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クラス・エクセスラント

第十二話 クラス・エクセスラント

「ん?おや。勇者シリル君じゃないか。はじめまして、どうもミネットです」

・・・・・・なんか猫が出てきたんだけど。

 「クブキアパホシャ」という召喚系の魔法を使ったら、猫が出てきた。白い猫。

「甘く見てもらっちゃあ困るね。これでも一応神の御使いなんだから」

「神の御使い?」

「そう。君のことはずっと見ていたよ。素晴らしい活躍だったね」

「・・・・・・っ、有り難うございます」

・・・・・・威圧がすごすぎる。神の威厳を感じるううう。

 圧が強すぎて、敬語を使ってしまった。

「・・・・・・なんの御用ですか?」

「『なんの御用ですか』じゃない!お前が呼び出したんだろ!」

「ひぃっ!すみません!」

 今のは素だ。ミネットの形相が怖すぎて、反射的に言ってしまった。


「やれやれ・・・・・・君には本当に驚かされる。心臓に悪い」

「すんません」

 ミネットと俺はようやく落ち着いて会話ができる状態になった。目の前にいる白い猫はため息を吐いて再び口を開いた。

「まさか私を召喚する魔法書がその辺にあったなんて信じられないな。・・・・・・本当は魔王討伐のために呼び出して魔王を倒すために私を使うのに・・・・・・」

・・・・・・俺はそんな物必要ないからな〜。

「というか、貴方は何の効果があるんですか?そもそも普通の猫は・・・・・・」

 普通の猫、というのはソンブルヴァレ帝国の国民は誰しも覚えている召喚魔法で召喚できる猫だ。その効果は、主に自分の癒やし、または誰かにムカついたり思考停止した時にその場を荒らし、自分の都合のいいようにできる。俺が使いたくなったのは人生で二回くらいか。リーナと喧嘩したときと、フールの本が分厚すぎたときかな。俺は偉い子だから絶対に使いません。

・・・・・・便利なんだろうけど。癒やしとか。

 ならば、魔王討伐にも使えるんじゃないかという疑問が生まれるが、それはできない。確かに、その場に応じて戦闘力が変わるが、まず魔族がいる半径三km(町に張られている結界を跨いだ時のみ)では使用ができない。

・・・・・・なのに、魔王討伐で使うってどういうことだ?

「私の場合は、親しみやすいように猫の外見をしているだけで猫じゃないぞ?」

・・・・・・そうなんだ。

 よくよく考えてみれば、神の御使いが猫だなんてくだらない。本当の姿はとても神々しいのだろう。

「はぁ・・・・・・。しょうがないな。勇者シリルよ、私がお前について行ってやろう。リュミエールのこと、魔法のこと何でも聞いてくれ」

「・・・・・・怪しまれないですか?」

「何を言っているのだ。私は神の御使いだぞ?姿を隠すことなんて朝飯前だ」

 ということで、神の御使いミネットが俺についてくるようになった。


 次の日。俺はリーナを引き連れて食堂に向かった。

「わあー。可愛いこの猫!」

「私は神の御使・・・・・・」

「はぁ〜癒やされるわ〜」

・・・・・・悲報。神の御使い、リュミエール最強魔法使いに敗北。

 ちなみに、食堂での俺のお気に入りは、カレーうどん。カレーもうどんも一から手作りしているらしく、とても美味しい。特に、魔法使いの素手に負けている神の御使いを見ながら食べるカレーうどんは最高だね。

『頼むからもう少し丁重に扱ってくれ・・・・・・』

 さっきから光の神にそう言われているが、俺は関係ない。ついてきたほうが悪い。

「絶対に許さない・・・・・・勇者シリル!」

・・・・・・はぁて?なんのことでしょう?

 俺は先ほどでかい態度をしていたミネットを心の中で嘲笑った。

「ってか、よく見つけたね神の召喚魔法の本」

「そこにあったんだが・・・・・・」

「まぁ、ラッキーってことだね」

・・・・・・あの、リーナさん?神の御使いだって分かってモフモフしてる?

 すごい度胸だ。俺がやったら殺されそうだが。

「本当にすごいな〜クロは。魔法の本を見るだけで魔法を完コピできるなんて」

「座学は嫌いなんだよなぁ〜」

 本当にそうだ。学校には行きたいものの、勉強はあんまりしたくない。頭が良い人の中には混ざりたくない。

・・・・・・強い人の中ならいいけど。

「というか、今日から授業だよ。同じクラス」

「どこのクラス?」

「クラス・エクスセラント。一番上のクラスよ」


「でっか!」

「そりゃあ、私達のために作られた建物だもん。最高級仕様だよ」

 俺達は朝食を摂ったあと、本館から少し離れた大きな建物の前に来た。そう、こここそがクラス・エクスセラントの生徒達が集い、学び、ともに高め合う校舎なのだそうだ。

・・・・・・ちなみに、本館の奥の方にある転移陣を使うと一瞬でここに来ることができるぞ。

「失礼しまーす・・・・・・」

 俺は恐る恐る建物に踏み込んだ。リュミエール本館とは違い、ちゃんと素材で作られている建物に。

・・・・・・なぜ中身の広さ無限の魔法を使わないかというと、生徒の魔法が強すぎて、魔法に耐えられないんだって。

 なので、建物自体に補強の魔法がついてる。もちろん、無限の魔法もつけてあるので、耐久値無限、保存無限の最強建物なのだそうだ。

・・・・・・まぁ、いくら強い魔法使いでもアンフィニ・エテルニテを超える魔法使いはそうそういないだろうからな。

 外見はコロッセオみたいな感じだが、中身は普通の学校だ。クラスは一クラスしかないため、教室の数は少ないが。

「どこに行くんだ?」

 さっきからずっとリーナについて行っているが、全く先が見えない。

「一番奥の教室。専用の教室が幾つかあるんだけど、今からは普段過ごすための教室に行くよ」

・・・・・・すごいな幾つも教室があるなんて。何に使うんだ?

 すると、リーナが急に止まった。どうやら教室に着いたようだ。そして、リーナが体を少しこちらに向けて「ドア開けてみな」と俺に言った。俺は緊張しながらもドアノブに手をかけた。そして、躊躇しない内にドアを開けた。

「あっ、やっと来た」

 ドアを開くと、真ん中には声をかけてきた金髪の男がいた。その周りには、何人か人がいる。一人は、教室の隅っこにいるが。

・・・・・・そこにいる金髪の男、なんか見たことがある顔だな。偉い人だっけ?

「やぁ、初めまして・・・・・・ではないよね?勇者シリル君。第一王子のスウィロワ・レフリク・ラファールだ」

・・・・・・第一王子だった!国王の息子だった!

 そう言えば、国王の息子はリュミエールに通っていると聞いたことがある。

・・・・・・何回か会ったことあるけど、最後にあったのは十年前くらいだから全く面影がないな。だから分かんなかったんだ。うん。

「・・・・・・お久しぶりです」

「もう、堅苦しい敬語は使わなくていいよ。これからは同じクラスメイトとして仲を深めようじゃないか」

 レフリクはニコッと笑った。滅茶苦茶怖い。その笑顔の裏に何が隠れているのか知りたくない。

「まぁ!?王子というだけで威張るなんて王族らしくないじゃないですか!?」

「・・・・・・威張ってないけど」

・・・・・・なんかクセ強そうな人来た。

 黄色に近い白色の髪を揺らしながら、くすみグリーンの瞳を見開いてレフリクを睨みつけた女性だ。すると、彼女はこちらを向いて、自己紹介をした。

「初めまして、勇者シリルさん。わたくし、フレー家の娘、フレー・マリーと申します。仲良くしてくださいませ」

・・・・・・聞いたことがあるぞフレー家。

 確か、数十年前に滅んだ隣の国、ピーボジンの王族の子孫ではないだろうか。いや、絶対そうだ。自分も王族だと言っているようなものだし、口調がお嬢様だし。

「だいたい君だって、威張っているじゃないか!?」

「はぁ!?貴方ほどではないですけれど!?」

・・・・・・うわぁ。なんか二人でバチバチしてるよ。

「大丈夫、気にしないで。いつもこんな感じだから・・・・・・。ちょっと二人共、やめなよ!」

 リーナが必死に二人を宥める。俺はそれよりも周りにいる人の方が気になった。

「やっほー。私、エティケッテ・ミジック。よろしくね」

 茶髪に薄い紫の瞳のメガネをかけた女性に声をかけられた。

・・・・・・なんか、明るそうでいい人そうだな。

「ヴァイヤン・シリルだ。よろしく」

・・・・・・ん?隣にいる人も見たことあるような・・・・・・。

 下を向いている濃い緑色の髪の男を見ながら俺は思った。すると、突然その男が俺に襲いかかってきた。

「⁉︎」

 突然のことで対処できず、俺は後ろに倒れてしまう。気づけば、俺はその男に足で踏まれていた。

・・・・・・あぁ、思い出した。

「・・・・・・フー・アイバー」

「へぇ〜覚えててくれたんだ〜?」

・・・・・・面倒くさいな。

 昔からこいつとは少し因縁がある。少々ややこしい因縁だ。俺が倒れ、踏まれたことから、教室中の視線が集まる。レフリクとマリーは喧嘩をやめて、こちらを見ている。

「その足をどけろ」

「・・・・・・マジでお前ふざけんなよ!」

「『シュクレ』!」

 俺に一撃が入る前に、アイバーにリーナの一撃が入った。ペロペロキャンディで殴られた。痛そう。

「大丈夫、クロ?」

「あぁ、大丈夫だ。それよりもあいつどうにかしてくれ」

 俺は指を吹っ飛ばされたアイバーを指して言った。

「お前ふざけんなよ!?俺は昔からお前と比べられて嫌な思いばっかりしてたんだ!せっかく魔法業界に逃げたのに、お前がきたんじゃあ意味がないだろ!」

 そう、こいつは昔俺と勇者のライバル同士だった。

・・・・・・しかも、ヴァイヤン家が本物の勇者の血筋だというのに、こちらが本物だと言い張るフー家の末裔なんだな、こいつは。

 どうやら、勇者が嫌すぎて魔法に逃げたらしい。逃げたら意味ないじゃん。

「なんで魔法業界に来たんだよ⁉︎」

・・・・・・興味本位で。

 こいつは昔からこうやって文句を言いまくっていた。こういう時は、ガツンと言ってやらないと静かにならない。

・・・・・・あんまりやりたくないけどな。

「はぁ、はぁ。間に合ったか?」

 俺のイライラは入室してきた一人の男によってかき消された。

「フランジェか?お前もここの教室だったのか」

「俺も結構優秀だったみたいで・・・・・・。俺はシリルと一緒になれて嬉しいよ」

 周りの皆がひいている。ガタイがいい男が来たからではなく、俺にタメ口で接しているからだ。

・・・・・・なぜかというと、どうしてもこのガタイがいい男に「シリルさん」って言われるのに慣れなくてね・・・・・・。わざわざ矯正してもらったわけだ。

「はーい。皆さん席についてくださーい」

 俺はビビった。どこからともなく現れた女性に。

・・・・・・どうやって登場したんだ?

 疑問はたくさんあるが、とりあえず俺は指定されている席に座った。周りの皆は、普通に席についているが、フランジェは少し奇妙なものを見る目で教室に入り、着席した。

「今年もこのクラスの担任をすることになりました。セレナ・リュヌハートです」

・・・・・・この人がリュヌハート先生か。

 リーナから話は聞いていた。ずっとクラス・エクセスラントの担任をしていて、生徒たちから絶大な人気を誇る先生だと。

・・・・・・なんか、すごく夜が似合いそうな人だな。

 夜空のような紫色みがかった藍色の髪に月のような金色の瞳。まさに、夜を擬人化した人と言っても過言ではない。

「私の魔法は、『リュヌ』・・・・・・月の魔法です」

・・・・・・ビンゴだったわ。

「じゃあ、皆さんにも自己紹介してもらいましょうか」

 そこで俺はハッとした。なんと、生徒が俺を含めて八人しかいない。

「先生!」

「なんでしょう、シリル君」

「なんでこのクラスは八人しかいないんですか?」

 俺は居てもたってもいられずに聞いてしまった。すると、さっきまで笑顔だったみんなの笑顔がもっと笑みを増した気がした。

・・・・・・え?何?怖いんだけど。

「よくぞ聞いてくれました、シリル君。もともとは三十人ほどいたんですけど、大体の人は高等部昇格試験で落ちちゃったんですよね。あとは、訓練中に大怪我しちゃった人とか、苦しすぎてやめちゃった人とか色々いるんですよね。まぁ、それも実力なんで弱かったら切り落とすんですけど」

・・・・・・は?

「だから、新入生のお二人。このクラス・エクセスラントで生き延びられるように頑張ってくださいね」

「そうだな。勇者業や入学試験ではうまく行ったかもしれないが、ここではそうとは限らない。なんせ、予想外のことしか起こらないからな」

 レフリクがそう言った。他の五人も賛同するように首を縦に振った。

・・・・・・この先うまくやっていけるだろうか。

 俺の中に妙な胸騒ぎがするのと同時に不安が広がった。

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