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 その日の昼頃。夕方に、下岡総理による緊急の記者会見が開かれることが総理官邸に詰めていた記者たちに伝えられた。


「緊急記者会見って一体何なのだろうな」

「例の通信障害に関してじゃないか?」

「わざわざ総理が記者会見をすることか?逓信大臣がやることだろう」

「それと全国の空港が閉鎖されたこともあるのかもしれない」

「なににせよ、正月早々よくないことが起きているのは確実だな」

「下岡政権発足後。最大のピンチかもな」


 42歳の下岡が内閣総理大臣になったのは一昨年の10月のことだった。

 これまで3期9年という長期政権を務めていた岸晴信前首相の後任となる与党・保守党の代表である総裁を選出する選挙は現在内務大臣を務めている山本一郎と保守党総務会長を務めている斎藤康彦の両衆議院議員が当初から有力候補と見られており、どちらかが保守党総裁となりそのまま第118代内閣総理大臣に就任すると考えられていた。


 しかし、一昨年の10月11日に行われた保守党総裁選挙の結果は誰もが想定いしていない結果となった。全く注目されていない41歳になったばかりの下岡俊英衆議院議員が一回目投票で山本議員に次ぐ票数を獲得。その後行われた決選投票でタカ派の山本を嫌った勢力からの票を取りまとめた結果、下岡議員が保守党総裁に就任。翌日、衆議院で行われた首班指名選挙では与党の保守党、民政党、改進党そして閣外協力している国民党の賛成多数によって下岡俊英衆院議員が第118代内閣総理大臣に就任した。

 歴代総理大臣の中でも最年少総理の誕生はマスコミですら想定出来なかったものだが、あとからわかった情報では下岡の背後には前総理大臣の岸とその岸の前任である大沢和夫という二人の総理経験者がついていたことが判明した。

 彼らはメディアに悟られることなく、下岡を当選するために自身の派閥を総動員したのだ。結果的に最年少総理大臣は、二人の元総理大臣の暗躍によって誕生したのだ。各メディアや野党は下岡のことを「元総理大臣の傀儡」だと批判するようになり、その後の閣僚人事も双方の派閥を中心に選出されるだろうと考えた。


 だが、実際の閣僚人事は岸・大沢両派閥から確かに数人が閣僚として抜擢されたが特定の派閥が優遇されるような人事ではなかった。その後の、党役員人事では下岡の後見人の一人である大沢が幹事長になったことで「やはり下岡は操り人形」だとみる者たちが多かった。


 このように、批判的な意見が多い中で歩みだした下岡内閣だがこの一年間の内閣の仕事ぶりは「無難」そのものだった。特に大きな失態も犯さず、かといって大きな成果をあげたわけでもない。大きな成果がないというのも批判されるだろうが大きな失態を何一つ起こさなかったのはむしろ評価されるべきことだろう。前政権末期では閣僚の不祥事が続出したのだが、下岡内閣の一年は閣僚の不祥事は一切起きていなかった。

 ただ、党内では一部議員の金銭問題が発覚したがそれ自体がすぐに政権批判に繋がるわけでもなかった。

 下岡内閣に対する支持率もこの一年ほぼ横ばいだった。

 普通ならば最初期に高くてあとは下落するものだが、下岡内閣ではわずかに下落したあとはわずかに上昇するというのが続き結局のところほど支持率の変動がないというかなり珍しい状態になった。

 これもあって下岡内閣の一年間は「無難」の一言で片付けられてしまい、ある意味でメディア泣かせの一年だったともいえる。



 そして、夕方に始まった記者会見。

 下岡は冒頭で「未明に発生した地震で全国すべての観測点で震度3の揺れを観測した。これは気象庁が地震観測をしてから初めてのことである。また、この地震に前後して日本全国で『オーロラ』のような発光現象が確認されている。これらの現象との因果関係は不明だが、その後大規模な通信障害が全国で発生しており現在も人工衛星の多くや諸外国との通信が一切出来ない状況になる。原因は現在調査中であるが復旧の見込みは一切たっていない。そのため、航空便は国内外問わずに全便欠航の措置をとっている。これは安全対策のためであり、安全が確認され次第国内線に関しては運行再開予定。ただし、国外線に関しては未だに海外との通信が一切できず安全の確認がとれないことから当分の間は欠航になる可能性が高い」といった報告をした。


 その上で「未明に地震の影響などを確認するために空軍の航空機や海軍の艦艇などを派遣して情報収集を行った所。北海道の東方でイギリス空軍機と接触した。また、現時点でユーラシア大陸が発見出来ていない。ハワイ諸島、フィリピン、インドネシア、オーストラリアは昼時点で確認出来たがそれ以外の国とは現在も通信途絶状態である。政府としては全力で状況把握に努めるつもりであり状況が把握次第。再度、記者会見を実施する」と強調した。


 記者たちは突然の報告にしばし呆然となった。

 これは記者会見を見ていた国民たちも同じだ。

 誰も、下岡が現在発言した内容への理解が追いついていなかった。

 なぜ、ヨーロッパのイギリスが北海道の東にあるのか。

 なぜ、すぐ北にあるユーラシア大陸の所在がかわらないのか。

 記者たちはこういった質問を下岡総理にぶつけたものの、彼は「我々も状況をすべて把握しているわけではない」と答えるにとどまった。実は、この段階で下岡の脳裏には「異世界転移」という言葉が浮かんでいたがそのような突拍子もない事をいっても逆に混乱に拍車をかけるだけだと考え、このことは発言していない。


 もっとも、中継中。SNSでは「これは異世界転移だ」という意見が多く書き込まれていたという。


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