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Side:マリー

「で、一体何を買うんだ?」

「女性の服だ」

 俺の脳が固まった。

・・・・・・え?なんで?

「困惑するのも無理はない。・・・・・・君の幼馴染に買うんだろう?誕生日プレゼント」

・・・・・・あ、そうだった。

 そう、今週の日曜日はリーナの誕生日だ。そして、俺は先週のうちに誕生日プレゼントを買うつもりであったが、完全に忘れていたぜ。

「あああああああああああああああああああああ」

「良かったな。明日が休みで」


・・・・・・と、いうことでやって来ました、女性服の店。

 今も俺の内心は発狂している。色々な意味で。

・・・・・・まぁ、中に入っている男子もいるから大丈夫だと思うけど。

 ちなみにリーナには、ちょっとした買い物があるとだけ言って出かけた。「あんまり買い物にいかないクロが・・・・・・珍しい」とか言われたけど、まさか自分の誕生日プレゼントを買ってくるとは思わないだろう。

・・・・・・よし、入るぞ。あんまり入口に突っ立ってたら不審者だと思われるからな。

 え?その前に最強勇者であることがバレるって?大丈夫だ。ここは中心街のコヴンヌ・アンシャンテアから外れたところにあるので、名前自体は知られているものの、顔自体はあまり有名ではないはずだ。

・・・・・・一番最悪なのは・・・・・・。

「あら?ヴァイヤン・シリルさんではありませんか。ごきげんよう」

・・・・・・ぎゃあぁあぁあぁあぁあぁ!

 一番最悪なパターン。身近にいる人、名前と顔をお互い認識している人に会うこと。それが起きてしまった。

・・・・・・最悪だ。こんな筈じゃなかったのに・・・・・・。

 作戦失敗だ。仕方ない、速やかに撤退しよう。

「しかし、なぜヴァイヤン・シリルさんが女性服店にいらっしゃるのですか?」

 よく話しかけてきますね。俺、挨拶は愚か、顔すらあなたに向けてないですよ?

「もしかして・・・・・・カンディードさんの誕生日プレゼントを買いに来たとか?」

 しかも鋭い。なんで?

・・・・・・ん?待てよ。これはむしろチャンスではないか?

「あの・・・・・・もしよかったら、リーナに似合う服とかアドバイスいただけませんか!?」

 急に喋ったからか、マリーが固まってしまった。しかし、仕方ない、という風にすぐに返事をくれる。

「仕方ないですわね。せっかくの誕生日が台無しになってはいけませんものね・・・・・・」

「ありがとう!」

 俺が熱狂的に感謝を伝えると、また固まってしまった。


「カンディードさんなら、ネイビーが合いそう・・・・・・。あ、ブロンズもいいかも」

 マリーが真剣に服を選んでいる中、俺は目を真っ白にしていた。だって、服のことなんてわかんないんだもん。

「・・・・・・ちょっと、シリルさん?」

「はいっ!?」

 俺がボーっとしていると、マリーが話しかけてきた。

「真剣に考えていらっしゃるの?」

「すみません・・・・・・」

 はぁ、とわかりやすいようにため息を吐いたマリーは、指をビシッと俺の前に立てて、言った。

「カンディードさんの服を決めるのは、あなたですよ!わたくしはアドバイスするとは言ったけれど、決して選びませんからね!」

・・・・・・え?そうなの?

 俺は選んでもらう気満々だったのだが、どうやら本人は手伝うだけのつもりだったらしい。

・・・・・・俺、わかんないんだけど。

「一番大事なのは、カンディードさんに客観的に見て一番似合う服ではなく、シリルさんが直感的に好きなものを選ぶことです。一番大事なのは気持ち!ですよ」

・・・・・・一番似合うもの・・・・・・気持ち……。

 俺はよく考える。リーナの髪色、瞳、一つ一つを集中して考える。

・・・・・・何が似合うんだろう。

 一生懸命考えていると、思考の邪魔が入ってしまった。

「何やらお悩みのようですねぇ〜!」

「うわぁ!」

「あ、店長!」

 急に人が現れてびっくりした。店長と呼ばれた人は俺よりも少し身長が小さく、メガネを掛けている女性だった。

「あの・・・・・・どちら様ですか?」

 恐る恐る俺が聞くと、少し怒ったように彼女が応えた。

「失礼な。私の名前も知らずにこの店に入ったのか?私はこの店の店長、デュッシエ・クロハッションだ。『ブクデクロー』という色の魔法を使って服を作っているんだ」

・・・・・・あ、やっぱり店長なんだ。

 そういえば、この店の看板に「ブクデクロー」と書いていたような気がする。

「それだけでなく、店長はとっても強いんですよ!」

 なぜかマリーが得意げだ。

・・・・・・店長ってことは俺より年上なのか?

「随分と失礼だが・・・・・・君は一体何に悩んでいるんだ?」

 俺は店長の質問に対して勇気を振り絞って応えた。

「実は、幼馴染に会う服を・・・・・・」

「ん!」

「?」

 俺がまだ話している途中だったのに、店長は俺の話を遮り、灰色の服を差し出した。

・・・・・・なにこれ?

「これは購入者の意思がよく反映される服、要するに魔術具みたいなもんさ。・・・・・・まぁ、色が付けば普通の服になるから安心しな」

・・・・・・意思がよく反映される?色が付く?

「え?え?」

「まぁ、まずは握ってみな」

・・・・・・なんかマリーが滅茶苦茶輝いた目で見てる。やりづらいな。

「これは店長しか作れない魔術具です。触れた人の頭の中を探り、その人にピッタリの色にしてくれ、自分の気持ちがよく表れる優れものですね!」

・・・・・・なんじゃそりゃ。

 よくわからないが、これで俺の悩みが解決できるならいい。とりあえず、その魔術具とやらを受け取った。握った途端に灰色の服が虹色に輝き出した。

「眩しっ」

「さぁ何色が出るんでしょうね〜?」

・・・・・・一番ワクワクしてるのは店長じゃん。

 やがて虹色の光は消えた。俺の手の上には濃い赤色の服があった。

「赤色か・・・・・・」

「あら、ワインレッド。カンディードさんによく似合いますね」

「ほぅほぅ。なかなかいいですね」

・・・・・・あ、これワインレッドっていうんだ。

 それは置いといて、俺から見てもこの色はリーナによく似合うと思う。

「これください」

「はいよ」


「・・・・・・ちょっと待て。何で?」

 服を買った。店を出た。そこまでは良かった。しかし、店を出た途端、急にマリーに「私と手合わせをして頂戴」と言われたのだ。

・・・・・・え、何で?

「突然入ってきたあなたの実力が知りたくて。・・・・・・もう一人よりも貴方のほうが気になります」

・・・・・・俺のほうが未知ってか。

 最強勇者から魔法使いに転身した俺。どれぐらいの力量なんてわかるわけがない。

「いいだろう。相手をしてやる」

 というわけで、誰もいない森に来た。町の結界の近くだが、まぁ大丈夫だろう。魔族なんて出るはずがない。

「さぁ、いつでもどうぞ」

 マリーは準備万端のようだ。彼女の顔はとても自信満々に見える。

・・・・・・負ける気はしないけれど、なんかとっても怖いな。

「じゃあいくぞ。・・・・・・『イミテ』」

 俺は最初から躊躇いなく、岩を大量に出現させた。しかし、マリーは全く動じずに「フロレゾン」と唱える。次の瞬間、俺が出した大量の岩は粉々になっていた。

「なっ!」

「わたくしの花の魔法では岩を壊せないとお思いで?」

 マリーの笑顔が更に深まった。計画通りなのだろう。

「花は美しく、繊細で、時には鋭いのですよ!」

 マリーは続けて花びらで攻撃をする。その攻撃により、俺は負傷する。

・・・・・・くっ・・・・・・!こいつ、強い!

 その後も、マリーの猛攻は続き、俺は劣勢になっていた。

「どうしたのです?なぜコピーした魔法を使わないのです?」

「・・・・・・」

・・・・・・それを使えば勝てるんだろうな。

 俺はわざとシュクレとかメタリュルジを使っていない。その理由は・・・・・・。

「・・・・・・コピーした他人の魔法を使うのは自分の魔法を使ってない気がする。だから、自分の魔法だけで戦いたいんだ!」

「・・・・・・ふぅん。でも」

 ズザザと俺に花びらがさらに突き刺さる。

「そんな事していると、戦場で勝てないわよ」


「ふぅ・・・・・・」

「・・・・・・あなたくらいよ。連日私の能力で回復しているのは」

 結果は俺のボロ負け。魔法の世界って奥が深いな。

・・・・・・まだまだ俺も未熟だな。明日も休みだし、明日こそ訓練するか。

「・・・・・・ねぇ、貴方本当に」

「ズッシャァァァアン!」

「!?」

 傍にあった結界が割れた。それと同時に大きな物体が視界に映り込む。

・・・・・・あれは!

「よぉ・・・・・・ヴァイヤン・シリル。久しぶりだなぁああ!」

 魔王軍ナンバースリー、ヴァルタリオン・シュムレットだ。魔王といい、アルマジーニといい、魔王軍の最強格と連戦だな。

「だ、誰ですの?」

「ま」

「我こそはヴァルタリオン・シュムレット。『レイチュー』という魔法を使う。魔王様、アルマジーニ兄がいない今、私は魔王軍最高戦力!」

・・・・・・あー、うん。確かにそうだね。

「ちなみにシリルさんは誰か知っているようですが、その『レイチュー』とはどのような魔法ですの?」

 俺は必死に笑いをこらえながらマリーに告げた。

「・・・・・・キャベツの魔法だ」

「へ?」

「『レイチュー』!」

 間一髪、俺達は反対側に避けて飛んでくる大きな物体を避けることができた。

「危なっ!・・・・・・ってキャベツ!?本当にキャベツの魔法なの!?」

「だから言ったじゃん・・・・・・」

 どうやらマリーに信じてもらえていなかったようだ。これは心外。

「ここは俺が・・・・・・」

「どいていて頂戴。私が片付けるわ」

 相手の特徴をよく知っている俺が対峙しようと思ったが、マリーが前に出てきた。

「え?でも・・・・・・」

「わたくしの方が貴方より戦えます。だから下がってて」

・・・・・・それでいいならいいんだけどさ。

 正直言って前情報無しであいつに勝つのは無理だと思う。

「お前、ヴァイヤン・シリルよりも強いのか?・・・・・・楽しみだなぁ」

・・・・・・さぁマリーはどこまでシュムレットに食い下がれるだろうか。


「『フロレゾン』!」

「『レイチュー』!」

 思いの外、シュムレットとマリーは互角に渡り合っている。

・・・・・・いや、でも”アレ”がまだ出ていない。もうすぐ出るのか?

「・・・・・・ここだ!」

「?」

 そこに登場したのは、とても可愛らしい見た目をしたキャベツのマスコットだった。

「どうも!私、キャベツのキャベたんです」

「なにこれ・・・・・・可愛い」

・・・・・・それは!

「マリー!危な・・・・・・」

「ドゴオオオオオォォォォオン!」

「くっ!」

 キャベツ・・・・・・キャベたんが爆発した。俺はシュクレの盾で事なきを得たが、マリーの方は大丈夫だろうか。

「・・・・・・っ」

「マリー!」

 あの大きな爆発を受けてもマリーはなんとか立っている。

「まだまだ・・・・・・」

「あ?まだ行けるのかお前?んじゃ、もう一発・・・・・・」

「『イドロジェ』!」

 俺は咄嗟にシュムレットに近づいて攻撃を放った。俺の攻撃にシュムレットは少しよろめく。意識が朦朧としていたマリーがこちらに気づく。

「シリルさん!私はまだ・・・・・・」

「お前は下がってろ。ここからは俺の仕事だ」

 俺は一瞬マリーの方に身体を向けたが、すぐにシュムレットに向き直る。そして俺はシュムレットを挑発するように言う。

「ほら、来いよ。俺が相手してやる」

 シュムレットは俺の挑発に乗るようにして返す。

「ふふふ・・・・・・この瞬間を楽しみにしていたぞ。ヴァイヤン・シリル!」

 その声とともにシュムレットはたくさんのキャベたんを出現させる。

「な・・・・・・この量の爆弾をどうすれば!?」

 取り乱しているマリーを他所に俺は「アズリーヌ」と唱え、右手に蒼い炎を纏わせる。続いて「シュクレ」と唱え、左手に大きなペロペロキャンディを握る。

・・・・・・勇者の技が使えないから、一番使いやすいアズリーヌとシュクレを使うしかないな。

「あ?なんかどっちも見たことあるな・・・・・・」

「『蒼炎合菓』!」

 俺は自分の両手を交差させ、左手を前方に振りかざす。

「ふぅ。仕事完了」

「あ?貴様、まだ終わってな」

「スパン」

 シュムレットの身体が横に真っ二つになった。それと同時に斬れたところから蒼い炎が出現する。

「痛っ!ってか熱っ!・・・・・・おのれ、ヴァイヤン・シリル!」

 蒼い炎は一瞬にして広がり、シュムレットの身体は灰になる。シュムレットの悲痛な叫びも塵となり消えた。

「え・・・・・・?ヴァイヤン・シリル・・・・・・?」

・・・・・・うーん。

 クラス・エクセスラントの生徒はとても強い。しかし、多分魔族との実戦経験は少なく、あまり戦えないと思う。

・・・・・・実際に戦ったほうがいいと思うんだよなぁ。魔王を倒した今でも魔王軍の残党は残ってるし。

 リュミエールに何らかの手段で魔族との実戦を頼もうと思った俺だった。

・・・・・・リーナには関係ないだろうけれど。


「え・・・・・・?ヴァイヤン・シリル・・・・・・?」

 私は目の前の光景に驚愕した。私が全く歯が立たなかった相手をヴァイヤン・シリルが一撃で片付けてしまったのだ。

・・・・・・こんな事、あり得ない!私は一番じゃなきゃいけないのに!


 私は、この国の隣、ピーボジンで第一王女として生まれた。両親は子宝に恵まれなかったので、やっと生まれた私を王女として継がせることを決めた。たとえ、弟や妹が生まれようともそれは揺るがないことだった。隣のソンブルヴァレの王族とも仲が良く、よくレフリクとは勝負をした。そんな何気ない日常は一つの出来事で簡単にひっくり返った。

「魔王軍の襲来だ!」

「こっちに逃げろ!」

 ある日、ピーボジンに魔王軍が攻めてきた。ピーボジンには全く魔王軍が攻めてきたことがなかったので、全体的な戦力は少なく、あっという間に侵攻は進んだ。

「くっ・・・・・・このままじゃ何もかもがおしまいだ!」

「せめてマリーだけでも・・・・・・」

 両親は私を隣のソンブルヴァレに預けることにした。自分たちは避難せずに、最後まで魔王軍と戦うらしい。当時六歳の私は無謀だ、と思った。せめて私も残りたい、と両親に伝えたのだが。

「マリーが背負う必要はないよ。残るのは僕達だけでいい」

 そして、ソンブルヴァレ国王がピーボジンの城に来て、私が引き取られる日になった。

「どうか・・・・・・マリーを頼む」

 その時の父の表情はとても切羽詰まり、とても苦しそうだった。私の予想通り、両親の顔を見ることは二度となかった。両親の悲報が届いた時、ソンブルヴァレの城内はとてもピリついていた。その頃からレフリクとの関係も悪化していった。


――魔王が倒された、という報告を受けた時は、何故か報われた気がした。その人にお礼がしたいと思った。名前は「ヴァイヤン・シリル」。英雄栄光式のときに声をかけようと思ったが、私は熱を出して寝込んでいた。


 まさか、その時はヴァイヤン・シリルがリュミエールのしかも一番上のクラス・エクセスラントに来るとは思わなかった。

「ヴァイヤン・シリルだ。勇者だが、魔法を学びたいと思ってリュミエールに入った。魔法は『イミテ』。あらゆるものをコピーする魔法だ。皆で共に高め合う良いクラスにしよう。よろしく」

・・・・・・へぇ。コピーの魔法。

 人は生まれた時から自分の魔法、強さが決まっている。だから、強くなれる限度は限られている。私の魔法は「フロレゾン」。花の魔法だ。できることはせいぜい花を生成するだけだった。しかし、私は自分の限界を破り、とても強くなることに成功した。それを魔法界では「才能がある」というのだ。私は両親から才能がある、とよく褒められて誇らしかった。けれども、私よりもすごい人が居た。

「『シュクレ』!」

 忌まわしいほどの種類の攻撃、一瞬で戦況をひっくり返す頭の回転、そして強すぎるペロペロキャンディ。どれをとっても私よりも強いプラリネ・カンディード。

・・・・・・どうして?どうして王族出身のわたくしより平民出身のカンディードさんの方が強いの?

 普通、平民よりも、貴族階級、貴族階級よりも王族が強い。もちろん、魔法の強さも比例する。才能があり、王族の私よりも強い平民など存在しない筈なのだ。それなのにも関わらず、プラリネ・カンディードは優に私の上を超えていき、最強だと思っていたレフリクですら超えた。

・・・・・・だけど、目の前の男は・・・・・・。

 魔法の強さは桁違いだ。しかし、実際に手合わせをしてみると、コピーした魔法を使わなければそれ程まで強くない。

・・・・・・思っていたよりも強くないじゃない。

 最強勇者で功績があったから魔法も強いのではないかと思ったが、失望した。私の感謝の気持ちは一瞬でひっくり返った。

・・・・・・「コピーした他人の魔法を使うのは自分の魔法を使ってない気がする」というのは違う気がしますけれど、本人がそれでいいのなら関係ないです。というか、使ってもそれほど強くないでしょうが。

 ヴァイヤン・シリルが私に大敗して回復したあとに、魔王軍のナンバースリー、ヴァルタリオン・シュムレットが来た。それを見て私は一瞬で確信した。

・・・・・・こんなの余裕よ。

 魔法がキャベツとは舐めてるわね!と思っていたのもつかの間、強い威力の爆発で私は一瞬で戦闘不能になった。

・・・・・・くっ!こんなのには・・・・・・。

 その時、目の前に現れたのはヴァイヤン・シリルだった。

・・・・・・私より弱い貴方なんかに何ができるのよ!

 そう思っていたのだが、ヴァイヤン・シリルは人の魔法を使ってシュムレットを一撃で片付けてしまった。

・・・・・・魔族との実戦経験が多いから?いや、でもこれは単なる強さ?

 私は何やら考えているヴァイヤン・シリルに声をかけた。

「シリルさん。どうして一撃で・・・・・・?」

「あ、マリー。意識あったんだな。どうしてと言われてもなぁ・・・・・・。これが自分の本当の実力だもんなぁ・・・・・・」

・・・・・・これが本当の実力?ということは、アレは本当の実力じゃない?

 嫌だ、もう誰かに越されるのは。自分の地位を失いたくない。そんな時、ヴァイヤン・シリルが手を差し出した。

「これ、使ってくれ。爆発の傷がよく治る薬だ」

「え・・・・・・?なんで?」

 その行動が私には理解できなかった。私には自分で治す術もあるし、そもそも助けられる義理なんてない。

「いや、お前に何回も魔法使わせて申し訳ないなって思ってな。あと、今日服を一緒に選んでくれたお礼だ」

・・・・・・こんな私のために?貴方をたくさん憎んで強く当たった私に?

 やっぱり理解できない。私がおどおどしていると、ヴァイヤン・シリルは照れくさそうに言った。

「俺達、仲間だもんな」

・・・・・・仲間。

 私は今までそんな言葉を掛けられたことがなかった。同時に私の胸が熱くなる。

・・・・・・嬉しい。

 その日から私はやけにヴァイヤン・シリルを意識し始めた。

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