勇者と幼馴染
第一話 勇者と幼馴染
魔王ドラコス。一億年以上猛威を振るい、人々の生活を脅かしてきた。その強さは、「史上最強の魔王」と恐れられていた。
しかし、その歴史は一人の勇者によって絶たれたのであった。
「魔王ドラコスを討ち取った勇者シリルに『最強勇者の勲章』を与える」
勇者シリルが魔王ドラコスを討ち取って数日。シリルは、英雄栄光式と呼ばれる、このソンブルヴァレ帝国に貢献したものを祝う式に呼ばれた。
「最強勇者の勲章」とは、この国に貢献した人の中でも、戦いにおいて良い功績を残した人物や、魔王を討伐した人物に贈られる。別に勇者じゃなくてもよいのだ。
・・・・・・それにしても、人が多いな。
この国中の偉い人たちだけでなく、一般人も招待されているため、かなり賑やかだ。知り合いは居ないけど。
・・・・・・あいつはいると思ったんだけどな。
勲章の授与が終わったら、食事と談笑だ。授与のときの張り詰めた雰囲気とは違い、和やかな雰囲気になった。
・・・・・・国王が友好的って、この国だけだよな?
普通の国では、国王が普通の人間と普通に喋るなんてありえないことだが、この国ではありえるのだ。
「シリル君」
「あっ、ハイ」
噂をすれば、国王ロワ・ラファールが近づいてきた。「ロワ」というのが王の名前で、それに続くのが個人の名前である。
「何の用事でしょう?ラファール国王」
「魔王を討伐してくれてありがとう。王族一同感謝する」
「こちらこそ。国王にはたくさん装備も揃えていただきましたし、騎士団の後援がなければ魔王城までたどり着けませんでした」
そんな感じで、少し話をして国王は去っていった。
・・・・・・今までゆっくりできなかったもんな。全力で楽しむぞ!
ヴァイヤン・シリルことシリルは、代々勇者の家系であるヴァイヤン家の一員である。幼い頃から勇者になるための訓練を毎日していた。10歳頃になると、休みの日はなく、友達とも遊べなくなっていた。
しかし、従順にできるわけがなく、たまに訓練を抜け出したり、訓練を見てくれているじぃちゃんに対抗したりしていた。だから、この英雄栄光式はシリルにとって、たまらなく嬉しいものであったのだ。
英雄栄光式は、数日にわたって開催された。式が終わると人々は、普段の生活に戻っていく。しかし、普段の生活が普通ではないシリルはなにか退屈を感じていた。
・・・・・・訓練もないし、魔族も魔物もビビってここ数日は出てこないし。退屈だなぁ〜。
ふと、シリルの頭に『魔法』という言葉がよぎった。
・・・・・・魔法、してみたいなぁ。
昔から、魔法には興味があった。幼馴染のリーナことプラリネ・カンディードが魔法使いで、強かったはずだ。
・・・・・・あいつはな。
「たあぁ!」
半年前、いつもと同じように俺は訓練を抜け出して、リーナと戦っていた。
「ちょっと休憩しよっか?」
リーナがそう言い、俺達は近くのベンチに座った。そこで俺は、大事な話を切り出すことにした。
「リーナ。俺、明後日から魔王討伐に行くことになったんだ」
普通、この場合の「魔王討伐に行く」という言葉は、「死にに行く」と言っているのと同じだ。しかし、リーナは俺の予想を裏切った。
「すごいじゃん、クロ!魔王討伐なんてなかなかできるもんじゃないよ!」
「・・・・・・悲しまないのか?」
「クロだったら絶対に成し遂げられるって思ってるから!それで?私も行っていい?」
「・・・・・・」
俺は、1人で行くつもりだった。そして、リーナに危険が及ばないようにしたかった。ただ敵の攻撃だけでなく、自分の攻撃によって危険が及ぶかもしれなかったからだ。
「ごめん・・・。俺は1人で行く」
「え・・・・・・?」
「ごめん。俺が帰ってくるまで待っててくれるか?」
「・・・・・・意味わかんない!もうクロなんて知らない!」
「あ」
リーナはそう言い残して部屋に引きこもってしまった。魔王討伐に行く前も、家に寄って呼んでみたが、返事はなかった。
・・・・・・まじであいつ。そろそろ出てきてないかな。
そう思いながらも、俺はリーナの家の目の前に来た。
「ごめんくださーい」
「はーい」
返事をしてくれたのは、リーナではなく、リーナの母親のプラリネ・キュイジーヌだ。彼女は、料理の魔法を操るらしい。ちなみに、リーナはお菓子の魔法を操る。
・・・・・・魔法って家族で似るのかな?
そんな事を考えていたら、リーナの母親が出てきて「早く入って頂戴。リーナに用事があるんでしょう?」と言った。
「そうですね・・・。リーナが引きこもる原因は俺なので、俺が引っ張り出さないと」
「そんなに責任を負わなくてもいいのよ。あの子、ご飯だけは食べるから」
・・・・・・それなら安心・・・・・・じゃないな。
まぁ、なんやかんや家に入れてもらい、リーナの部屋の手前まで来た。
「おーい、リーナ。いるんだろ?」
あれから5分。ずっと同じことを言っている。全く出てくる気配がないぜ。
・・・・・・必殺技使うか。
「リーナ。何でもするから!魔法教えてくれ!」
必殺、「何でもする」&「魔法」。だいたいこういう言葉を言えば、リーナは振り向く。昔からそうだった。
・・・・・・まぁ、「何でもする」って言ったら、結構自分の代償が大きいのだが。
すると、案の定リーナから返答があった。
「・・・・・・魔王を倒したあなたには必要ないでしょう?」
「魔法を学びたいんだ。それも、リーナに」
少しの沈黙の後、またリーナの声が聞こえた。
「・・・・・・何でもするのね?」
・・・・・・あぁぅ。やばい。これは無理難題が来そうだぜ。オワタ。
だがしかし、ここまで来て引くわけにはいかない。俺はもう覚悟を決めたのだ。
「・・・・・・あぁ。何でもする。だから――」
魔法を教えてくれ、と言いかけて、ドアがガチャっと開いた。その音が喋っているときよりも少し元気を取り戻したように聞こえた。すると、リーナの姿が見えた。
「・・・・・・もう後には戻れないからね?」
・・・・・・うわぁ。美人だ。
なんか昔からこいつかわいいなとは思っていたけれど、数日見なかっただけでなんか美人になっている。こういうのは生まれつきなのだろうか。リーナの特徴的なチョコレート色の髪がサラリと揺れる。
「もちろんだ」
「今寝起きで眠いから今度でいい?」
「今昼過ぎですけど!?」
やべ。思わず声に出しちゃったぜ。
「いやーごめんごめん。最近ずっと寝てたからさ」
「・・・・・・俺のせいか?」
「もちろん。反省しろ」
その後こっぴどく怒られた。
「はい。膝枕して」
「うぃっす」
さっきからずっと願いを聞いてばっかりだ。
「あのー。いつ魔法を教えてくれるんですかー」
「んー。このままでいい?」
「なんでだよ」
「いや、立つの辛いもん」
・・・・・・しょうがないな。
俺がやってしまった罪だ。俺が許さないと。
「どうぞ」
「じゃあ、魔法の基礎を教えます。まず、魔法とは1人につき1つしかない唯一無二の物なの。性格と同じ感じだね。だから、同じ魔法を使う人は居ないの。・・・・・・ある特殊なケースを除いて」
・・・・・・ある特殊なケース?
「それってどんな・・・・・・」
「一つは魔法が人の魔法を奪うものや真似するというもの。こういうのは魔族しか持ってないから安心して。そしてもう一つは・・・・・・グリモワール・ダムネ・テヌーブルの所持者だけが使用できる魔法よ。それはクロが封印したはず」
・・・・・・あぁ。あれか。
そういえば、国の騎士団に言われて封印した本があったような・・・。
「まぁ。あまり深く考えないほうがいいよ」
「はぁ・・・・・・」
「そんで、魔法を習得するには『カンヌ』と呼ばれる杖が必要なんだけど、その素材がポワン・メディアン・モンタニューでしか取れないのよ」
・・・・・・はぁ?あそこ?
ポワン・メディアン・モンタニュー。通称メディアンと呼ばれる山である。そこは、ソンブルヴァレの中心地であり、この街であるコヴンヌ・アンシャンテアと、魔族の力が及ぶ領地ドメーヌ・ドゥ・ラ・ニュイ・エテルネルの中間地点に当たる場所である。そのため、魔物はたくさん湧くし、魔王を倒したとしても、独自の魔族が発達しているので、びびんないし、凶暴だし・・・。良くないことしか無い。
「とりあえず、行くしか無いのよ。・・・・・・だから、お願いね。最強勇者さん?」
俺の初めての復帰戦は、幼馴染の護衛になりそうだ。
・・・・・・なんか嫌な予感する。