第8.5話 赤男の狂気
<5年前 警視庁の捜査打ち切り>
薄暗いテレビ画面に、ニュースキャスターの硬い声が響く。深夜、都内のスタジオから放送される緊急ニュースだ。
「警視庁は本日、若手俳優連続失踪事件の捜査を打ち切ると発表しました。被害者は2.5次元、実写映画を中心に活躍する若手俳優13名。事件は未解決のまま、捜査は事実上終了となります――」
画面が切り替わり、SNSの投稿が映し出される。#2.5次元 #赤男 #捜査打ち切りのハッシュタグが飛び交い、ファンの怒りと悲しみが洪水のように溢れる。
「なんで打ち切るの? 藍ちゃんがまだ見つかってないのに!」
「赤男って何? 警察、隠してるだろ……」
「これが日本の正義? ふざけんな!」
2.5次元ファンの声は、ネットを怒りの投稿で埋め尽くす勢いだ。だが、テレビは冷たく次のニュースに移り、事件は闇に葬られた――ただ、どこかで「赤男」の名が囁かれ続けていた。
テレビの前のイドは、リモコンを握りしめたまま動かなかった。
<イドの記憶 公安時代>
都内某所の薄暗いアパート。休職中のイドは、テーブルの上に空の酒瓶を並べ、ヤケ酒をあおっていた。
赤髪は乱れ、整った顔は青ざめていた。目は虚ろで、どこか遠くを見ているようだった。
5年前、イドは公安の若手捜査官として、連続失踪事件の現場にいち早く駆けつけた。あの日の光景が、今も脳裏に焼き付いている。
――廃墟ビルの地下、薄暗いコンクリートの部屋。巨大な水槽が中央に鎮座し、ホルマリンの液体がわずかに揺れ、赤い筋肉が光を反射する。
その中で、11人の若手俳優の遺体が浮かんでいた。赤く染まった姿が光を反射し、整然と配置されたその光景は、狂気の芸術作品のようだった。
イドは膝をつき、胃の中のものを全て吐いた。公安の訓練を受けた彼でも、あの光景は耐え難い悪夢だった。
テレビの音が突然ノイズに変わり、画面がチラつく。イドの視界が揺らぎ、キャスターの顔が一瞬、ホルマリン漬けの赤い遺体に重なった気がした。
幻覚だ――精神を蝕むあの光景が、5年経った今も彼を離さない。




