われたが・・・・・・。駄目だ。

 俺はこの入学試験に合格し、リュミエールに入ることよりも最優先事項を見つけた。


・・・・・・うわ。顔怖っ!

 俺の目の前には明らかに機嫌の悪そうな勇ましい人物が立っている。攻撃が直撃したはずだが、ほとんど無傷である。

・・・・・・なぜこうなった。一旦状況を整理しよう。

 まず、俺は絶対に人を倒すことをやめようと決意した所、近くの大規模な爆発を目撃した。どんな魔法かと近寄ってみると、その勇ましい男が参加者を倒しているのを発見。対魔族でなければ、絶対平和主義の俺は、顔色一つ変えず躊躇なく参加者を落としていく彼にカッチーンときたのでいっちょ「アズリーヌ」。

・・・・・・うん、百パーセント俺が悪いね!人を攻撃するのは良くないよね!

 自分からも言っておこう。絶対平和主義は撤回しろよ。

「・・・・・・貴様、家族を見捨ててノコノコとリュミエールの入学試験に、か。随分と脳天気なやつだな」

・・・・・・はて?何のことかしら?

 一応言っておくが、俺は一人っ子であり、こんなやつ知らん。誰やねん。

「はて?何のことかしら?」

 今も少しムカついているので、心のなかで思ったことを口で復唱。

「・・・・・・自分の行った過ちも覚えていないとは、なんと愚かな。・・・・・・フランリュー・ブルン。お前の弟がお前を成敗してやる」

・・・・・・フランリュー・ブルン?なんか聞いたことあるn・・・・・・。あ!ブルンだ!「アズリーヌ」のブルンじゃないか?

 俺は魔族収容所での会話を思い出した。

「・・・・・・強いて言うならば、弟に会って仲直りがしたい。喧嘩別れしてしまったからな」

・・・・・・こいつがブルンの弟なのか・・・・・・?確かに似てなくもないが・・・・・・。

「思い出したか?自分の愚かさを!」

・・・・・・思い出したよ。自分の記憶を。

「だから貴様はここでくたばれ!」

・・・・・・なんで?

 俺にはわからない。なぜ勇者シリル様がブルンと間違えられるのか。あ、そうか。ローブ被ってんのか俺。

・・・・・・ってことは、「アズリーヌ」以外の魔法を見せればいいってことか?

「『エクスイドロ』!」

「うぉっ!」

 俺が長考していると、殺意の塊と言う名の爆発が飛んできた。それを俺は間一髪で躱す。

・・・・・・見ているときも思ったけど、威力強いなこれ!

 危険を察知!&シリルくんの反撃だー!

「『アクアカッター』」

「な!?」

 俺は、覚え立てホヤホヤのアクアカッターを出現させた。勇ましい男は知らない魔法が出てきて、動揺しているようだ。だが俺は躊躇せずに技を繰り出した。

「『コラール・デ・プラフ』ウィズ『イドロジェ』!」

 コラール・デ・プラフは、雨のように細かい、鋭い斬撃を出す勇者の技だが、イドロジェと共に繰り出すことにより、威力がアップする。水素爆発にも相性はいいはずだ。

「ぐあああああああああ」

 動揺しているのに、魔王を倒した勇者の大きく素早い斬撃を避けられるわけがない。もちろん直撃だ。・・・・・・安心してほしい。実際の勇者の剣ではないので、直撃ダメージは皆無!吹き飛ばされるだけだ。ただ、吹き飛ばされたときの衝撃ダメージは有る。死なない程度だから安心しろ。

・・・・・・ん?待てよ。勇者の技って使って良かったんだっけ?


「お、起きたか?」

 ローブを着た男の声が聞こえた。明らかに俺の記憶の中の兄貴のものとは違う。魔法もそうだ。いくつか持っているに違いない。

・・・・・・俺は、負けたのか。

 意識が戻って最初に思ったことはそれだ。兄貴・・・・・・いや、違う。なんでもないやつに俺は負けたのだ。

・・・・・・俺は、俺は、最強にならなければ・・・・・・。

「あ!いた、クロ!探したんだよ〜」

・・・・・・あれは、大魔法使いリーナ様⁉︎なぜここに⁉︎

 大魔法使いリーナ様といえば、リュミエールで九年連続最優秀をとったことで有名だ。魔法使い界で知らない人はいない。ちなみに、大魔法使いとは、歴史上優れ、ソンブルヴァレに貢献した魔法使いのことを言うのだが、リーナ様は優れており、なんやかんやソンブルヴァレに貢献しているので、一部の人々から「大魔法使い」と呼ばれている。

・・・・・・まさか、このローブを被った男の同伴者か!?「クロ」というのは愛称か?

「悪ぃ、ちょっとこの男、許せなくてな」

「もう〜そんなことでどっかいかないでよ。本当に心配したんだから!」

「ごめんって」

・・・・・・俺もこんな仲の良い友達が欲しかったな。

 俺は少し自分の欲望に急ぎすぎていたのかもしれない。俺は昔から・・・・・・具体的には兄貴がいなくなってから、絶対に兄に報復する、最強になるという願望目掛けて脇道を自分で潰していたのだ。無論、俺には友と呼べる人も、喋る人もいない。

「こいつ倒していい?」

「えwいいと思うよ」

・・・・・・リーナ様!?

 リーナ様は、一般的に温厚で、どんな人にも優しい魔法使いだと聞いている。そんな人がこんなサイコパス発言をするものだろうか。

「・・・・・・待て。ローブを被った男」

 俺は精一杯の声を振り絞って呼びかけた。

「ん?なんだ?」

 その口調や声からわかる。絶対に兄貴ではないと。はたまた、兄貴がリーナ様の知り合いでもなかろう。

「・・・・・・貴様のことを、俺の愚かな兄貴だと勘違いをしていた。すまない。名前を教えてほしい」

「・・・・・・」

・・・・・・ん?何か癪に障ったか?

 何故か男は名前を答えない。そして、隣のリーナ様も気まずそうにしている。

「・・・・・・ちなみに君の名前は?」

 呆然としていると、質問し返されてしまった。俺はなんとも無いので、普通に答える。

「フランリュー・フランジェだ」

「・・・・・・やっぱりブルンの弟か?」

・・・・・・兄貴を知っているのか!?

「待て。なぜその名を知っている!?」

「いやー。ちょっと魔王討伐?の時に勇者シリルの補佐役で同行したんだけど、その時に幹部として敵対したのがフランリュー・ブルンで、最終的に人間側に付いたことで罪が軽くなって、魔族収容所で服役中だ」

・・・・・・そうだったのか。

 てっきり兄貴は悪いところしか無いと思ったのだが、人間側についたと聞いて、どこか安堵したところがあった。

「で、その時にブルンになにか恩返しがしたいと問うと、『喧嘩別れした弟と会って仲直りがしたい』と言っていた」

・・・・・・そうか。そんなことを。

 あの時、理由もわからず喧嘩別れをしてしまったため、詳しい事情も聞けていない。またじっくり話をしたい。俺も会いたい。

「貴様、今度ブルンに会わせてくれないか?俺も会って話をしたい」

「あー。そうだな。この試験が終わったら・・・・・・」

「ピキッ」

 ローブを被った男が全部を言い終わる前に、なんとなく嫌な音がした。その音は、 ガラスが割れるような音だ。

「なんだ?この音は!?」

「・・・・・・もしかして、この試験場の天井?」

 ふと、上の方を見ると、大きなひびと大きな影が見えた。次の瞬間、とてつもない轟音とともに、天井のガラスが割れ、俺の意識は暗転した。


「ぐはっ!?」

 目が覚めた。体感、そんなに長い間は眠っていないはずだ。

・・・・・・あの怪物は何だ!?

 目の前に見えるのは、魔族のようなオーラを放っている、しかし、人間の形をしていない怪物だ。俺自身は見たことはないが、強い魔族の本当の姿は、謎の怪物らしい。もしかすると、それかもしれない。

「フハハハハ!我は、魔王様直属の手下、ヴァルタリオン・アルマジーニだ」

・・・・・・ヴァルタリオンだと!?

 ヴァルタリオンとは、魔王か、魔王一族の傍系である名前だ。つまり、こいつは魔王並に強いということだ。

・・・・・・そんな奴が何の用だ?

「・・・・・・お前、人間側になったんじゃないのか?」

 ふと声の方に目を向けると、あのローブを被った男がいた。ローブを被っているので、表情などは見えないが、声はとても緊迫しているようだ。

「何だお前。ただの雑魚か?」

「・・・・・・あ、そうだ。俺、ローブ被ってたんだった」

・・・・・・なんで忘れているんだよ。

 俺は思わず突っ込みたくなったが、それも束の間のことだった。俺の耳に「メタリュルジ」という呪文が聞こえてきたのは。

「・・・・・・なんだ、それは。それはまるで・・・・・・」

「そうだ。『勇者の剣』だ」

・・・・・・勇者の剣だと!?

 「勇者の剣」とは、国王が代々所持し、魔王討伐に行く勇者に貸すアイテムである。

・・・・・・「メタリュルジ」は聞いた所、金属創製の魔法か?だとすると、その男は・・・・・・。

「ここまで来たら、試験なんて関係ないな。じゃあ、本気を出すか」

 次の瞬間、その男はバッとローブを脱いだ。そこには、ローブを被った変人の姿はない。ただそこには、勇ましい者の姿しかいない。そしてその勇者の強気な声が聞こえる。

「勇者シリル様のな!」

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