真面目な話
第九話 真面目な話
前回のあらすじ。ブルン襲来。
「久しぶりだな」
上空から舞い降りて(?)地上に降り立ったブルンは俺たちに向かって言った。
「ブルン・・・・・・!生きてたのか!」
「あぁ。・・・・・・一回死にそうになったがな。何とか生きてるぜ」
・・・・・・良かった。いろいろな意味で。
ブルンが生きていること、そして完全に人間側についていることが分かり、俺は肩の力が抜け、その場に崩れ落ちた。いや、正確には、疲れてしまったのだろうか。
「うぇ⁉︎クロ!大丈夫?」
「・・・・・・あ、あぁ。少し疲れてしまったみたいだ。最近激しく動いてなかったからな」
・・・・・・それよりも・・・・・・。
俺はそれよりも気になることがある。俺は視線を上に向ける。案の定、見つめ合っている二人がいた。
「お前・・・・・・フランジェか?」
「・・・・・・」
ブルンが目を剥き、驚きを含んだ声でフランジェに聞いた。しかし、フランジェの目は、驚きか、動揺か、それとも怒りなのかわからないが、とても震えている。
「・・・・・・フランジェ?」
「・・・・・・兄貴。俺、兄貴に会って一番に言いたかったことがあるんだ」
「?」
ブルンは解っていないようだが、フランジェは過去の事・・・・・・魔族側に裏切った事を相当怒っているはずだ。
・・・・・・どんな罵詈雑言を・・・・・・?
そんな俺の心配を他所にフランジェは、ブルンの肩をガシッと掴んでから口を開いた。
「兄貴・・・・・・おかえり・・・・・・。ずっと会いたかった・・・・・・」
・・・・・・あれ?おかしいぞ?
フランジェから発せられた言葉は、俺が想定しているよりも優しい言葉であった。一連の流れを完全に理解しているのは俺だけなので、この驚きを共有できる仲間がいないのがとても残念だ。
「・・・・・・フッ。ただいま。お前は変わらないな」
「兄貴だって」
・・・・・・何はともあれ、一件落着・・・・・・か?
俺が呆然と立ち尽くしている間に、二人は仲睦まじく話をしていた。まだ生きているアルマジーニの存在も忘れるほどに。
「『オブリヴィオン』!」
「あ、忘れて」
「『シュクレ』!」
俺達が油断していたところ、光線が放たれる方向にリーナが出て、シュクレでバリアのようなものを張った。おかげで俺たちは無事だ。光線の残留粒子が強いので、かなりの魔力を使用したと分かる。恐らく、直撃したら跡形も残らなかっただろう。
・・・・・・あっぶねぇ〜。リーナにまじ感謝だわ。俺でも助かる方法が魔法含めると二十通り程しか思い浮かばなかったからな。
「クロ!どーすんのアイツ!見た所その人が倒す要になるんでしょ?」
リーナがブルンを指差しながら言った。その通りだ。アルマジーニが言っていた事が本当ならば、ブルンがいれば勝てるはずだ。俺はその旨をブルンに端的に伝えようと思ったが、口を開く前に「あぁ、そうだ」とブルンが言った事で俺の出番は無くなった。
「アイツを倒すには俺が鍵となる。・・・・・・正直、一人じゃ勝てないからな。アイツが来た先がここで助かった」
それから、ブルンはここに来るまでの一連の流れを語ってくれた。アルマジーニが魔族収容所をぶっ壊し、人間も魔族も無差別にエネルギーを吸収したことは知っていた。しかし、ブルンはアルマジーニに対抗し、戦ったそうだ。あまりにも戦いが長引いて、アルマジーニがイライラし始めたのでブルンのエネルギーは強大だが、目的をエネルギー吸収から殺すことに変更した。かなり本気で痛ぶられて危ない所だったが、何とか一命を取り止め、アルマジーニの魔力を追いかけてきたらしい。
・・・・・・災難だったな。本当に。
「・・・・・・っと、話している間にかなり魔力を溜めたな。あれが放たれたら俺たちは無事で済んでもここら一体が吹き飛ぶな」
ブルンの緊迫した声色からも、ヒリヒリと肌で感じる魔力からもかなりやばい状況だと分かる。
「私、魔力そろそろ限界かも!休んでもいい?」
リーナが疲れ気味の声で言う。
「大丈夫か?よく休め」
「クロも休みなよ。魔力切れなんでしょ?」
・・・・・・確かにな。
俺がリーナの心配をした所、逆に心配されてしまった。最強勇者として、少し不甲斐ないが、今は本当に疲れている気がするので、その言葉に甘えることにした。それとともに、リーナはバリアを解いた。
「さて。勇者シリルとリュミエール最優秀の魔法使いが動けないとなると・・・・・・俺とフランジェだけか」
ブルンがため息を吐く。今まで、動けない事がなかったため、とても申し訳ない気持ちになってしまう。
「何だよ。そんな心配しなくてもいいさ。俺はお前のおかげで弟と再会できたんだ。もう頼ってばっかじゃいけないからな。・・・・・・それに、俺が収容所で食い止めていればこんなことにはならなかった。俺なりの罪滅ぼしでもあるんだ」
・・・・・・ブルン、いろいろ背負うのもいいが、背負いすぎにも気を付けろよ。
そう伝えるつもりだったが、それよりも自分の方がいろいろ背負っていることに気づいたのだ。
・・・・・・どちらかと言うと、自分に対しての忠告だったのかもな。
「行けるか?フランジェ。行けなそうなら、俺一人で・・・・・・」
そんな深いことを考えている自分を他所に、ブルンはフランジェに問いかける。フランジェはその質問にすぐに答えた。
「行けるさ!兄貴。共闘もしたいしな」
「決まりだな。行くぞ、フランジェ。作戦はやりながら伝える」
ブルンの言葉にフランジェは静かに頷いた。それを合図にするように、二人はアルマジーニの方向に駆け出した。
・・・・・・フランジェも分かっているようだったし、昔からそんな感じだったのかもな。
俺はそんなことを考えながら、二人の背中を見ていた。
「よいしょ」
二人が戦っている間、俺とリーナは木陰に座って休んでいた。
「俺達本当に休んでていいのか?」
「うーん。いいんじゃない?もしもの事があれば、すぐ行けばいいし」
そんな感じで俺とリーナは当たり障りのない話をした。試験がどうなるか、とかブルンの扱いがどうなるのか、とか重要なこともあったが、「全部国王が決めるから分かんない」という答えに収束した。
・・・・・・なんか国王って、風関係の魔法だから風の噂でそういう出来事は全て把握しているらしいからな。その能力、滅茶苦茶国王に向いてない?
「おー。派手にやってんなぁー」
俺はブルン達の方を見ながら言った。さっきから所々爆発している。ブルンがいるとはいえ、魔王軍ナンバー2に苦戦しているようだ。
・・・・・・俺が最強なだけであって、アルマジーニは普通に強いぞ?
「ところで、クロはリュミエールに入った後、何したい?」
「何したいって・・・・・・」
「あぁー。聞き方が悪かったね。クロは魔法使ってるでしょ?その魔法でクロ自身は何か達成したいものとかある?」
・・・・・・達成したいもの?
これまでに達成したものなんて数え切れないほどある。魔王軍を約九割壊滅、幹部全滅、魔王討伐・・・・・・とかだけではなく、ソンブルヴァレやル・モンド・エトワールの中で記録を塗り替えたし、地域のお祭りとかの商品は総なめしてきた。
・・・・・・勉強系は無理だけど。
そんな俺がこれからやりたいこと。世界も平和になったし、勇者の仕事はもうない。魔法でできること・・・・・・。
「・・・・・・毎日をちょっと豊かにすること?」
「それしかないかもね。クロらしいよ」
フフッとリーナが微笑みながら言った。こんなに自然体で笑っているリーナは久しぶりに見た気がする。
「・・・・・・それはそうとして、何でもお願いを聞いてくれるって本当?」
・・・・・・うん、ナンノハナシカナー?
「・・・・・・うん。本当だけど?」
嘘だなんて言えない。だってマリ姉が言っちゃったんだもん。もう言い逃れなんてできない。
「それがどうしたの?」
「んー。まだお願い事は秘めておこうかな。もうちょっと先でいいかも」
・・・・・・逆に怖えよ。
こういうときはだいたい無理難題を押し付けられる。圧倒的既視感っていうやつだ。怖い。早く忘れてくれないかなー。
「はぁー」
リーナが大きなため息とともに、両手を広げて寝転がった。そして、口を開く。
「ってかさ、クロって・・・・・・好きな人とかいるの?」
次の瞬間辺りが爆発した。




