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第一章:出会い

冷たい風が荒野を吹き抜け、アステリアスは街道を歩き続けていた。旅の始まりはどこか希望に満ちていたものの、日が落ちるにつれてその熱も薄れ、ただ足を引きずるように歩くだけだった。


アステリアスには行く宛がなかった。家族も友人も、かつてあった故郷もとうに失われ、今や一人で生き延びる日々に何の意味があるのかさえわからなくなっていた。それでも、いつも誰かのために生きてきた自分にとって、「無意味な日々」を受け入れるのは難しかった。


「それでも、何かが見つかるかもしれない…」


かすかな期待を胸に、彼は歩き続ける。


---


石畳の上にある小さな村の灯りが目に入ったのは、日がすっかり落ち、星が空に輝き始めた頃だった。疲れ切った足を引きずり、彼は村の宿屋に入ると、宿の主が笑顔で出迎えてくれた。


「旅の方かい?今日は一晩泊まっていくといい。少し寒いが、火があって暖まるぞ」


「ありがとうございます、助かります」とアステリアスは礼を言い、暖炉のある小さな席についた。火の暖かさが疲れた体を優しく包み込むようだった。


その時、店の奥から誰かの笑い声が聞こえてきた。振り向くと、若い女性が楽しそうに村人と話しながら、少し乱れた金髪を揺らして笑っている姿が目に入った。その場にいる誰もが彼女に向けて微笑みを浮かべていた。彼女の名はリゼリス。この村の人々から「光」と呼ばれる存在だった。


リゼリスは目が合ったアステリアスに微笑みかけ、ゆっくりと彼のほうへ歩み寄った。


「初めて見る顔ね。旅人さんかしら?」

彼女の声は、柔らかく包み込むような響きを持っていた。


「そうだ…名はアステリアス。この村には通りがかっただけで、特に目的があるわけじゃないんだ」


「ふふ、旅にはそういう出会いがたくさんあるものよ。私もそうしてここに流れ着いたの」

リゼリスはそう言って、彼の隣に腰を下ろした。


「あなたも旅人なのか?」


「ええ、でも今は村人として過ごしているわ。家族はいないけど…この村の人たちは家族みたいなものよ」


リゼリスの声には、優しさと寂しさが交じり合っていた。それでも彼女は微笑みを浮かべていた。アステリアスはその笑顔に一瞬心が揺らぎ、自分も誰かに必要とされる喜びを思い出しかけたが、すぐにその気持ちを抑えた。


「…何かを求めているわけじゃない。ただ、気づけば旅をしているだけなんだ」


リゼリスは彼の言葉を黙って聞き、その後、静かに話し始めた。


「私も、ずっとそうだったわ。この村に来るまでは、どこにいても空っぽな気持ちで歩き続けていた。けれど、この村で人々の小さな悩みを聞き、誰かの役に立つことで、少しずつ私の心にも光が差し込んできたの。あなたも誰かのために生きることができたなら、きっと――」


彼女の言葉は途中で切れた。アステリアスは不思議そうにリゼリスを見つめたが、彼女は軽く首を振り、「ごめんなさい、なんだか偉そうなことを言ってしまって」と笑った。


その夜、アステリアスはリゼリスの言葉を反芻しながらベッドに入った。どこか懐かしさを感じる彼女の話し方、そしてその笑顔が頭から離れなかった。「誰かのために生きることができるなら」――彼女の言葉は、彼の胸の奥でわずかに残っていた灯火を揺らし始めていた。


---


翌朝、宿屋を出ようとするアステリアスのもとに、リゼリスが現れた。


「今日も村を出て旅を続けるの?」


「そうだ、俺はまだ…」


言いかけたその時、リゼリスは彼の手を軽く掴んだ。


「なら、少しだけこの村で休んでいかない?きっと、ここにいてくれるだけで助かる人がいるわ」


彼は驚いたが、リゼリスの真剣な目を見て言葉を失った。心の中で、彼女の言葉にどこか引き寄せられるものを感じていた。


「…それも悪くないかもな」


そう言って、アステリアスはしばらくこの村に留まることを決めた。

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