第三章:喪失と葛藤
アステリアスは、自分の存在意義について考え続けていた。リゼリスの言葉が胸に残り、他者のために生きるだけでは満たされない感覚が、日に日に増していった。それでも、彼は「誰かのために」働き続けることで、自分を保っていた。
そんなある日、村に不幸が訪れた。突然の嵐が村を襲い、数軒の家が壊れ、農地は泥に埋まった。村人たちは総出で復旧作業に取り組み、アステリアスも必死に手を貸した。彼は村のため、村人のために働き、疲れも忘れて土砂を掘り起こし続けた。
その時、リゼリスが病に倒れたとの知らせが入った。彼女は村の子供を助けるために水に浸かった結果、酷い熱を出し、意識も朦朧としていた。
アステリアスはすぐに彼女のもとに駆けつけた。小さな村の診療所で横たわるリゼリスは、いつもとは違う、弱々しい表情を浮かべていた。いつも周りを照らす光のようだった彼女が、今は消えかけた火のように静かに息をしているのを見て、アステリアスは胸が締めつけられるような痛みを感じた。
「リゼリス、大丈夫か?」
彼はそっと彼女の手を握り、呼びかけた。
彼女は微笑みを浮かべ、かすかにうなずいた。
「ごめんなさい…あなたに、心配をかけて」
「そんなこと、気にするな。お前がいないと、この村はだめになるんだぞ。俺にとっても…」
言葉が詰まった。彼は言葉にできない感情が胸の中で膨らんでいくのを感じ、ただ彼女の手を握りしめることしかできなかった。
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リゼリスの容態は悪化し、村の医師や薬草師も打つ手がないと告げた。薬草が足りず、この村では手に入らない特別な薬草が必要だという。医師が薬草のある山の場所を話すと、アステリアスはすぐに向かう決意をした。彼女を救うためなら、どんな危険な道でも構わない。
しかし、山の道は険しく、雨が降り続いた影響で地面がぬかるんでいた。足元が滑り、何度も転びながらも、彼は必死に山を登り続けた。全身が泥にまみれ、体力も限界に近づいていたが、アステリアスの心はリゼリスへの思いで燃えていた。
「俺には、彼女を助けることしかできない。彼女のために俺が生きる意味があるなら…」
そう思いながら、彼はついに薬草が自生する岩場にたどり着いた。疲労と泥だらけの体にもかかわらず、彼はすぐに薬草を摘み、村に戻る道を急いだ。
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夜が明ける頃、アステリアスは村に戻り、リゼリスのもとへ薬草を届けた。医師は薬を作り、彼女に投与したが、リゼリスの体は既に弱り切っていた。彼女はかすかにアステリアスを見上げ、微笑んだ。
「ありがとう、アステリアス…あなたの想いが、ちゃんと伝わってきたわ」
彼は彼女の手を握り、涙が零れそうになるのをこらえた。彼女が意識を取り戻し、元気を取り戻してくれることを祈りながら、ただ彼女のそばに座り続けた。
しかし、数日が経つと、リゼリスの体は次第に衰え、彼女の命は儚く消え去った。