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魔法の習得 1

第二話 魔法の習得①

 ポワン・メディアン・モンタニュー。コヴンヌ・アンシャンテアとドメーヌ・ドゥ・ラ・ニュイ・エテルネルの中間地点にそびえ立つ高さ3000m以上もある山々である。

「クロが魔王を倒したからエテルネル側の魔族や魔物はいないね」

 なぜかわかんないが、リーナは元気だ。ちなみに俺はリーナの家に無理やり泊めさせられたのである。俺、可愛そうである。

「あぁ。全く気配も感じない」

 俺は、当たり障りのない返事をしながら考えた。

・・・・・・しかし、景色も一変したな。

 俺が魔王を倒した影響なのか、元々は空が紫色や緑色と禍々しい色をしていたのだが、雲が晴れたように、空が蒼くなった。今では何も違和感がない。境界線自体はあるものの、空で境界が判別できなくなってしまった。

「どうしたの、クロ?行くよ」

「あぁ。今行く」


「・・・・・・分かってはいたけど、中は魔物が多いな」

 山の中腹あたりで、たくさんの魔物に遭遇した。牛や豚に似ている魔物だが、めちゃくちゃ大きい。パッと見、かなり強そうだ。

「・・・・・・レペ・デュ・エロ…ゴッド・レイ」

 俺は勇者の技の中でも最上位の技を放った。前方に凄まじい一筋の黄金の斬撃を放つ技だ。直線上にいた魔物が何体か死んだ。

「・・・・・・わーお」

 リーナは引き気味に驚いている。その斬撃を見た魔物たちは一目散に逃げていった。

「どうだ?」

「・・・・・・絶対敵対しないようにしとこっ」

「?」

 なんだかリーナが小声で言っていたが、聞こえなかった。


「あと少しで頂上よ」

・・・・・・やっとか。

 リーナの言葉を聞いて俺は深く安堵した。ここまでの道中、魔物を退治するより、登ってくるのが大変だった。なんてったって、道が長い。

「ん?あれが・・・・・・」

「そうよ。あれが捧魔与石。祈りと魔力を捧げなければいけないわ」

「・・・・・・どういう祈り?」

「ソンブルヴァレの大地に息づく、すべての命に恩恵を与える偉大なる神よ、御力を我に授け給え。我が内に眠る力を目覚めさせ、魔法の力を使う者として、御力を正しき者のため、ソンブルヴァレのために尽くすことができるよう、導き給え。神々よ、どうか我に無限の力を与え、正しき道を歩み、この国の未来を照らす力となるよう、永遠の加護を与え続け給え。・・・・・・っていう祈り」

「なにそれぇ〜」

「大丈夫。素質がある人は最初くらいで終わるから。実際私は、全部を言わずに与石を手に入れ・・・・・・」

「ん?なんか石出てきた」

「えぇ!?マジで!?」

 なんか、リーナが長々と説明していてだるいな〜と思ってたら、澄み渡った蒼色の石が出現したのだが・・・・・・。

「・・・・・・聞いたこと無いわ。祈りも唱えずに与石をもらえるほどの素質がある人なんて。ありえない。これも最強勇者の所以なの?」

・・・・・・えぇ。俺そんなにすごいの・・・・・・?

「・・・・・・ま、まぁ、すごいんじゃね?」

「意味わかんない・・・・・・」


 俺達は下山して、リーナの家に帰ってきた。

「まず、『カンヌ』を作るには、魔法陣を書かなくちゃね。ここにお手本があるけど・・・・・・」

「それ使っていい?」

「・・・・・・いいけど」

 リーナ本人は、俺に魔法陣を書いてほしかったっぽいが、御免だ。魔法陣はとても複雑だし、魔法の原理を理解していないとできない。

「別に魔法ができるようになるには魔法の原理がわかんないと無理だけどね?どうせ学ぶようになるけどね?」

「うっ・・・・・・」

「まぁ、いいや。ほら、手出して。切るから」

「切る・・・・・・!?」

「魔法陣の上に置いた与石の上に自分の血液をかけることによって、唯一無二の魔法を持った『カンヌ』が手に入るの」

・・・・・・はぁ・・・・・・?

 魔法の世界は意味がわからない。思考放棄して俺はさっさと手を出した。リーナはニヤけるのを抑えているような顔で俺の指を勢いよく切った。

・・・・・・痛ッタ!

 今までに感じたことの無いほどの痛みを感じたぜ。俺は必死で目を開ける。その瞬間、自分の血液が与石に垂れていくのが見えた。血液が与石に付くと、カッと光り、一瞬で杖のような形を模した。

「完成ね。傷を治すね」

・・・・・・傷が癒えても記憶は癒えないよぉ〜。

 俺は少しだけ泣いた。


「これが『カンヌ』かぁ〜」

「ダメ。説明があるまで迂闊に触らない!」

 俺が杖に手を伸ばそうとしたら、リーナに止められた。

「めっちゃ重要だから、聞き逃さないで」

「・・・・・・はぁ〜い」

「まず、『カンヌ』に触った瞬間、精神世界に飛ばされます」

「・・・・・・なんで?」

「神が魔法について説明するから。他の人に聞かれちゃダメなのよ」

「はぁ・・・・・・」

 思ったより深刻だった。間違って触っていたら、誰かわかんないから神に歯向かっていたかもしれない。昔からそういう性格なもんで。

「そこで、神の説明を受けて、魔法を完全に習得します。現実時間は全然時間が経たないから安心して」

「うん」

「・・・・・・準備はいい?」

「もちろん」

「じゃあ、触っていいよ」

 俺は、少しだけ緊張感を持ってカンヌに触った。触った瞬間、俺の意識は遠のいた。


「おい、起きろ」

「はいー!?」

 意識が戻ったと思ったら、目の前に、黄金に光り人の形を模したものがいた。

「我は神だ」

・・・・・・自分から自己紹介する神だった。

 なんか面白いなと思ってしまうのは自分だけだろうか。

「貴様は勇者の素質よりも魔法の素質がある」

・・・・・・うん、なんでー?

 今までずっと勇者の素質しか無いと思っていたが、どうやら、魔法の素質のほうがあったらしい。勇者も強いのに・・・・・・

「貴様がいつあの山に来るのか、と待ちくたびれたぞ」

・・・・・・だから祈りを唱えなくても与石が出現したのか。

「はぁ・・・・・・」

「いいか、お前の魔法は『イミテ』だ」

「・・・・・・なんですかそれ」

「主に相手の魔法を自分のものとしてコピーしたり、目に映るものをコピーして出現させたりできる魔法だ」

・・・・・・え?

 俺はなにか違和感を覚えた。

「それって、魔族しかできない魔法じゃ・・・・・・」

「・・・・・・別にそんな決まりはないぞ?もしや、魔法学校の教師が悪いのか?」

・・・・・・だそうです。

 後でリーナに報告しておこうと決めた。


「で、どうやって魔法は使うんですか?」

 俺は気になって聞いてみた。

「そうだな。普通はコピーしたい対象に触れることによってそれを使えるようになるのだが・・・・・・。魔法の原理などを学べば、見ただけで習得できる」

・・・・・・なんそれチートか?

「ただ、魔法の原理を学ばなければならぬ。ついていく自身はあるか?」

「もちろんです」

 この時、俺は魔法の原理を甘く見すぎていた。

 デュー・ドゥ・ラ・マジ。魔法という概念を創った神である。その神の知識を授かった初代王が、書き記した本があるのだが、その本のしてはいけないところだけ抜き出した本が、有名な禁書、グリモワール・ダムネ・テヌーブルである。魔法は、その人々に宿っている魔力が基となっており、それが派生して・・・・・・って意味分かんないわ。俺が魔法の原理を理解するまでに、体感一年はかかったのではないか。

「よくやった。貴様は『イミテ』を完全にマスターした」

「・・・・・・有難うございます」

「それにしても長かったな」

・・・・・・座学は苦手なんですっ!

 注意。俺は、学校にも行かずに勇者修業をしていたため、勉強は全くできない。俺は何でもできるスーパー人間みたいに思われているが、勉強はできない。

「・・・・・・少し入り組んだ話をしてもいいか?」

「はい・・・・・・?」

 神がなんか俺に相談してきた。

「魔王を倒したお前だから相談できることだ。決して他人にも漏らしてはいけない。そこは約束してくれ」

「・・・・・・分かりました」

 自分の体に嫌でも緊張感が走る。魔王関連の話が来ると言っているようなものだと分かった。

「貴様が封印したグリモワール・ダムネ・テヌーブルだが、何者かによって封印が解かれ、奪われた」

「・・・・・・は?」

「一体どこの誰が持ち去ったかもわからない。ただ、神の類だろうと思われる」

「神の・・・・・・?」

「神にも色々あるのだ。・・・・・・テヌーブルが誰かの手にわたってしまうと、お前でも手がつかなくなる。その前に発見してしまわなければ。お前に頼めるか?」

・・・・・・マジか。

 思ったより大変なことになっていたみたいだ。俺は固唾をのんだ。精神世界だと言うのに、触れる空気が冷たく感じる。

「・・・・・・できる限り尽力します」

「助かる。・・・・・・まぁ、たまに頭に届く我の声の指示に従えば良い。基本は楽しめ」

「え・・・・・・?何を?」

「決まっているだろう。アンサティテュ・デ・ソルティレージュ・エ・ドゥ・ラ・リュミエールだ」

「長ッ!なんですかそれ!?」

「魔法学校だ。お前が行くことになる」

・・・・・・魔法学校。

 俺は「魔法」という言葉より「学校」という言葉に胸が高鳴る。

「絶対に入学試験に受かれ。さもなくば命はないと思え」

「何で!?」

 大声で叫んだつもりだったが、まもなく、俺の意識は遠のいた。

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