第17.5話 最後の舞台
<22:00 加撰清音の自宅マンション>
部屋の明かりは間接照明だけ。
加撰清音はソファに深く沈み、膝の上に置いた台本をゆっくりとめくっていた。
表紙には新作のタイトルが金色で刷られている。
2.5次元ミュージカル『ましろ』~一刀の行方~
ページを進める手が、時折止まる。
台詞を口の中で呟きながら、彼女の目は遠くを見ていた。
小学生の頃、自分は暗かった。クラスで目立たず、休み時間も隅で本を読んでいるような子。
友達はいたけど、誰かの中心になることはなかった。中学生になってもそれは変わらなかった。
ただ、静かに日々を過ごすだけ。
ある日、友達が熱く語った。
「華ノ戦、めちゃくちゃ面白いよ!舞台の映像見た?」
それがきっかけだった。
家で動画を探して見た瞬間、胸が震えた。
刀を振るう隊士たち、華やかな衣装、観客の歓声。
あの世界に、自分も立ちたいと思った。
でも、現実は最悪だった。
オーディションに受かって入った世界は、華やかさの裏で冷酷だった。
過酷なスケジュール、理不尽な扱い、笑顔を強要される日々。何度も辞めようと思った。
それでも続けられたのは、
蒼木五虎の無茶で明るいリーダーシップ。
佐藤一の静かな支え。
大波安定の穏やかな気遣い。
そして、早乙女藍の――あの眩しいほどの輝き。
藍がいなくなったあの日から、何かが変わった。みんな、少しずつ壊れていった。
でも、自分は舞台に立ち続けた。仲間がいたから。あの華ノ戦があったから。
加撰は台本を胸に抱き、静かに目を閉じた。
『ましろ』は、自分の最後の舞台になるかもしれない。
業界の闇は深すぎる。体も、心も、もう限界に近い。
でも、この役だけはやりたい。
ましろの孤独、覚悟、刀を握る理由――
全部、自分と重なる。
「これで最後でも、いい」
小さく呟いた声は、誰にも届かない。
スマホが震えた。
画面に表示された名前は、橘佐葉。
加撰は無言で通話ボタンを押した。
橘の声が、慌てた調子で響く。
「……清音?今、大丈夫?警察から連絡があって……社長が、拉致されたって」




