試験開始
第六話 試験開始
昨日はよく寝た。
・・・・・・嘘です。フールの絵本読んでウトウトしていたものの、後半に突入したし、今めちゃくちゃ眠いし・・・・・・。
ちなみに、今は何をしているかと言うと、朝食を摂っている。朝食は至ってシンプルで、クロワッサンとか、甘いものとか、卵料理などが並んでいる。そして、朝食を作ったマリ姉はもちろん、フールも起きている。リーナはまだすやすや寝ているらしい。
「シリルくん、はいこれ」
・・・・・・あぁ、そういえばそうだったな。
マリ姉に袋を差し出されて俺は思い出した。マリ姉にジョブ追加の料金を出してもらうことを。一般的にジョブ変更は自由だが、ジョブを追加するには莫大な料金がかかる。詳細は伏せるが、家が一つ買えるほどである。
「ありがとう」
「返さなくていいから、従姉弟孝行してよねー」
・・・・・・何じゃそりゃ。
「ってか、昨日の夜カンディードちゃんと話をしたんだけど・・・・・・。シリルくんと話したこと言っちゃった☆」
・・・・・・うぇ!?なんでやねん!
恐らく、魔王討伐の前に、リーナを傷つけてしまったかもしれないことをマリ姉に相談したことだろう。
・・・・・・やばい。羞恥で死ぬ。
あの時は本音を語り、弱いところを見せてしまっていた。そのため、今思い返すとかなり恥ずかしい。しかも、それがリーナに伝わったなんて・・・・・・。考えただけで恐ろしい。
「なんかお願いされたら、リーナちゃんの言う事聞くんだよ?」
・・・・・・そんな事も言ったな。
リーナだったら何を言ってくるだろう。考えてると、ドアが開いた。
「おはよーございまーす」
「おはよう、カンディードちゃん」
なんて声をかけようか悩んでいた所、本人が来てしまった。オワタ。
「おはよー、クロ。・・・・・・何考えてんの?」
悩んでいることが顔に出てしまったようだ。リーナに痛いところを突かれた。
「いやー。何でもない」
「ほんと?そうだったらいいんだけど」
言葉と口調からは心配している感じがするが、よくよく見てみると目はこちらから逸らされていて、泳いでいるようだ。
「・・・・・・リーナこそ大丈夫か?なんか目が泳いでいるけど」
「ナ・・・・・・ナンデモナイヨー」
・・・・・・絶対なにか隠しているな。マリ姉!どんな話をしたんだ!
「もう行くのね」
さっと朝食を終えると、もう出発だ。なんと二日後には入学試験なので、手続きと訓練をしなければならない。ゆっくりしている暇はないのだ。
「あぁ。今からジョブ追加をしてくる」
「いってらっしゃい、シリル兄!リュミエールで待ってるね」
・・・・・・いいなフールは。
なんとフールは推薦&超特殊型の飛び級入学なのだ。それくらい期待されていることがわかる。
「そうだな。また会おうな」
「バイバイ!」
こうして、俺は従姉弟に別れを告げた。
「いらっしゃいませー。ジョブの変更ですか、ジョブの追加ですか?ジョブの追加には料金がかかります」
ジョブストア、というジョブの変更や追加ができる店に来た。あまり人が来ないため、店は小さく、人もあまりいない。
「ジョブの追加でお願いします」
「はい。それでは料金をお払いください」
ちなみに、俺が何の変装もせず外に出ると、勇者だ!と大騒ぎになってしまうので、顔が見えないように帽子を深く被っている。端から見ると、ただの不審者だが、魔法使い志望だと思えばマシだと思う。
「・・・・・・はい、料金もしっかり足りてます。魔法使いのジョブ追加でよろしいでしょうか。間違いはありませんか?」
このソンブルヴァレにはジョブが五つと一応一つ存在する。勇者と魔法使いは、説明するまでもないだろう。しかし、残りの四つが特殊である。
「コック」は、僧侶から派生したジョブである。回復薬を作製したり、旅先でのご飯を担当したり、はたまたフライパンで戦うとか・・・・・・。意外と自由奔放だったりするジョブ。
「ビルダー」は、戦士から派生したジョブである。武器で戦うことは勿論、テントの建設や見栄えを良くする建築、破壊なども容易くこなす。意外と技に縛られている。
「アスリート」も、戦士から派生したジョブである。なんと、技が存在せず、素手や足だけで戦うという。それぐらい運動神経抜群で強い。まぁ、二文字でいうと、「脳筋」だな。
そして、残り一つ。これは正式なジョブではないが、一応存在するのでまぁジョブにしよう、というやつだ。それは、他国から伝わった「ニンジャ」である。伝わったのはここ五十年ほどで、研究が進んでいないため、遭遇したら厄介なのだ。攻撃パターンはもちろん、何人いるかも不明。謎が多いジョブである。
・・・・・・と、言うことを踏まえて、俺は魔法使いがいい。俺は料理ができないし、ものづくりも下手だし、運動神経も勇者の技に助けられているだけであまり良くない。ニンジャは・・・・・・よく分かんないので思考放棄。
「・・・・・・最後に名前をお聞きします。名簿と一致するか確かめたいので」
・・・・・・名前・・・・・・?正体を隠した意味とは?
まさか、名前を聞かれるなんて思ってなかった。仕方がない。ここは諦めるしか無いな。
「・・・・・・ヴァイヤン・シリルです・・・・・・」
「はい、ヴァイヤン・シリルさ・・・・・・ん?」
・・・・・・はい、バレた。
そこから、色々手続きがあった。たまにチラチラこちらを見られたが、特に何も言われなかった。
「・・・・・・これで手続きは終了です。ありがとうございました」
「・・・・・・ありがとうございました。では」
というわけで、大きな騒ぎになる前に俺は猛ダッシュでリーナと帰った。
「・・・・・・ここまでくれば大丈夫そうね」
リーナが安心したように言った。
「あぁ。・・・・・・ってか、リュミエールの入学試験どうするんだよ!」
俺はそう言ったが、焦っているのは俺だけらしい。必死に話しても、リーナはきょとんとした顔だった。
「なんで?クロなら行けるでしょ?それに、リュミエールの試験は同伴可だから、私も行くよ。わかんないことあったら聞いてね」
・・・・・・そうなのか。
リーナが付いてくれると分かり、俺はとても安堵した。そして俺は、リュミエールの入学試験までゆったりと訓練をした。
・・・・・・ん?結局俺の正体はどうやってバレないようにするんだ⁉︎
リュミエールの入学試験当日。俺達はリュミエールの第一訓練場というところに向かった。さすがに、身バレ防止策はあったようだ。俺は魔法がかかっているローブを被って試験に望む。このローブには「隠蔽の魔法」がかかっていて、魔石に登録した者以外の人物から自分の正体がわからないようにするという俺にピッタリの商品である。
ちなみに、物に魔法をかける時は一定時間で解除されるが、その法則を打破した人物が歴史上に存在した。それが、アンフィニ・エテルニテという人物だ。もう五百年前程になるが、彼は「インフィニア」という無限の魔法の使い手で、無限の命、無限の資源、無限の力を持っていた。そして、彼の魔法を魔法がかかった物にかけると、その魔法を無限に持続させることができるのだ。そして、彼は無限の命を持っていたものの、自分がいなくなってしまったときのために、ポワン・メディアン・モンタニューの一角に自分の力がこもった鉱石、「エテルナ」を残すことにより、後世でも同じことが可能なようにした。彼は大きく国に貢献したことから、『最強勇者の勲章』を手に入れた。銅像も作られたが、彼は原因不明の理由で遺体が残らない死を迎えたとされている。
・・・・・・俺も、国に貢献してみたいなぁー。と言っても、魔王を倒したから貢献はしたのだろうけれど。
いつか俺の名前も歴史上に残るのだろうか。そうだと嬉しい。俺は目立ちたがり屋だからな。
「これより、国立アンサティテュ・デ・ソルティレージュ・エ・ドゥ・ラ・リュミエールの入学試験、高等の部を始める」
受付は特に名前が必要なかったので、すんなりと入れた。許可証を見せるだけで良かった。そして、今。アルフォンス・デュマという校長が色々説明している。全て事前にリーナから教えてもらっているので、聞き流している。
・・・・・・ざっと見た所、参加者は・・・・・・十名ってところか。
ちなみに、入学試験の内容はいたってシンプルだ。まぁまぁ凶暴な魔物を制限時間内に倒し、生き残れば合格。もちろん、参加者同士の倒し合いはOKだ。それくらいの心意気でなければ、リュミエールには入学できないらしい。そして、この施設にも魔法がかけられている。地形が勝手に治る「治癒魔法」やどこまでも地形が広くなる「拡大魔法」などなど。これもやはり、「エテルナ」を使用している。
「・・・・・・説明は以上だ。健闘を祈る」
次の瞬間、俺はリーナと共に違う場所に飛ばされた。
「試験開始だね。・・・・・・クロはどうする?最後の一人になったら必然的に合格だけど、参加者を倒す?」
俺は少し考えた。手っ取り早く合格をするには、参加者キルが妥当だ。しかし、勇者の名にかけなくても俺は人を倒すのはあまり好まない。もちろん、売られたケンカは買うが、自分から行くつもりはない。
「いや、俺は人と争いたくない」
「やっぱりね。まぁ、私だったら参加者を倒すけどね」
・・・・・・えげつねぇ!自分のためなら何でも利用するってか。
俺はリーナに少し畏怖を感じたが、それも束の間のことだった。
「いやあああああああ」
「ドカーン」
誰かの悲鳴とともに爆発音が聞こえた。
「・・・・・・あれは強いよ。警戒したほうがいいかも」
リーナも顔を強張らせる。それぐらい強いということだ。この試験では、魔法以外禁止なので、勇者の技は使えない。
・・・・・・好戦的だったら厄介だな。
嫌な予感がする。それを示唆するようにまた爆発音が聞こえた。