魔法の習得 2
第三話 魔法の習得②
「あ」
俺は自分の声で目が覚めた。え、なんで?
「ん。長かったね、クロ」
そこには、見慣れた顔の幼馴染がいた。元の世界に戻ってきたと分かって、ホッとする。
「リーナ。俺そんなに長かったか?」
「うん。十秒くらいだった」
・・・・・・それを長いというのか!?
リーナによると、一般人は、大体一秒らしい。一秒ではなく十秒ほどかかったため心配したそうだ。
・・・・・・そりゃあ、体感で一年間魔法のこと学んでたからね。それだけかかるよ。てか、計算どうなってんの?
計算的には常人は1ヶ月程度で終わるみたいである。ずるいな。
『貴様の魔法は少し特殊だからな』
・・・・・・ん?
なんか、神様の声がするのだが、空耳か?
『空耳ではない。貴様の頭に語りかけている』
どうやら、俺の脳に直接語りかけているらしい。
・・・・・・何が特殊なんですか?
『全てだ』
・・・・・・え?
それを最後に神からの声は聞こえてこなかった。
「・・・・・・ロ、クロ!」
「うぇっ!」
驚いて変な声が出た。
「大丈夫?ぼーっとしていたけど」
「大丈夫だ・・・・・・」
「で、どんな魔法だったの?」
リーナは滅茶苦茶期待するように目を輝かせている。そんな期待されても困る。『イミテ』という魔法や物をコピーする魔法だなんて言えるわけ無い。
「・・・・・・外に行かないか?」
「え・・・・・・。あ、そっか。外じゃないと魔法って使いにくいもんね」
そういうことで、俺達は、外に向かった。
家自体は広くないが、リーナの家の裏には大きな庭がある。そこでよく俺達は遊んでいた。ときも立つのは早いもんだと俺が感じていると、リーナが口を開いた。
「で?教えて」
「・・・・・・俺の魔法は『イミテ』・・・・・・目視した魔法や物をコピーできる魔法だ」
俺は、彼女の反応を伺った。驚かれるか、恐れられるか、俺は怖かった。しかし、予想に反して、彼女の顔は明るかった。
「すごいじゃん!え、最強じゃん!・・・・・・いや、まぁ、最強なのか…」
「え?魔族しか習得できない魔法じゃ・・・・・・」
「ん?そんなこと言ってたっけ?」
注意。幼馴染のリーナは滅茶苦茶物忘れがひどい。
「まぁ、いいや。でさ、私の魔法、コピーしてみて!『シュクレ』!」
そう言うと、彼女は大きなペロペロキャンディを出した。
「で・・・・・・デカッ!」
「ん!まずは、基本のペロペロキャンディから!真似してみ!」
・・・・・・真似って。
俺は思い出した。生成系の魔法の原理を。生成系の魔法は、生成する前に強いイメージを持つことが重要だと学んだ。食べ物系はあの神とあの神に・・・・・・。
ちなみに、これらの知識は、コピー系の魔法を扱うものにのみ神から授けられる知識である。絶対に口外してはならず、もし言ってしまうと、当人とそれを聞いた者たちの命が蒸発してしまう。もちろん、俺はそんな事しない。
・・・・・・いや、大体は全員が学ぶことなんだけどね?言っちゃいけないのはごくわずかだから大丈夫だと思うけど・・・・・・。
「・・・・・・『シュクレ』」
俺は目を閉じ、くっきりとペロペロキャンディをイメージして呪文を唱えた。
「うわっ!」
リーナが声を上げた。俺は恐る恐る目を開ける。前に出されている右手には小さいが、確かにペロペロキャンディがあった。重みもある。成功だ。
「すごいじゃん!クロは神様にも愛されているんだなぁ・・・・・・」
リーナは悔しそうに、でも自分ごとのように嬉しそうに言った。
「ありがとう。他にはどんなのがあるの?」
俺は魔法が成功したことが嬉しくて聞いてしまった。
「他に?えっとねぇ〜」
リーナの『シュクレ』講座は夜遅くまで続いた。チョコレートの液、綿あめ、和菓子など。とても沢山の種類のお菓子を出せるようになった。個人的にお気に入りは、とても硬い飴細工だ。
「今日はありがとな」
「全然大丈夫!・・・・・・クロはさ、リュミエールに入学するの?」
・・・・・・リュミエール。
アンサティテュ・デ・ソルティレージュ・エ・ドゥ・ラ・リュミエール。通称リュミエールである。このソンブルヴァレでは、色々なものを略す習慣があるのだが、これぐらい長い言葉なら、略して当然だと思う。そういえば、リーナは小学部から通っていて、九年連続最優秀だとか…。最優秀っていうのは、その学年で一番優れている生徒に贈られる賞で、全一二年制の十二人に贈られる。
「・・・・・・入りたいね。学校にも憧れるし」
「なら決まり!入学試験がもうちょっとであるから、私がしごいてあげる!・・・・・・そういえば、クロは『イミテ』と『シュクレ』だけでいいの?せっかく習得できるなら、もっと増やしたほうがいいんじゃないの?」
・・・・・・確かになぁ…
神に言われたことだが、「『イミテ』を使いやすくできるように、人々の思想を改変してやろう。『イミテ』を含んだコピー系の魔法は貴重で、とてもすごいものであり、それにコピーされるのはとても名誉あるものだと人々に認識させてやろう」と。とてもありがたい。元々は魔族が使うものだと忌諱されていたらしいからな。
・・・・・・ん?待てよ。だからリーナの認識も変わったのか?
前言、いや前注意撤回。物忘れはひどいが、これとあれは違う。・・・・・・らしい。
・・・・・・なんかちょっと無理あるくね?
そうは思ったものの、とりあえず神に感謝しておく。神の配慮がなければ、間違いなく俺は魔法が使えていなかっただろう。
「そうだなぁ・・・・・・。増やすかぁ〜」
そうして、俺は魔法を増やすことになった。
「ガチャ」
「・・・・・・おいおい、一般人が何の用d・・・・・・勇者シリル様⁉︎なぜここに⁉︎」
「ちょっと用があってな。・・・・・・中に入れてもらえるか?」
俺は今、魔族収容所に来ている。魔王戦で捕らえられた魔族たちがたくさんいる。俺はこの中にいるあるやつの魔法を習得したいと思って来たのだ。俺は職員に案内されて中に入って行った。
「・・・・・・まさかお前の方から会いに来るとは思わなかったぞ。勇者シリル」
魔法がかかっていて、そう簡単には壊れない檻の中でそう言うのは魔族のフランリュー・ブルンだ。彼は魔王軍の幹部の一人であり、最終的には人間側についたことで罪が軽くなり、服役中である。
「お前には本当に世話になった。感謝する」
「・・・・・・俺は元々人間だった。なのに魔族側に裏切ってしまった。その過去を払拭したかっただけだ。・・・・・・それで何の用だ。まさか何の用もないのに来た訳ではないだろう?」
「あぁ。そうだ。実は・・・・・・お前の魔法を借りたいと思ってな」
「俺の魔法を、借りる・・・・・・だと?」
俺は俺の魔法のことを全て話した。もちろん、他人に伏せておくことは喋らない。
・・・・・・俺も死にたくないし、こいつにも生きていて欲しいからな。
「なるほどな・・・・・・」
ブルンはすぐさま理解したらしい。そして再び口を開く。
「で、誰の魔法も教えてもらえないからどうせ問題のない俺に頼ったのか?」
・・・・・・はにゃ?
聞いていた話とは違う。認識が変わっていたんじゃないのか?もう一度言う。神は言っていた。『イミテ』を使いやすくできるように、人々の思想を改変して以下略。いや、待てよ。魔族は対象外なのか?
「まぁ、そういうところだな。・・・・・・言えない事情があるがな」
「そうか」
ブルンは、深掘りもせずに了承してくれた。意外といいやつだと思う。
「・・・・・・で、確かお前の魔法は蒼い炎を出すんじゃなかったか?」
「あぁ。そうだ。『アズリーヌ』だ。ほら」
ブルンは俺に呪文を唱えて見せてくれた。そして、俺はずっと気になっていた疑問を聞いてみた。
「蒼い炎と、普通の炎って何が違うんだ?」
「・・・・・・蒼い炎は普通の炎よりも高温で、威力が高い」
「欠点はないのか?」
「ない」
そんな会話をしながら、俺は脳内で考える。
・・・・・・なるほど、そう言うことなら。
「やってみるか。『アズリーヌ』」
次の瞬間、俺の手にブルンと同じ蒼い炎が浮かんでいた。
「できた!熱っちぃ!」
「高温だって言っただろ・・・・・・」
ブルンは目に見えるように呆れて笑った。
「ふぅ・・・・・・すこし慣れてきたな」
あんな熱い炎を耐えなければいけないかと思っていたのだが、すぐ慣れた。むしろ、「シュクレ」と根本が違うため、扱いが難しい。
「むぅ・・・・・・」
「気が済んだなら帰ってくれないか?」
と、ブルンは言う。確かに、この場に居てもいいことはないだろう。基礎的なものは教えてもらったから、あとは自分で応用するだけだ。
「ありがとう。なにかお礼をしたいのだが・・・・・・」
「・・・・・・」
ブルンはなにか考え込んだ。そして、考えを決めたように口を開いた。
「・・・・・・強いて言うならば、弟に会って仲直りがしたい。喧嘩別れしてしまったからな」
・・・・・・弟か。
ブルンは元々人間だった。人間のときに弟と喧嘩別れして魔族になったそうだ。魔族になった人間はもう元には戻れない。
「・・・・・・分かった。考えておく」
まさかこの時、ブルンが弟と再会できるなんて微塵も思っていなかった。