第12話 2.5次元ミュージカル『ましろ』~一刀の行方~
<14:00 渋谷から離れた古いマンション>
ドアが勢いよく開き、蒼木五虎の軽快な声が響く。
「ただいまー! 一、待たせたな!」
五虎はスーツ風のジャケットを羽織り、黒髪に軽いウェーブが揺れる。
大倉佐葉が後ろからノートパソコンを抱え、オレンジと黄緑のポニーテールが揺れる。
「社長、ドアの開け方荒すぎ」
大倉のぶっきらぼうな声に、五虎はケラケラ笑う。
滑川はキッチンコーナーからカップを手に、穏やかに微笑む。
「五虎、佐葉、おかえり。ちょうど佐藤君とお茶してたところだよ」
<お偉い方の笑い話>
五虎はソファにどかりと座り、紙袋に目をやる。
「お、一! これお土産? マジ助かるぜ!」
彼は袋からクッキーの箱を取り出し、目を輝かせる。
大倉はパソコンを机に置き、ため息をつく。
「社長、打ち合わせの話から先にしてください」
五虎はクッキーを手に、ニヤリと笑う。
「まあまあ、佐葉。まずは今日のハイライトだろ! さっきの打ち合わせ、相手のお偉いさん、滑舌がヤバすぎてさ!」
彼は身を乗り出し、声を真似る。
「『プロダクションの未来は、キミたちに、かかってるんだ!』って、なんか『キミたちに、か、か、かかってるんだ!』みたいになって、俺ら爆笑しちゃったよな、佐葉!」
大倉は目を逸らし、口元を押さえる。
「笑うなって言ったのに、社長が先に吹き出したじゃないですか」
滑川はカップを置き、くすくす笑う。
「五虎、君も相変わらずだな。で、どんなお偉いさんだったんだ?」
五虎はクッキーをかじり、目を輝かせる。
「大手プロダクションの重鎮だよ。名前は言えないけど、業界のドンって感じ。滑舌悪いのに、話に迫力あってさ。『ましろ』の舞台化、絶対成功させる!』って熱く語ってたぜ!」
一はコーヒーを飲みながら、笑いを抑える。オフィスの空気が一気に和やかになる。
<打ち合わせの雑談>
大倉はパソコンを開き、メモを睨む。
「滑舌は置いといて、打ち合わせは順調でした。『ましろ』の予算、スポンサーもついて、キャスティングもほぼ決まり。監督は社長、主役は加撰さんで内定」
五虎は拳を握り、興奮気味に続ける。
「そうそう! 相手の会社、web小説出身のヒット作を舞台化しまくってるんだ。『ましろ』も漫画、アニメでバカ売れしたやつだろ? 並行世界の戦国時代(パラレル戦国)、主人公ましろが仲間と天下目指す話。めっちゃ熱いぜ!」
滑川は目を細め、興味深そうに頷く。
「『ましろ』か。アニメも観たよ。ましろの刀さばき、かっこいいよね。加撰が主役なら、舞台映えするだろうな」
一はメモを取りながら、会話に耳を傾ける。
「加撰が主役? 彼女、忙しいのに大丈夫ですか?」
大倉はキーボードを叩き、そっけなく答える。
「加撰さん、引き受けましたよ。『この役、絶対やりたい』って。社長の監督も、彼女の熱意に負けたみたいです」
五虎は笑い、クッキーをもう一つ手に取る。
「加撰の目、燃えてたぜ! 『ましろの孤独と覚悟、絶対表現する』って。俺も監督として、最高の舞台作るよ!」
オフィスの空気が、プロジェクトの熱気に包まれる。
<『ましろ』の詳細>
五虎はテーブルに身を乗り出し、目を輝かせる。
「『ましろ』~一刀の行方~、最高のストーリーだぜ。並行世界の戦国(パラレル戦国)、乱世でましろが、仲間集めて天下統一目指す。裏切り、友情、愛――全部詰まってる。アニメのクライマックス、雨の中の決闘シーン、ヤバかったよな!」
滑川は紅茶を飲み、穏やかに頷く。
「ましろのキャラ、強いけど脆いところがあるよね。加撰の演技で、どう表現されるか楽しみだ」
大倉はパソコンを閉じ、珍しく口を挟む。
「脚本も原作に忠実らしいですけど、舞台用にアクション増やすって。予算かかりそう」
一は加撰の顔を思い浮かべる。
華やかな女隊士の衣装、鋭い目元。彼女が男装し、ましろを演じる姿は、確かにハマりそうだ。
「加撰、気合い入ってますね。業界の搾取に苛立ってるって言ってましたけど、こういう作品ならやりがいありそう」
五虎はニヤリと笑う。
「一、加撰のことよく知ってるな! 彼女、業界の闇嫌ってるけど、いい作品には命かけるタイプだぜ」
<滑川への疑心>
会話が一段落し、一は滑川をチラリと見る。
穏やかな笑顔、さっきの若手俳優の事件の話――救えなかった痛み、公安の対立――が頭をよぎる。
加撰の言葉が、突然蘇る。
(でも、警察あがりの人が2.5次元業界? なんかミスマッチよね)
一の胸に、冷たいざわめきが広がる。
滑川は紅茶を飲み、穏やかに微笑むが、その目が一瞬、鋭く光った気がした。元警察がなぜこの業界に? 顧問として若手を守るという言葉は本心か?
五虎はクッキーをかじり、滑川に振る。
「滑川さん、キャスティングの相談もお願いな! 若手のメンタルケア、頼りにしてるぜ!」
滑川は軽く笑い、頷く。
「任せてくれ、五虎。佐藤君も、よかったら稽古見に来なよ。」
一は微笑むが、内心で警戒を強める。
(滑川全一……お前、本当にただの顧問か?)
オフィスの窓から、曇天の東京が見える。
『ましろ』の熱気と、赤男の影が、静かに忍び寄る。




