魔法の習得 3
第四話 魔法の習得③
ブルンと少し談笑して、魔族収容所を後にした俺は、家に帰った。そして、庭で魔法の練習をした。
・・・・・・合わせてみようと思ったけれど、お菓子類は全部蒼い炎で燃えちゃうからなぁ〜。ってか、溶けたチョコレートとか、普通に出せるし。
頭で真剣に考えていたら、眠気が襲ってきた。そして、そのまま寝た。
翌日の昼過ぎ。俺は何故か自然とリーナの家を訪れていた。
「何なの・・・・・・?まじで眠いんだけど・・・・・・」
「俺の従姉弟の所行くぞ。お前マリーナと仲いいだろ?」
「えー?今からー?」
「もちろん。魔法増やすためにな」
というわけで、俺達は従姉弟のヴァイヤン家である、ヴァイヤン・マリーナとヴァイヤン・フェールの家を尋ねることにした。
「いらっしゃい、シリルくんとカンディードちゃん」
笑顔で出迎えてくれたのは、俺達の二つ上であり、リュミエールに通っているヴァイヤン・マリーナである。三つ編みで垂らされている水色の髪がサラリと揺れる。
「久しぶり、マリ姉。フールはどこ?」
「奥にいるよ。さぁ、上がって」
マリ姉ことマリーナと、フールことフェールの両親は、五年前に魔王軍との戦いで亡くなった。そのため、マリ姉がフールの世話をしている。
「久しぶりだなぁ〜フール」
「シリル兄!」
フールは今六歳。この春からリュミエールに通う予定らしい。こちらのヴァイヤン家は、うちとは反対に魔法使いなのだ。ヴァイヤン家は、一代に一人勇者がいるかいないかくらいなもので、べつに全員勇者強制!と言うわけでも無いのだ。
・・・・・・だから俺も魔法使いが良かったんだけどな。じぃちゃんが勇者以外許さん!って言ってたもん。
当時・・・・・・今はもういないじぃちゃんの発言力はとても大きかった。なぜなら、一度魔王軍を壊滅させたからだ。
「どうしたの、シリル兄?」
「いや、なんでもない」
「・・・・・・で、何しに来たの?なにか用事があるんでしょう?」
「そうなんだ。実は・・・・・・」
マリ姉と一応フールに、俺が習得した魔法の詳細を話した。ここでも勿論話してはいけないことは話さない。
「なるほど・・・・・・。つまり、私達の魔法がほしいってことね?」
「あぁ。頼んでもいいか?」
「もちろん!いいよ」
マリ姉は考える素振りもなくそう言った。
「私の魔法は『イドロジェ』。手から水を出すよ。それも強めの」
・・・・・・なにそれ?水じゃないんですか?
「・・・・・・ちょっと見せてよ。見ないと分かんないんだって」
「あ、そうだったね。庭に行こう」
・・・・・・あぁ、広いな。
俺達の先祖が代々お金持ちであり、魔法使いが儲かる職業なため、従姉弟の家は滅茶苦茶お金持ちであり、家も庭も広い。
・・・・・・魔薬を作って売ったり、そこら辺ですごい魔法を見せたりするだけでお金が入るなんてなんて夢な職業なんだ。
ちなみに、勇者業はあまり儲からない。魔物を倒すか、困っている人の手伝いをするか。でもせいぜい、一回あたりの収入は魔法使いの二分の一にも満たない。
「で、魔法を見せればいいの?」
歩きながら、マリ姉は俺に問う。
「あぁ。頼む」
「分かった。いくよ。『イドロジェ』」
すると、マリ姉の手から水圧カッターのようなものが出現した。
・・・・・・ほぅ。かなり殺傷能力は高そうだな。応用すれば・・・・・・ってなんかこっちに向けられてないか?
「バゴーン」
「・・・・・・流石、勇者の判断力は伊達じゃないわね」
・・・・・・ふぅ。
俺は間一髪、向けられる「イドロジェ」をリーナの「シュクレ」で出現させた飴細工で防いだ。その威力は高く、「アズリーヌ」でもあまり溶けなかった飴細工が少し欠けていた。
「待て待て待て。殺す気かよ!?俺が防ぐ術を持っていなかったらどうする気だよ!?」
「いやー。別に防ぎ切れなくても『イドロジェ』の回復能力で蘇生させればいいし。・・・・・・ちょっとしか治らないけど」
・・・・・・いやいやいや。直撃したら重症だろ!?
まぁ、そんな事もあったが、無事に俺は『イドロジェ』を習得することができた。そして、勇者の剣っぽい「アクアカッター」というものも出せるようになった。これは我流だ。
・・・・・・やったぁ。順調だなぁ。
「シリル兄、何やってるの?」
俺が感動に浸っていると、家で留守番していたはずのフールが満面の笑みでやってきた。
「もう、ダメじゃないのフール」
「・・・・・・ごめんなさい」
マリ姉に怒られたフールの顔はしおしおだ。短時間、と言っても十秒位で感情が変わり過ぎではないだろうか。
・・・・・・ん?待てよ。
「なぁ、フール。フールの魔法は何なんだ?」
俺は好奇心からそう聞いてしまった。 フールも魔法使いだし、なんかすごい魔法があるかもしれない。そう聞くと、フールはパァっと笑みを蘇らせ、嬉しそうに言った。
「僕の魔法は、『メタリュルジ』。金属を作ることができるんだ!」
・・・・・・ほぅ。それじゃあ、勇者の剣とかも作れたりするのかな?
「見ててね。『メタリュルジ』!」
フールはそう言うと、手に金属のコップのようなものを出現させた。少し不格好で形は悪いのだが。
「あー。また失敗しちゃった。まだ上手くできないんだよね・・・・・・」
どうやら、フールはまだ幼く、魔法の扱いに慣れておらず、うまく形ができないようだ。
・・・・・・フールぐらいの年でリュミエールに入るなんて、相当な天才しかいないよな。
幼い頃に魔法をマスターするのはとても難しい。実際、小さい頃に挫折して魔法使いを辞めるものは多いようだ。しかし、極稀に天才中の天才が存在する。それは、俺の隣にいる幼馴染のリーナだ。
・・・・・・こいつ、魔法の扱いは超人レベルで、リュミエールは六歳のときに歴代最高点で入学したらしい。まじか。
まぁ、こんな事を考えても魔法は上達しない。フールの『メタリュルジ』の作りは至ってシンプルだと思う。俺は試しに、目を閉じて、剣を出してみることにした。
「『メタリュルジ』」
すると、ぴしゃーんとした長々した剣ではなく、包丁よりも短い短剣が出現した。しかも、フールよりも不格好な。
・・・・・・ふぉおおおおおおおおおおお!?意外とこれ難しいのか!?
「ね?難しいでしょ?シリル兄?」
「・・・・・・オレユウシャダカラマホウノコトハワカンナイデス」
「おい」
泣き言を言ったらリーナに叩かれた。ぴえん。
「はぁ・・・・・・。確かに、勇者だから魔法の扱いは難しいわね」
「はい」
「あのね?生成魔法は、イメージするだけじゃダメなの。『シュクレ』はたまたま扱いやすかったけれど、その『メタリュルジ』みたいに扱いにくい魔法のほうが多いわ」
「それで・・・・・・?生成魔法のコツとは・・・・・・?」
「クロは目を閉じてたでしょ?目を閉じてイメージするだけじゃダメなの。目を開けて、空間も意識することが大事なの」
「空間・・・・・・?」
空間を意識する方法は知っている。勇者の技の大抵は空間を伝い相手の気配を感じ取り、空気の流れのごとく放つ技が多いのだ。しかし、聞いた限りでは、勇者の技とは又違った空間の使い方が必要になりそうだ。
「大事なのは、自分を取り巻く環境。空気単位で意識しないと上手くいかないよ。・・・・・・ってフール君に言ってもわからないだろうけど、クロにはわかるでしょ?」
・・・・・・周りの環境を・・・・・・?
俺は肌で感じてみた。肌に伝う少し寒い風、木々の揺れる音、そして、広がる広大な庭。
・・・・・・あぁ、なるほど。俺は魔法を理解した。
「『メタリュルジ』!」
次の瞬間、周りの空気を切り裂くように勇者の剣が出現した。
「おぉ・・・・・・。イメージした通りだ!」
「マジ?今のアドバイスを受けてよく一発でできたね・・・・・・」
リーナはできると思っていなかったらしい。なんだか引き気味の声に聞こえる。
・・・・・・人から引かれる声は聞き慣れているから大丈夫なんだが。
リーナが魔法使いの天才なように俺も勇者の天才だった。人ができっこないことだって平然とやり遂げたため、毎日と言ってもいいほど人に引かれていた。
・・・・・・リーナに引かれることが五割くらいだった気がするけど。
「わぁすごい!シリル兄!僕にも教えて!」
「分かった分かった」
「うふふ。シリルくんとカンディードちゃん。今日は泊まっていかない?私も久しぶりにお泊り会したいし」
・・・・・・懐かしいな。
俺は昔を思い出した。じぃちゃんから逃げるためによくこの家に泊まっていたものだ。
・・・・・・連日疲れているし、帰るのめんどいし。
注意。俺の家からここの家まで徒歩二時間以上かかる。そもそも、ここに到着したのが三時過ぎだった。訓練をする前に話していたから、もう空も紅色に染まっている。
「じゃあ、泊まるか。・・・・・・ところで、リーナはどうする?」
リーナはうーん、と少し考えてから口を開いた。
「私も泊まる。・・・・・・なにより、これから入学試験で鍛えないといけないのに、体を休めなきゃいけないし」
・・・・・・忘れてた。もう少しでリュミエールの入学試験だ。
リュミエールへの入学試験はスタートラインにすら入っていない。リュミエールこそがスタートラインなのだ。まだまだ魔法をマスターするまでの道のりは、とても遠い。