第24話 憧れ
2009年の秋
早乙女藍と白川拓実が出会ったのは、
小学生の頃だった。
藍はクラスで飛び抜けて目立つ存在だった。
成績は常に学年トップ、容姿も整っていて、
女子からの人気は凄まじかった。
休み時間になると教室の周りに女の子が集まり、
藍の周りはいつも華やかだった。
だが、男子からは違った。
嫉妬だった。
理由などない。ただ「アイツだけが特別」で
あることが許せなかった。
陰で「調子に乗ってる」「顔で得してる」と囁かれ、
階段で肩をぶつけられたり、教科書を隠されたり、
軽い嫌がらせが日常茶飯事だった。
藍は笑顔で受け流していた。
誰も気づかないところで、唇を噛みしめていた。
ある日、藍は男子数人に囲まれていた。
廊下の死角で、教科書を奪われ、
床に叩きつけられていた。
藍は抵抗せず、ただ俯いて耐えていた。
そこに、白川拓実が通りかかった。
白川はクラスで孤立していた。
いつも一人で本を読んでいて、誰とも話さない。
喧嘩が強いという噂があり、
男子からも女子からも「近寄りがたい」と
敬遠されていた。
実際、白川は機嫌が悪かった。
朝から体調が悪く、苛立ちが募っていた。
藍を囲む男子の一人が、白川の存在に気づいた。
「おい、白川じゃん。こっち来んなよ、邪魔だ」
白川は無言で近づき、藍の教科書を拾い上げた。
「……邪魔なのはテメェらだ、ぶち殺すぞ」
低い声だった。
次の瞬間、白川は一番前にいた男子の首を
掴み、壁に押しつけた。
他の男子が慌てて止めに入ろうとしたが、
白川の視線だけで凍りついた。
「次やったら、ただじゃ済まねえ」
白川は藍に教科書を渡し、
何も言わずに去っていった。
藍は初めて、白川の背中を見送った。
その日から、二人は少しずつ言葉を
交わすようになった。
時は流れ、中学2年生の夏。
学校の屋上。
藍と白川は、いつものように二人きりで
昼休みを過ごしていた。
藍はフェンスに寄りかかり、
空を見上げながらぽつりと言った。
「僕さ……俳優になりたいんだ」
白川は缶ジュースを飲みながら、
黙って聞いていた。
藍は続ける。
「小学生のとき、本屋で2.5次元ミュージカルの雑誌を見たんだ。刀を振るう隊士たち、華やかな衣装、観客の歓声……あの世界に、自分も立ちたいって思った。それからずっと、鏡の前で笑顔の練習したり、台詞を覚えたりしてた。でも……男子から嫌われてばっかりで、自信が持てなくて」
白川はジュースを置いて、藍を見た。
「……お前は十分輝いてる」
藍は苦笑した。
「ありがとう。でも、まだ足りない。もっと、みんなを魅了できるような……完璧な笑顔が欲しいんだ」
白川は少し間を置いて、言った。
「完璧じゃなくていいだろ。お前が笑えば、それでいい」
藍は驚いたように白川を見た。
「……白川、初めてそんなこと言うね」
白川は照れくさそうに目を逸らす。
「……うるせえ。」
藍は小さく笑った。
本物の、柔らかい笑顔だった。
白川はそれを見て、胸の奥が熱くなった。
初めて、誰かのために「守りたい」と
思った瞬間だった……。
<都内の病院>
病院の個室。
白川拓実はベッドに横たわり、
点滴を受けていた。
左エラに深い傷跡がまだ残っており、
白髪の髪が乱れている。
ドアが開き、三角竜が入ってきた。
「よお、白川。生きてたか」
三角はベッドサイドの椅子にどっかり座り、
コンビニの袋を置く。
「差し入れだ。栄養ドリンクと、肉まん」
白川は弱々しく笑った。
「……来てくれたのか」
三角は肩をすくめる。
「当たり前だろ。お前がいなくなってから、ボクシングもスタントも味気ねえんだよ」
二人は少しの間、昔話に花を咲かせた。
中学のリングでのスパーリング、
藍の舞台を見に行った日のこと、
三角の映画『忍』の撮影秘話……。
三角が立ち上がる。
「じゃあな。また来る」
ドアを閉める直前、白川が小さな声で呟いた。
「……あ……い……」
三角は振り返った。
「ん?」
白川は目を閉じ、微かに唇を動かしていた。
指が、シーツを弱く握りしめている。
「あ……い……」
三角はドアを閉め、廊下で立ち止まった。
「……藍、か」
白川の意識は、遠くへ遠くへ落ちていく。
そこには、かつての屋上で見た、藍の笑顔があった。
名前:白川 拓実
性別:男性
年齢:25歳
身長:177cm
風貌:白髪(元は黒髪だったが、PTSD発症による色素脱失で白くなった)。バイクスーツを着ている。鋭く吊り上がった目つきと傷跡の残る左エラが印象的。筋肉質で無駄のない体躯。
職業:元2.5次元俳優
性格:激情家で喧嘩っ早いが、根底に強い義理人情と仲間への執着を持つ。藍への想いは「守れなかった」後悔と憎悪に変わり、復讐心が全てを支配している。普段は無口で近寄りがたいが、一度信頼した相手には命を懸ける忠義を見せる。言葉よりも拳で語るタイプ。




