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 アーク歴4020年 5月6日

 ドラネシア王国 ドライゼン



 ドラネシア王国はアトラスの西700kmところにある島国だ。

 アトラスと同じ「アーク」という世界にあった国で、その時からアトラスの隣国だったという。

「竜人族」と呼ばれる龍のような角と尻尾を生やした亜人種が人口の大半を占める「亜人国家」でありアトラスを含めた十数カ国ほどとしか国交を結んでいない。

 これは、竜人族が他種族とそれほど積極的に交流を行わないのと彼らが居住地としているのは険しい山岳地帯である部分が大きいという。

 ドラネシア王国のあるドラシア島は、北海道ほどの大きさをしているが島の殆どが急峻な山岳地帯で平地はほとんどなく、国民の大半が標高2000m以上の高地に生活していた。これは、竜人族の祖となった竜族が高地を好んでおりその性質が彼ら竜人族にも受け継がれているからだ。

 王国の主要産業は鉱物だ。

 ドラシア島には豊富な鉱脈が幾つもあり竜人族はこれらの鉱脈から得られる鉱石を他国に売ることで外貨を得ている。主な輸入品は食料などであり主な取引先は隣国のアトラスが多かった。




 ドラネシアの存在は日本なども早くから気づいていたが、アトラスから「他種族とそれほど交流しない種族」と言われていたこともあり暫くは様子を見ることにしていたのだ。そこに、先月末になってアトラスから「ドラネシアも国交開設に前向きになっている」という情報が入ったので日本が外交官を派遣することになった。

 高地の国ということで派遣された外交官は高地にある都市などに勤務経験のある外交官を中心に選出された。日本皇国外務省は異世界国家との交渉などを専門に行う部署「異世界局」を立ち上げており、今回派遣された外交官もそんな「異世界局」に所属していた。

 外交団がドラネシア王国にやってきてこの日で一週間。

 国交開設に向けた交渉は順調に進んでおりすでに、大筋の部分で合意するところまで話は進んでいた。




「長閑な国ですねぇ。空気はだいぶ薄いですけど」

「標高2,200mだからなぁ。住民は一切気にしていないようだが」


 外交官の清水と高山は滞在先のホテルで町並みを見ていた。

 高層ビルなどは一切なく。高くても5階建ての建物だ。

 民家の殆どは伝統的な石造りのものが多い。

 ドライゼンはドラネシア最大の都市だがそれでも人口は15万人ほどで日本の地方都市程度の人口しかない。それでも通りには多くの住民が行き交っており活気を感じられた。

 数キロ先には険しい山々が見える。ドラネシアの最高峰は6000mを超えるらしく2,200mのドライゼンはドラネシアからすれば十分に「低地」であるらしい。ドライゼンがある場所はドラネシアで最大の高原地帯になっており唯一外部とつながる空港もこの高原地帯に置かれていた。

 それ以外に外部へつながるのは島の南側にある数少ない低地に作られた港だけで、それ以外の海岸線は山がそのまま崖となっているので港や集落を作れる場所はないという。


 ちなみに、この港から各鉱山へつながるベルトコンベアがあるのだがこれはアトラスの技術によって作られた。これによって鉱物の輸送がかなり楽になり多くの鉱物を輸出にまわせるようになった。だから、ドラネシアのアトラスへの感情は非常に良く、今回日本と交渉することになったのもそのアトラスが勧めるのならば――といった感じでドラネシア側も応じたという。

 積極的に多くの国と交流を結ぶつもりはないらしく、とりあえず日本や朝鮮といった近くにある国とだけ国交を締結しアメリカなどとは今回は行わないとドラネシア側から事前に通達があった。


 これは、変に多くの部外者が来るのを国民が望んでいないのと、それだけの数の人間が宿泊できる施設がないことなどが主な理由だった。アメリカなどは「貿易ができるなら後でも良い」とあっさりと引き下がっている。

 まあ、鉱物資源以外は目立った資源がない国なのでアメリカとしても積極的に交流する旨味はないと考えたのだろう。ただ、希少なレアメタルなどが多く出るらしいのでこういったレアメタルが必要な企業などは「早く貿易をしようと」政府にせっついているらしい。


 それは、日本も同じだろう。

 芦原島でレアメタルの鉱脈が見つかっているが採掘はまだまだこれからなので、レアメタルの確保先としてドラネシアと早く貿易を始めたいと考えている日本企業は製造業を中心に多かった。


「国交が樹立すればまもなく貿易も始まるだろうが。企業が期待しているほどの量は輸入できなそうだな」

「この国もそれほど外貨獲得に躍起になっているわけでもありませんし、我が国はこの国が求めるほどの食料を輸出なんてできませんからねぇ」

「むしろ、食料を欲している側だからな」


 ドラネシアは日本と同じ山岳国家だ。

 しかも、平地が殆どないし肥沃な土地もほぼない。

 他種族と交流はほぼしないといっても、流石に自国だけで食料はどうすることもできなかったので、すぐ近くにあったアトラスとは例外的に古くから交易をしていたという。アトラスから食料を購入し、その対価として余るほどある鉱物を輸出する。そういった関係をもう何千年も前からしているという。


 だからこそ、ドラネシアはアトラスのことを信頼し、そのアトラスから紹介を受けた国とは交渉し貿易をするのだという。今回の日本もアトラスから紹介されたからこうして迎え入れてくれた。


「しかし、これだけの景色を見たら旅行会社あたりが『ツアー組ませろ』とか言ってきませんかね?」

「言ってきたとしてもドラネシア側が頷かない限りはできんからなぁ。他の国と違ってこの国は別に観光業で儲けようなんて考えもない――それどころかよそ者が増えたら間違なく嫌がる」


 そもそもこの国、際限なく観光客を受け入れるような体制は一切ない。

 宿泊施設もこのホテル含めて、ドライゼンに数か所あるだけだ。

 観光客の受け入れのための乱開発は保守的だとされるドラネシア国民は頷かないし、議会や政府も推奨はしないだろう。


「余計な火種を持ってきたらそれこそ、我々を紹介してくれたアトラスの顔にも泥を塗ることになる。この件はあまり大事にしないほうがいいだろうなぁ。ちょうど、別の国との国交は樹立したし。国としてもメインはそっちだからな」

「たしか、リヴァス共和国でしたっけ?アトラスの同盟国でしたよね」

「ああ。あっちは相当な大国らしいから、貿易もそっちがメインになるだろう」


 実は、日本はもう一つ異世界の国と交渉を行い国交を樹立していた。

 その国の名前は「リヴァス共和国」

 これまた、アトラスと同じ世界にあった国でその世界では5大国の筆頭と呼ばれていた超大国だ。言うなれば「アークのアメリカ」というべき国だ。

 リバリオン大陸という北米大陸ほどの大きさをもった大陸の北部にある国で、位置としてはニュージーランドの東7000kmのところにある。

 ニュージーランド近海に同国海軍の艦隊がやってきたことで存在が明らかになり、アトラスに確認をとってその存在が明らかになった。アメリカ並の国力を持つ超大国ということで日本の経済界は実はこのリヴァス共和国に対しての注目度のほうがドラネシアに比べて高かった。




 ドラネシア王国 ドライゼン

 王城




「ピージェス。交渉は順調か?」


 ドラネシア王国女王ドーラ11世が外務大臣のピージェスに日本との外交交渉の進捗状況を尋ねた。


「はっ――大きな問題もなく明日には正式に合意できそうです」

「ニホン人というのは中々に礼儀正しいとアトラスは言っていたが実際のところどうだ?」

「少なくとも我々に対して偏見を持っている様子はありませんでしたし、無理をいうこともありません。ただ若干の鉱物が欲しいというくらいでしたね。彼らもアトラスから我が国のことを色々と事前に聞いていたのかもしれません」

「ふむ…アトラスがやたらと勧めてくるから招いてみたがアトラスの見る目は正確だったか。我が国に大きな問題を招かないかぎりは日本との関係は続けていくとしよう」


 ドラネシアが他種族と積極的に交流しないのは、そうする必要性を国民も政府も感じていないからだ。食料の問題はあるがそれは昔から交流しているアトラスと豊富に採掘される鉱物とでトレードすれば自国民が食べていけるだけの量は確保できる。

 もし、アトラスがなければ食料を目指してより外に目を向けることもあったかもしれないがそれほど離れていないところにアトラスがあったことからドラネシアは他国や他種族に対しての興味を持たずに日々を過ごしていた。

 まあ、その中で起きたのか今回の騒動だが異世界に転移したとしてもドラネシア国民の意識が変わるわけではない。アトラスが引き続き近くにいることを知った国民の大半は「ならば大丈夫だ」と日常生活に戻ったほどだ。


「しかし、アトラスも大変だな…人間主義の連中に目をつけられるとは」

「撃退はしたようですが、相手は一切話しが通じない連中ですからなぁ。長引くでしょうね。最悪、日本などが介入することも考えられるとか」

「人間主義の連中ならば仕方がないだろうな。もし、我が国の近くにあったら我が国にも攻め込んできただろうからな」


 人間主義者の目的は亜人そのものだ。

 ドラネシアのように山しかない国でもそこに竜人族という亜人が暮らしているならば人間主義者は攻め込んでくる。そうして、攻め落とされた亜人の国は多くあるし、その中には大陸の山岳地帯にあった竜人族の国もある。

 人間主義者にとっての資源は亜人なのだ。

 もちろんそれは奴隷という意味であるが。

 竜人族は高い戦闘力を持つ。人口100万人ほどのドラネシアだが白兵戦に限ればどの種族よりも強いだろう。もっとも、現代兵器相手には竜人族も分が悪い。どんなに強固な防御力をもっていても銃弾や爆弾の雨の前では無傷ではすまない。

 一応、彼らも現代の銃火器の取り扱いは軍人を中心に学んでいるのだがやはり昔ながらの槍や剣などといった銃火器を使わない古代からの戦闘スタイルのほうが実力が発揮できるため軍には武器らしい武器が配備されていないのである。


「まあ、我々としてできることはなにもないな…」

「そうですね。やれることといえば情報収集くらいですね」


 自らに飛び火しないかぎりドラネシアは友好国の危機だろうと動かない。

 まあ、そもそもアトラス自身が対処できないものにドラネシアが手を貸したところで問題が解決するわけではないということを女王たちはしっかりと理解していた。

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