第1話 輝きは見えなかった
あれから7年後…
<夕方 町田の雑踏>
オレンジ色の空の下、町田駅前の雑踏がざわめく。
ネオンの光と焼き鳥屋の煙が混じる喧騒の中、人の波が押し寄せる。
一は、人混みを縫うように歩きながら、鋭い視線で周囲を観察する。
視線の先にはパーカーの男。
——ストーカーだ。
ターゲットは女子高生の自宅近くをうろつき、スマホを手に怪しげに写真を撮っている。
一は路地の影に身を潜め、カメラを構える。
シャッター音が小さく響き、男の不審な動きを捉える。
男の目が一瞬こちらを向く。
——底知れぬ冷たい光。
一は息を呑み、カメラを下ろす。
「証拠はこれで十分」と呟く。
イヤホンから指示が飛ぶ。
「一、状況は?」
森谷事務所のボス、森谷の声だ。
「バッチリ。写真と動画、男の顔もクリアです」
「よし、戻れ。依頼人に報告だ」
一は小さく頷き、町田の雑踏を後にする。
<18:30 森谷探偵事務所>
新宿の裏路地、薄暗いビルの一室。森谷事務所の看板は、かすかに汚れている。
一がドアを開けると、東金が机で書類を整理していた。
「お疲れ、一。どうだった?」
東金の声は穏やかだが、目の下には疲れの影。
一はUSBを放り投げ、
「ストーカーの証拠、完璧。」と答える。
奥の椅子から森谷が顔を上げる。
「よくやった」
紅茶を啜りながら、鋭い目で一を見据える。
森谷の視線に、一の表情が曇る。
——7年前、早乙女藍の失踪。彼の笑顔、舞台の光、そして消えた理由。全てが未だに謎のままだった。
「どうしたのかね? 難しい顔して」
森谷の声に、一は黙って頷き、報告書を机に置く。
森谷の目が鋭く細まる。
「気をつけろよ、2.5次元の件、深く探ると面倒なことになるぞ」
一の背筋が冷える。藍の笑顔が脳裏にちらつき、すぐに消える。
「じゃ、俺、上がります」
一はそう言い残し、事務所を後にする。
<19:15 中華屋>
新宿の雑踏を抜け、一と東金はチェーン店の中華屋に入る。赤提灯が揺れ、餃子の焦げる匂いが漂う。
テーブルにはビール、麻婆豆腐、チャーハンが並ぶ。
一は箸を動かしながら、
「東金、最近どうだ? 事務所、忙しいよな」と切り出す。
東金はお冷を手に、苦笑する。
「忙しいよ。ボスが厳しくてさ。君こそ、探偵業慣れた?」
一は小さく笑う。
「慣れるもんか。舞台のほうが楽だったよ」
ビールを飲み干し、一は過去の舞台を思い出す。
スポットライト、歓声、そして藍の笑顔。あの頃の輝きが、今も胸を締め付ける。
だが、その記憶は血と仮面の噂に塗り潰される。
「赤男……何なんだ、アイツ」
一の呟きに、東金は箸を止め、目を伏せる。
「知らない方がいいよ。2.5次元の話、ちょっと興味あるけど……重いよ」
一は頷き、箸を置く。
2.5次元業界の華やかさの裏に、何か得体の知れないものが潜んでいる気がした。
<19:45 メッセージの着信>
一のスマホが振動する。
画面には「大波」からのメッセージ。
「五虎さんが、国永プロダクションの名で個人事務所立ち上げたからお祝い会やるよ。池袋の喫茶店、明日19時。来いよ!」
一は目を細める。
元2.5次元俳優で、今は自分のプロダクションを立ち上げた男。舞台時代から変わらない、あの自信満々な態度は健在らしい。
「大波、相変わらずだな」
一は返信を打ち、「行くよ」と送信。
東金がお冷を飲み干し、
「2.5次元の集まり、華やかそうだね」と呟く。
一は笑う。
「ああ、業界の〝虚飾そのもの〟だ」声に皮肉が滲む。
華やかな表舞台の裏で蠢く何かを、一はまだ知らない。
<21:30 帰宅と就寝>
一は新宿のアパートに帰宅する。
狭い部屋、散らかった机。風呂の湯船に浸かりながら、今日のストーカーの目を思い出す。
——冷たい光。
考えを振り切り、湯から上がる。タオルで髪を拭き、ベッドに倒れ込む。
だが、頭の片隅で、早乙女藍の笑顔がちらつく。あの舞台で輝いていた彼は、なぜ消えたのか。
「藍……どこに行ったんだ」
呟きが闇に溶け、一は目を閉じる。
<主人公>
名前:佐藤 一
性別:男性
年齢:25歳
身長:172cm
風貌:黒髪、短めで無造作な髪型。鋭い目つきだが、普段は穏やかな表情。シンプルなジャケットとジーンズを好む。
職業:探偵(元2.5次元俳優)
性格:冷静で観察力に優れ、細かな違和感を見逃さない。仲間想いだが、感情を表に出さず、内心では過去のトラウマ(早乙女藍の失踪)に苛まれる。責任感が強く、任務には真剣だが、ルールに縛られず独自の判断で動くことも。
<森山探偵事務所>
名前:東金 明
性別:男性
年齢:25歳
身長:165cm
風貌:黒と白が混じる髪、短くやや癖のあるスタイル。疲れ気味の目元と穏やかな笑顔が特徴。カジュアルなシャツと薄手のコートを着用。
職業:探偵(森谷事務所)
性格:穏やかで人当たりの良い性格だが、内面には深い思慮と繊細さを持つ。観察力は高いが、一ほど鋭くはなく、感情に流されやすい一面も。2.5次元業界に興味を持ちつつ、その闇に触れることを恐れる。過去の失敗やトラウマ(詳細不明)を抱え、他人と距離を保ちがち。
名前:森谷 茂
性別:男性
年齢:60歳
身長:175cm
風貌:黒髪に白髪が混じる、整った短髪。鋭い目つきと落ち着いた微笑。ダークトーンのスーツを着こなす。
職業:探偵(森谷事務所代表)
性格:知的で狡猾、鋭い洞察力で事件の核心を見抜く。冷静沈着だが、言葉に冷笑的な皮肉を織り交ぜ、周囲を巧みに操る。部下の一や東金を信頼しつつ、どこか距離を保つ。