第3話 国永プロダクション
<19:00 喫茶店「かりゅうど」>
池袋の裏路地、ネオンの光が淡く揺れる一角。
喫茶店「かりゅうど」の木製看板が、風に揺れてかすかに軋む。
店内は貸切で、木のテーブルと革張りのソファが暖かな照明に浮かぶ。
コーヒーの香りが漂い、窓に映るネオンの揺れにジャズが静かに溶け合う。
一はドアを押し開け、店内を見回す。
加撰と大波が既にソファに座っており、軽く手を振る。
加撰花怜は赤と茶のメッシュ髪を揺らし、和風のワンピースがしなやかだ。
コーヒーカップを置き、
「一、相変わらず鋭い目してるね」と軽くからかう。
大波勇大は金髪をポニーテールにまとめ、パーカーの袖をまくっている。
「一、遅いよ」
大波がリキッドを手に穏やかに笑う。
カウンターにはマスターの折遊夜が立ち、グラスを磨きながら一に会釈する。
長身でメガネの奥に鋭い目、落ち着いた大人の雰囲気が漂う。
「五虎社長は少し遅れるってさ。飲み物は?」
一はソファに腰を下ろし、
「コーヒーでいい」と答える。
湯気が立ち上るカップが、テーブルの上に置かれる。
テーブルの端には、国永プロダクションの秘書、大倉が座る。
オレンジと黄緑色のポニーテールが目を引き、ノートパソコンを膝に抱える。
彼女は一をちらりと見て、
「初めまして、大倉佐葉。よろしく」とぶっきらぼうに言う。
一は軽く頷くが、初対面の彼女にわずかな警戒心を抱く。
「佐藤一、よろしく」
<互いの近況>
折がコーヒーを運んでくると、会話が始まる。
加撰が身を乗り出し、切り出す。
「一、探偵ってどんな感じ? 舞台辞めて、ずいぶん変わったよね」
一はカップに手を伸ばし、苦笑する。
「舞台より地味だよ。ストーカー追ったり、証拠集めたり。……でも、最近、妙に騒がしい」
大波がリキッドを手に、煙をそっと吐く。
「裏方やってると、そういう話、嫌でも耳に入るよ。過労とか、嫉妬とか、噂とか……業界の裏って、けっこう重いよね」
彼の声は穏やかだが、どこか冷めた響きがある。
加撰が頷く。
「私も現役で舞台やってるけど、ほんと、キラキラしてるのはファンの幻想だけ。スケジュールきついし、共演者の目が冷たいときもある」
彼女の言葉には、2.5次元の華やかさへの皮肉が滲む。
佐葉はパソコンをカタカタ叩きながら口を挟む。
「国永プロダクションも似たようなもんだよ。五虎社長、楽天的すぎて面倒くさい。毎日書類と格闘してる私がバカみたい」
一は彼女の声に苛立ちを感じ、思う。
――こいつ、業界の裏を何か知ってるかも。
<舞台界隈のタブー>
一がコーヒーを一口飲み、切り出す。
「そういや、2.5次元俳優の行方不明事件、どうなんだ? 早乙女藍の件も、未だに解決してねえし」
その瞬間、店内の空気が凍る。
加撰のカップを持つ手が止まり、勇大のリキッドが一瞬静まる。佐葉はパソコンのキーを叩く手を止め、目を細める。
ジャズの音だけが、虚しく響く。
加撰が低い声で言う。
「一、その話……舞台界隈じゃタブーだよ。誰も触れたがらない」
勇大が煙を吐き、
「まあ、噂は尽きないよね。……ちょっと気味悪いよ」と静かに続ける。
佐葉はパソコンを閉じ、
「五虎社長もその話題、嫌がる。俳優のイメージに関わるからって」とそっけなく返す。
一は眉をひそめる、
「タブーだろうが、藍は消えたままなんだ。誰かが動かなきゃ、真相は闇の中だろ」
<噂話>
折がカウンターから身を乗り出し、口を開く。
「……なぁ、その話、ちょっとだけ聞いてくれ。2週間前、店に来た中高年の客が妙なこと言ってたんだ」
全員の視線が折に集まる。
加撰が身を乗り出し、
「何? どんな話?」と尋ねる。
折はメガネを直し、声を低くする。
「若い男の皮膚を剥いで赤く塗り、額縁に飾る……そんな悪趣味な作品が出回ってる噂話なんだけどよ……」
加撰が顔をしかめる。
「何それ、気味悪い……」
大波はリキッドを握り、静かに言う。
「そんな話、聞いたことないよ」
佐葉は眉をひそめ、
「そんなホラーみたいな話、信じる人いるの?」と冷たく返す。
一は腕を組み、考える。
「まさか……そんな話、作り話だろ?」
内心では半信半疑だ。赤男のイメージが頭をよぎり、藍の失踪と何か繋がっている気がする。
折は肩をすくめ、
「俺もただの噂だと思うよ。……五虎社長が来るまで、軽い話にしようぜ」
一は頷くが、胸のざわめきが収まらない……。
<国永プロダクション>
名前:加撰 花怜
性別:女性
年齢:25歳
身長:160cm
風貌:茶髪に赤髪のメッシュ、ショートで動きのあるスタイル。舞台では華やかな女隊士の衣装、私服は和風のワンピース。鋭い目元と自信に満ちた笑顔が特徴。
職業:2.5次元女優
性格:華やかで自信溢れる振る舞いで観客を魅了するが、内心は2.5次元業界の搾取体質に強い苛立ちを抱く。気遣いするが、感情を表に出さず心の奥に孤独と疲弊を隠す。
名前:大波 勇大
性別:男性
年齢:25歳
身長:160cm
風貌:金髪、短めのポニーテール。普段はカジュアルなパーカーとジーンズ。
職業:裏方
性格:穏やかで落ち着いた態度で仲間を支えるが、内心では2.5次元業界の過酷さに冷めた視線を持つ。優しいが、逃げ道を常に模索し、感情をあまり表に出さない。リキッドを吸いながら考える癖がある。
名前:大倉 佐葉
性別:女性
年齢:24歳
身長:155cm
風貌:オレンジと黄緑色のポニーテールが目を引く、個性的な髪型。カジュアルな服装にメガネをかけ、鋭い目つきでノートパソコンを常に持ち歩く。
職業:秘書(国永プロダクション)
性格:口数は少ないが毒舌。業界の虚飾に冷めた視線を持ち、表面的な華やかさを嫌う。感情をあまり表に出さず、皮肉な物言いで距離を保つ。