第23話 埃を噛む
日神総一のカウントダウンが「1」で止まった。
腕時計の針が無音で進む中、
日神は額縁を抱えたまま、イドを睨む。
「0……?」
日神の声に、初めて動揺が混じる。
胸を押さえ、息を荒げる。
「……何も……起きない?」
イドは無表情で銃を下ろす。静かに答える。
「君の銃は、効かない」
日神の目が見開く。
「そんな……馬鹿な!?」
日神は額縁を落とし、胸を押さえる。
心臓が激しく鼓動し、息が詰まる。
「解毒剤……?いや、そんなはずは……!」
日神は悪あがきのように銃を構え直すが、
手が震える。膝が崩れ、地面に倒れる。
「僕の……計画が……こんな事で……終わるなんて……!くそっ!」
日神の体が痙攣し、息が止まる。
心臓発作が襲い、目が虚ろになる。
「くそ……僕が……世界を……」
赤い額縁が床に転がり、
炎に照らされて不気味に輝く。
皮膚の標本が、火の粉に焼かれ始める。
イドは静かに見下ろす。
<前日>
――前日、イドは知り合いの殺し屋、
扇に連絡を取っていた。
扇は冷徹な男で、黒いコートを纏い、
片目が隠れている。
鋭い目つきで、イドの顔を見据える。
「例の特殊銃を渡す。SPに変装して、日神に撃って欲しい」
扇は銃を受け取り、無言で確認する。
やがて、低く吐き捨てる。
「復讐か……お前も、随分と変わったな」
イドは淡々と返す。
「変わったんじゃない。最初からこうだった」
扇は銃をコートにしまい、冷笑を浮かべる。
「その解毒剤、本当に効くのか?」
イドは静かに頷く。
「3年かけて作った。マウスじゃなく、自分で試した」
扇の目が細まる。
「自殺行為だぞ。失敗したら、お前が死ぬだけだ」
イドはわずかに口角を上げる。
「それがオレのやり方だ。リスクを背負わなきゃ、奴は倒せない」
扇は小さく息を吐き、肩をすくめる。
「……わかった。やるよ。お前のためじゃねえ。俺の借りを返すためだ」
イドは扇の肩を軽く叩く。
「ありがとう。生きて帰れ」
扇は背を向け、闇に消える前に一言。
「生きて帰るのはお前の方だ。……終わったら、連絡しろ」
イドは一人残り、解毒剤の小瓶を握りしめる。
「計画は……ここで終わりだ」
炎が迫り、イドは別ルートへ向かう。
倉庫の崩落を避け、影に消える。
場面は変わる。
佐藤一は白川拓実を肩に担ぎ、
炎の中を脱出しようとしていた。
口の出血が止まらず、視界が朦朧とする。
血の味が喉を塞ぎ、足元がふらつく。
「白川……持ってくれ……」
白川は意識を失ったまま、
血まみれの体を預ける。
一は出口へ向かうが、
目の前に手良秀吉が立ち塞がった。
手良は重症で体を支えながら、
銃を構えている。血を吐き、顔が歪む。
「お前も……ここで終わりだ……」
手良の指が引き金に掛かる。
その瞬間、――轟音が響いた。
東金明の車が突っ込んでくる。
ヘッドライトが手良を照らし、
車体が手良をギリギリで轢いた。
手良は吹き飛ばされ、地面に倒れる。
銃が手から落ち、転がる。
一は驚き、東金を見る。
東金は車から降り、慌てた顔で言う。
「一!早く乗って!」
一は白川を後部座席に乗せ、
自分は助手席に座る。
東金はアクセルを踏み、車を走らせる。
一は血まみれの手でメモを書き、東金に見せる。
東金は困惑したが、すぐに頷く。
「わかった……信じるよ、一」
後ろで倉庫の爆発音が響く。
手良は地面に倒れ、最期の悪あがきをする。
ポケットから誘爆装置を取り、ボタンを押す。
「もういい……全部終わりだ……この誘爆装置さえあれば、私の人生も、お前たちの未来も、平等に灰になれる……!負けて……負けて死ねぇぇぇ!」
装置が作動し、倉庫全体が大爆発する。
火柱が夜空を裂き、爆音が響き渡る。
外では、八車が五虎を抱え、爆発を目撃する。
「おい、嘘だろ……一……はじめぇぇぇ!!!」
八車と五虎が絶望の叫びを上げる。
赤い額縁は火災で焼却され、灰になる。
標本の皮膚が炎に溶け、永遠に失われる……。




