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平穏後不穏

第十話 平穏後不穏

「ってかさ、クロって・・・・・・好きな人とかいるの?」

 次の瞬間辺りが爆発した。詳しくは、フランジェの特大魔法が放たれた、と言うべきか。

・・・・・・急に何だよ!?

 好きな人なんて今まで考えたこともない。何にせよ、今まで人との交流が少なかったため、異性と接することは勿論、男同士の交流もない。そんな俺の好きな人・・・・・・だと!?

・・・・・・いるわけ無いじゃないか。俺と仲の良い女子なn・・・・・・目の前にいるだと!?

 いた。プラリネ・カンディードだ。当の彼女はじっとこちらを見つめてくる。

・・・・・・なんでこいつはこんなことを聞いてくるんだ!?怖いんだけど!

 と、そんなことは・・・・・・置いとけないが、一度置いとこう。本題は聞かれた内容だ。「好きな人」?は?

・・・・・・いや、そんな目で見られてもなぁ・・・・・・。

 リーナがキラキラした目でこちらを覗き込んでくる。なんだ?恋バナが好きなんか?

「早く、答え・・・・・・」

「ヒュンッ」

「ひっ!」

 なんか、光線状の攻撃が飛んできた。しかし幸いなことに、俺等の間にあった木の幹に直撃した。

・・・・・・危ねぇ!マジで気づかなかった!

 飛んでくる方向を見ると、ボロボロのアルマジーニと息を切らすフランリュー兄弟の姿が見えた。

「どうだブルン。順調か?」

 俺達はすぐ彼らに近づき、言った。すると、ブルンは難しい表情で考え込む。

「そうだな・・・・・・。確かにダメージが入ってるんだが、全くやられる気配がない。・・・・・・魔王を相手にしているみたいだ」

・・・・・・何だと!?

 ブルンの魔法ですら刃が立たないとは思っていなかった。しかも、魔王ほどの強さだというのだ。

・・・・・・そんな事、あり得るのか?

「くっ・・・・・・こうなったら、諸共自爆で巻き込んでやる!!」

 アルマジーニがそう言い放ち、自爆準備を始めた。

・・・・・・わーお。光線全力ぶっぱで辺り一帯が吹き飛ぶから、自爆って相当強いよね?

 俺は考えた。自爆は止めなくていいだろう。しかし、威力を最小限に抑える必要がある。

・・・・・・そうだ。まず、「メタリュルジ」で滅茶苦茶硬いシェルターもどきを作る。周りを「シュクレ」で作った飴細工で囲い、衝撃を抑える。さらに、「イドロジェ」で出した水で衝撃を吸収する。完璧だ。

「俺に任せろ!『メタリュルジ』!」

 俺はアルマジーニに向かって駆けながら呪文を唱える。窮地で覚醒しているからであろうか、今ではメタリュルジで何でも出せそうだ。

「危なっ!」

 不意に、フランジェの声が聞こえる。

・・・・・・なんだ?

 自分のことに集中しすぎて、何が危ないかが分からなかった。

「どうしたんだフランジェ!」

「・・・・・・あいつ、自爆準備をしながらシリルさんに向かって攻撃を放っています!気をつけてください!」

・・・・・・最期までおっかないな。やっぱりあいつ、宇宙に捨てるか?

 宇宙に捨てる―――厄介な敵を空高くふっ飛ばして、宇宙に置き去りにすること。人間は、生きていられるが、魔族は耐性もないし、泳げないので宇宙に行ってしまったら帰ってこれないのだ。なので、宇宙に捨ててくる人が多い。

・・・・・・いや、止めるか。宇宙に捨てたら神が怒って三日間ほど腹痛が止まらなくなるからな。もうあんな痛い思いは懲り懲りだ。

「よし、作れた!」

 かなりでかいアルマジーニを捕えるにはそれなりの大きさのシェルターもどきが必要だ。そのぐらい大きいものを「メタリュルジ」で生成するには、かなり時間がかかる。

「どりゃあっ!」

 突然手に現れたシェルターに少し驚きながら、俺は地面に向けて設置する。

「何だこれは!?」

・・・・・・今更気付いたのか?遅くね?

 シェルターの中のアルマジーニの籠もっている声を聞きながら俺は思った。

「『シュクレ』!」

 続いて俺はシュクレで飴細工を出した。そして、シェルターをコーティングするように上から覆い被せる。

「き・・・・・・ま・・・・・・ない」

・・・・・・なんて?

 防音性が高いのだろう。アルマジーニの声が殆ど聞こえない。順調なようだ。最後に仕上げだ。

「『イドロジェ』!」

 俺は大量の、しかし威力は弱めで水を放出した。すると、あら不思議。完全版シェルターの出来上がり。

・・・・・・あとは爆発を待つだけだな。


 その時は思ったより早く来た。大体二分ぐらいかな。

「ボンッ」

「ん?爆発したか?」

 思ったよりも威力が小さすぎて爆発したかどうかがわからなかったが、間違いない。小さめの水素爆発よりも威力が全然小さい。

「解除!」

 次の瞬間、シェルターや飴細工など全部がなくなった。案の定、というべきか、そこにアルマジーニの姿はなかった。残されていたのは禍々しく濁った赤黒い色の魔石だった。

「なんだこれ・・・・・・。なんか見たことあるような・・・・・・」

「どうした?・・・・・・それは!」

 近くに来たブルンが青ざめた。そして再び口を開いた。

「・・・・・・闇の女神の仕業だ」

「闇の女神・・・・・・?」

 闇の女神と言えば、神話に出てくる神だ。確か、神話は光の神と闇の女神が喧嘩するお話だった。神様も血の気が多いですね〜という趣旨の内容だが、実話らしい。

・・・・・・実話とは言え、本当に存在するとは思わないだろ。

 ブルンの話によると、闇の女神は存在するらしい。一度会ったことがあるらしく、どうやら魔王を操っているようだった、というのだ。

「・・・・・・とても恐ろしい気だった。全く勝てそうにない」

・・・・・・そりゃあ、神ですもんね。

 というか、俺はそれより前の言葉に引っかかった。

「『魔王が操られていた』というのが本当ならば、アルマジーニも操られていたのか?」

「あぁ。おそらくそうだ。残った魔石が闇の女神の色である赤黒い色だからな」

 ブルンが表情を変えずに言った。それほど闇の女神が強大な存在なのだろう。俺もどこか緊張感を覚えてしまう。

「・・・・・・で、この魔石どうするんだ?」

「あぁ。これは・・・・・・って待て!その魔石は・・・・・・!」

「ボンッ」


「・・・・・・痛っ」

 なぜかよくわからないが、アルマジーニの魔石が爆発した。その後、俺達は爆発に巻き込まれて意識が暗転した。

・・・・・・さっきの自爆とは打って変わってちゃんと音も聞こえたし、衝撃も来たな。

「・・・・・・言い忘れていたな」

 自分の傷を押さえているのか少しぎこちない歩き方をして向かってくるブルンが言った。

「何を?」

 嫌な予感というか絶対知らなきゃやばいことだと思ったので、ちょっと不機嫌気味で俺は言った。

「闇の女神に操られていた魔族の魔石は倒したやつも根絶やしにするために、一分後に爆発するんだ」

・・・・・・うん、そういう事は先に言っておこうね?

 しかし、俺の頭を再び疑問が襲う。

「・・・・・・魔王戦の時は、魔王って魔石落としたっけ?」

「・・・・・・お前、倒したのに死体撃ちする勢いで攻撃を続けてたから魔石落としてたのに粉々になってたぞ」

・・・・・・そうだっけ?

 自分のおっちょこちょいさに少し呆れてしまった。自分が。


 それからというもの、大変であった。謎のバリアが張ってあって入れなかったという教師たちが話を聞かせろと言い、俺を含めたけが人を移動させた。眠って目覚めたあとは、すぐ王と対面。滅茶苦茶称賛されて首席合格になるわ、ブルン釈放されるわ色々大変であった。嬉しいけど。そして、なんやかんやあって入学式前日になった。


「着いたー!」

「・・・・・・あぁ、ここか」

 寮に入るのが入学式前日ということで、俺達はリュミエール―――アンサティテュ・デ・ソルティレージュ・エ・ドゥ・ラ・リュミエールにやって来た。

・・・・・・これが学校?ただの鉄塔にしか見えないのだが・・・・・・。

「昔はエッフェルタワーっていう建物だったんだけど、フンデター・エフィルっていう人がエスパス・カドリディメンショネルっていう四次元空間を中に広げて・・・・・・」

・・・・・・何を言っているのか全くわからないのら。

 こういうのは要約することに限る。簡単に言えば、ある人が四次元空間を中に広げてそこに学校を作ろうということになって、結局魔法の学校にしたってわけ。うん、これで大丈夫!リーナの大丈夫じゃないだろ、という声が聞こえた気がしたけど気のせいなのら。


「入りまーす」

「んんんんんん?」

 聞いてはいたものの、とっても広い。コヴンヌ・アンシャンテアの周辺地域の町よりも全然広い。

「じゃあ、私部屋に行ってくるから。一番端っこの部屋ね。遊びに来てね」

 そう言い残し、リーナはどこかに行ってしまった。

・・・・・・え?俺は何をするかって?校長室に行って説明を受けるんだ。

 ちなみに、まだ俺達には教えられないが、一瞬でそこかしこを移動できる呪文をリーナに教えてもらった。

「アンカンテス プリュシパル!」


「やぁ、シリル君。まさか、移動呪文までマスターするとは・・・・・・」

 校長室に着くなり、校長に褒められてしまった。

・・・・・・前もめっちゃ褒められたのにな。

 俺はほんの数日前のことを思い出そうとしたが、壮絶な記憶だったので封印しておくことにした。すると、扉が開いた。

「やぁ、フランジェじゃないか。元気そうだな」

「お久しぶりです、シリルさん」

「俺もいるぞ、勇者シリル」

・・・・・・だから自己主張が激しいんだって。ブルンさん。

 なんと、ブルンの功績が称えられ、リュミエールに入学することになったそうだ。

・・・・・・入学する以前に、釈放されたときからブルンはテンション高かったな。

 なんだか学校が騒がしくなりそうだ、と思いつつ、俺は校長の話を聞いた。大体はリーナから聞いたことだが、ちゃんと聞き漏らしがないように聞いていた。


「ふぅー。やっと終わったー」

 俺は校長からもらった「1101」と書かれた鍵を見ながら言った。

・・・・・・どうやら同居人がいるらしいからな。仲良くしないとな。

 それよりも、俺は初めての「寮」に胸を弾ませ、どうにも落ち着かない自分がいた。

・・・・・・十一階に着いたな。後はこの階の端っこか。

 そういえば、リーナも端っこって言ってたっけ?階は違うかもしれないけれど、たまには遊びに行ってやるか。

「着いた」

 俺は「1101」という番号が書かれたドアの前で一度止まった。

・・・・・・これが、俺の学園生活の始まり・・・・・・。

「よし!鍵を・・・・・・」

 と思ったが、鍵は開いていた。

・・・・・・そりゃそうか、中に人がいるんだな。

「失礼しまーす」

「ん?クロ?来てくれたんだ!」

 中にいたのは見知った幼馴染だった。

「・・・・・・リーナ?」

「どうしたの?」

「・・・・・・ここ俺の部屋」

「え?ここ私の部屋なんだけど」

「「・・・・・・」」

 沈黙が流れる。

「「え?」」

 今やっと脳が働いた。それと同時にやばいことに気づいてしまった。

・・・・・・え?俺の同居人ってリーナ?え?

 俺の学園生活が始まった。


 リュミエールから遠く離れた場所、ドメーヌ・ドゥ・ラ・ニュイ・エテルネル跡地に集まっている者達がいた。その中で、一番偉いと思われる女性が足を組んで座っていた。顔は隠してあるため、よく見えない。

「・・・・・・アルマジーニが負けたか」

「大丈夫ですよ。まだ手駒はたくさんあります。・・・・・・それに、まだ貴女様のほうが強いです」

 側にいる者たちは、必死に慰める。しかし、彼女の態度が変わることはない。

「あーあ。結構凶暴で操りやすかったのになー。それにしても、ヴァイヤン・シリルは強いね」

「左様でございます。私も一度手合わせをしましたが、とても人間が到達できるような強さではありません」

 手下の一人が、賛同する。その様子を見て、少し落ち着いたのか、彼女は一度ため息を吐く。そして、下げていた顔を勢いよく上げた。

「どうされましたか?」

「・・・・・・いいこと思いついちゃった。そうだ、リュミエールでならあいつは無防備だ。あらかじめ作っておいた伏兵が役に立つ時が来たね〜」

 顔は見えないが、明らかにニヤついていることが分かる。その提案に手下たちも喜んだ。

「そうですね。やっと・・・・・・」

「誰か一人監視役で行ったほうがいいんじゃないか?」

「ならば、私も行かせてください」

 ここで、一人の男が立候補した。

「そうだね。君なら潜入しやすそうだ。いってらっしゃい」

「有難うございます!やっと役に立てます!行ってきます!」

 そう言い残すと、その男はすぐさま去っていった。

「・・・・・・今じゃないんだけどね。まぁ、あの子なら戦略無しで戦えそうだからいいんだけど」

 彼女はまたため息をついた。

「しばらくは、彼に任せてよろしいですね?」

「えぇ、そうね。やっと休めるわね。あなた達もありがとう。今日はもう上がっていいわよ」

「有難うございます。闇の女神様」

 そう言うと、彼らもどこかへ消えてしまった。誰もいなくなった部屋で闇の女神と呼ばれた女は独り言をこぼす。

「ふふっ。貴方を私の手で消すのが楽しみね〜ヴァイヤン・シリル」

 それはまだ、先のお話であった。

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