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 正暦2025年 5月9日

 スリランカ沖 旧インド洋

 人民解放軍海軍 南海艦隊

 空母「河北」




 転移後に新設された南海艦隊は北海艦隊及び東海艦隊から複数の艦艇を移籍させる形で設立されダストリア大陸北東部にある港湾都市「ブラストマス」に司令部をおいていた。主にダストリア大陸周辺部や中国南方海域を管轄しており、空母4隻を有するインド海軍を仮想敵としていた。


 空後「河北」は遼寧に引き続き建造された「河北型」の1番艦として建造された空母で東海艦隊に所属していたが、ダストリア制圧後に新設された南海艦隊に移籍した中型空母だ。人民解放海軍で初めてカタパルトを搭載した空母であり遼寧に比べて航空機運用能力が増強されている。

 約60機の艦載機を搭載することが可能で艦載機としてJ-16を20機。J-31を20機。KJ-600を4機。ヘリコプターを4機搭載していた。



 パキスタンのインド侵攻によって始まった第5次印パ戦争に対応するために「重慶」を旗艦とした南海艦隊主力は3日前にブラストマスから出港して現在はインド沖に浮かぶ島国であるスリランカの南西沖を航行していた。

 目的はインド海軍に対する牽制でありインド海軍には手を出すな、と海軍総司令部から厳命されていた。


「パキスタンを見捨てるつもりなのか。指導部は」


 そのことに対して空母機動部隊を指揮する少将は不満げであった。


「ですが、先に仕掛けたのはパキスタンですから。杜撰な言い訳まで添えて。あれで国際社会完全に敵に回しましたよ」


 一方は艦長はというとパキスタンを見捨てるのはある意味仕方がないというスタンスだ。人民解放軍は結構な派閥があるわけで少将は軍内でも比較的強硬派と呼ばれる勢力に属しており一方で艦長や飛行長は穏健派というわけではないがどちらかといえば中立的な位置にいる派閥にいる。

 人民解放軍の中でもパキスタンに援軍が必要だと訴える勢力と今回はパキスタンが完全に悪いので味方したら面倒なことになると考えている勢力に二分されている。後者が多数派だが前者の数もあなどれないわけで現在は後者の勢力が最高指導部と一緒になった前者の勢力を抑えなだめてている状態である。


「別に今更国連安保理を敵にまわしたところでアメリカも日本も直接的に手を出してこないだろう」

「怖いのはソ連ですよ。極東は動かしていないわけですし」

「陸軍のことはしらんが少なくとも海ならインドにもソ連にも遅れはとらんだろう」


 ソ連はともかくインドは厳しいのでは、と艦長は思ったがあえて言葉には出さなかった。

 現在の人民解放海軍の戦力は空母4隻。巡洋艦9隻、駆逐艦36隻、フリゲート艦67隻、原子力潜水艦16隻、通常動力型潜水艦40隻、強襲揚陸艦10隻、ドック型揚陸艦30隻、補助艦艇40隻。


 主力艦艇だけで200隻以上を保有しておりこの数はアメリカ、日本に続く世界第三位だ。

 日本やアメリカならともかくソ連の太平洋艦隊くらいならば十分に相手ができると人民解放海軍の将兵たちは考えていたし、インドに関してもそれほど脅威だとは思っていなかった。あくまで、彼らにとっての仮想敵はアメリカの太平洋艦隊と日本艦隊である。そして、これだけの数を揃えても日米両軍に対抗するのは無理だと判断していた。


 というのもアメリカは太平洋艦隊でも戦闘艦艇250隻を運用し、日本に至っては400隻を超える戦闘艦艇を有していたのだ。

 それに加えてソ連の太平洋艦隊は巡洋戦艦や空母は有しているものの艦艇数は40隻そこそこであり日米に比べるとやはり数は少ないし、空母に関しては1隻は老朽化のあまり動かないし巡洋戦艦も旧式艦で大規模な修繕が必要と近代化はあまり進んでいない。


 一方、インド海軍は人民解放海軍の増強に危機感を覚えて近年海軍戦力を増強している。空母を4隻保有しているし、水上戦闘艦も40隻以上保有し弾道ミサイルを搭載する戦略原潜や攻撃型原潜を日本の技術供与によって建造しているなどアメリカ第5艦隊を除けばインド洋で最も整った海軍を持っていた。

 少なくとも空母運用能力は人民解放海軍よりもある。

 インドは1950年代から空母を運用し続けた。一方の北中国は2000年代間近になってようやくソ連の技術供与をうけて空母を配備した。それから原子力空母を作れるようになる技術力をもったことはかなりのものであるが、戦力的にはインド海軍とはほぼ五分というのが専門家の推測だ。


 ちなみに、インド海軍の空母はイギリスのアークロイヤル級空母の準同型艦2隻と。それをベースにした国産空母2隻でありいずれも通常動力型だが電気推進を採用していた。機関部分の技術は日本が提供しており北中国外交部が日本に対して激しく抗議をしたこともあった。


「あんまり派手に動くとアメリカがでてくるかもしれませんよ」

「それこそ。ありえないだろう。あそこは2つの戦争を抱えているんだぞ?」


 少将は艦長を小馬鹿にするように鼻で笑う。

 しかし、彼らは知らなかったが確かにアメリカは動いていた。

 もっともそれは情報収集程度のものでしかなかったが。





 同海域

 アメリカ海軍 原子力潜水艦「アルバコア」




 南海艦隊機動部隊をつかず離れるの距離をとって追尾しているのはアメリカ海軍のガトー級原子力潜水艦の1隻である「アルバコア」だ。


「まったく、面倒事ばかりおこる」


 追尾任務中なので心なしか小声でぼやく艦長。

 現代の原子力潜水艦は静粛性がかなり向上しているがそれに比例してソナーの性能も向上しているのでなるべく音が出ないように静かに行動していた。まあ、そんなことをしても見つかる時は見つかるのだが。静粛性ならばディーゼル電気推進の潜水艦のほうが高いが長距離任務はやはり無限の航続距離を持ち速力も早い原子力潜水艦に軍配があがった。


「人民解放軍は介入するつもりでしょうか?」

「さあな。インド海軍の動きを牽制するつもりなのかもしれん」

「牽制になりますかね?」

「まあ、パキスタン海軍相手なら空母1隻で足りるからなぁ」


 インドは、アジアでは日本に次いで長く空母を運用している。空母の数では北中国が5隻目の空母を配備するなどしているが、空母運用の経験ではインドが勝るし、パイロットの習熟度も高い。それに、パキスタン海軍は空母も保有していないしフリゲート艦が主体だ。近年までは、アメリカやイギリスから中古艦艇を購入していたほどだが、最近になって北中国で建造したフリゲート艦を複数導入している。それでも、数の上では圧倒的に不利だ。


「まあ、だがインドは中国の動きを常に警戒している。この付近にも潜水艦を潜ませているようだしな」

「三つ巴の戦争なんて洒落になりませんよ」

「ここの場合は更にソ連も関わるからな…二国間だけでも核戦争の危険性があるというのに」

「昔は、バルカン半島。今は中東が世界の火薬庫と言われていますけれど、インド周辺部も相当ですよねぇ」

「まあ、我々も人のことは言ってられんがな」

「中米のほうは反攻を始めたんでしたっけ」

「そういう話だな。相手の補給線を破壊し尽くしたから動くという話だ。まあ中米が片付いてもヨーロッパ支援があるだろうけれどな」

「平和なのは北太平洋だけですか」

「今はそうだな」

「不穏なこと言わないでくださいよ。艦長」


 少し含みをもたせた艦長の呟きに副長が現実になりそうだからやめてくれ、と突っ込んだ。


「とは言えこの世界何があるかわからないだろう?」

「確かにそうですけれど。言ったら実際におきたりするじゃないですか」

「日本人が言う言霊か?そういや、君は日本に留学していたな」

「知り合った日本の士官がやたらとそういうのを気にするタイプだったので自分まで気になり始めて…」

「影響されたということか」

「ええ」


 恥ずかしそうに頬をかきながら頷く副長。

 まあ、アメリカ軍人もそういったことを気にする者はいるので何も日本だけが特別なわけではない。


「まあ、今回は何も起こらないことを祈るしかないな」

「まったくです」



 インド南西沖 インド洋



 インドとパキスタンの境界付近のインド洋ではパキスタン海軍のフリゲート艦隊が領海警備を行っていた。パキスタン海軍は陸軍に比べれば規模は小さく主力艦艇は20隻程度と、空母4隻に駆逐艦20隻、フリゲート30隻以上を保有しているインド海軍にとっては戦力的に劣っている。

 しかも、導入された水上戦闘艦の多くはアメリカやイギリスから購入した中古艦艇だ。しかし、近年になって北中国から北中国の新型フリゲートである054A型のパキスタン向けに改良した準同型艦を6隻導入することが決定し、やや海軍戦力を増強していた。


「陸軍の連中も思い切ったことをするものだな」

「奇襲は成功したようですが、あとはどうなるかです。時間がかかればインドに押し戻されます」

「人民解放軍が動いてくれればインドの動きは鈍る…はずなんだがな」


 北中国の053型フリゲートの近代化改良型であるズルフィカル級フリゲートの3番艦「サイフ」のCIC内で艦長と副長はそのような会話をかわしていた。

 ズルフィカル級フリゲートは前述の通り北中国の053級フリゲートを改良したフリゲート艦だ。主砲は054級で採用されている76mm速射砲。近接防空兵装としてFM-90(HQ-7)と730B型30mmCIWSを搭載するなど兵器の多くは北中国製のもので固められていた。

 また054A型をベースにした「トゥグリル級」は2隻が就役しておりこちらはVLSが搭載されより射程の長い対空ミサイルが搭載されていた。


「レーダーに機影多数!恐らくインド海軍の艦載機だと思われます」

「ついにきたか」

「本艦の対空兵装は本当に近接にしか対応できませんから、トゥグリルに頼るしかありませんね」

「…だな」


 日本やアメリカのような艦隊防空戦力は有していないパキスタン海軍にとって唯一の頼りは054A型の準同型艦であるトゥグリルにかかっていた。




 インド海軍 空母「ヴィシャル」



 パキスタン海軍から500km離れたところにインド海軍の機動艦隊がいた。

 旗艦である空母「ヴィシャル」はイギリスのアークロイヤル級航空母艦の準同型艦でありアークロイヤル級の特徴である2つの艦橋をもった空母だ。推進はアークロイヤルと同じくガスタービン発電機とディーゼル発電機で発電した電気を電動機に介して推進と艦内電力を調達する統合電気推進を採用していた。飛行甲板には2基の電磁式カタパルトを設置している。

 艦載機はソ連製のMIg-29Kを30機。アメリカ製の早期警戒管制機E-2Cを4機搭載しており最大で40機以上を搭載することができる。

 早期警戒機からパキスタン艦隊発見の報告を受けた艦隊司令官は直ちに対艦兵装を施した艦載機発艦を指示し、カタパルトから対艦ミサイルKh-35を4発搭載したMig-29Kが続々と発艦していった。


「パキスタンは確か、北中国から新型艦を導入して艦隊防空能力を強化していたな」


 艦載機の発艦を見送った艦隊司令官の少将は参謀に問いかけると参謀は「そのとおりです」と頷いた。


「ならば、『ブラモス』も撃っておくか」

「ぶ、ブラモスですか!?」


 それはインドがソ連と共に開発した射程700kmを超え最大でマッハ3の速度で飛翔する3トンという大型対艦巡航ミサイルである。ちょうど搭載している駆逐艦が2隻この艦隊にはいた。

 司令は空対艦ミサイルが撃ち落とされるのを想定して二の矢として「ブラモス」を発射したかった。参謀が驚いているのはパキスタン相手に使うことを彼が想定していなかったからであろう。


「脅威はさっさと片付けるに限るからな」

「り、了解しました。すぐに『ヴィシャカパトナム』に指示を出します」


 インド海軍最新鋭の駆逐艦の名前を参謀が告げると司令は満足げに「そうだ」と頷いた。





 パキスタン海軍「トゥグリル」



 パキスタン海軍で唯一の艦隊防空能力を持つフリゲート「トゥグリル」

 元になったのは人民解放海軍の主力フリゲート「054A型」である。

 32セルのVLSを設置しており、艦隊防空ミサイルが搭載されており、その他に4連装対艦ミサイル。30mmCIWSや対潜ロケット砲。そして艦載ヘリコプターとしてZ-9Cを1機搭載しておりその排水量は満載排水量で4000トンとパキスタン海軍でも最大級の戦闘艦であった。



「インド海軍機から対艦ミサイルが発射されました!」

「対空戦闘用意!」


 トゥグリルのCICでは艦長の指示が飛び砲術科の士官たちが対空戦の準備を始める。トゥグリルが搭載している対空ミサイルは北中国が国産開発したHQ-16が搭載されている。これは北中国の054A型に搭載されているのとほぼ同じな輸出型である。


「対空ミサイルの射程に入りました!」

「対空ミサイル発射!」


 艦首のVLSからパキスタン海軍でLY-80Nと命名された艦対空ミサイルが発射された。レーダーでは何発かのミサイルを撃墜しているのが確認出来たが未だに大多数のミサイルは健在であり艦隊に向かって飛翔していた。この頃には他の艦艇からも個艦防空用のミサイルが発射され更に接近してくるミサイルの数を減らすことに成功するがそれでも複数のミサイルが未だに飛翔を続けていた。

 最後の砦であるCIWSが自動起動し、トゥグリルに向かってきたミサイルはすべて迎撃することが出来たが中古のフリゲートはCIWSを搭載していない艦もあることから迎撃手段がなくそのまま対艦ミサイルの直撃を受けていた。


「どれくらいやられた?」

「4隻やられました」

「…そうか。やはり旧式は対空兵装が貧弱すぎるな」


 艦長は悔しげに呟く。

 それでもこうして実際に対空ミサイルで対艦ミサイルが撃破したことから安堵もしていた。


「早期警戒機がインド艦隊を発見したとのこと。距離は500km方位260です」

「CM-300の射程範囲外か」


 どうせなら反撃で対艦ミサイルを撃ってやろうと考えていた艦長は射程範囲外であることを内心悔しがる。CM-300や人民解放軍ではYJ-12と呼ばれている最新の超音速対艦巡航ミサイルでその射程は280km程度とされている。今回発見されたインド海軍はその射程範囲外にあった。

 ちなみに本家のYJ-12は400kmほどの最大射程を持っているがこちらも射程範囲外であった。


「こちら見張り!高速飛翔体が急速接近中!」

「ブラモスかっ!?」

「くそ、あっちのほうが射程が長かったのを忘れていたっ!対空戦闘急げ!」


 インド海軍の対艦巡航ミサイル「ブラモス」はソ連による技術協力によって開発されたものでありその射程は水上艦型だと700kmに達するとされていた。CM-300やあくまで北中国が輸出用に開発したものなのでその性能は低めに設定されているがインドの「ブラモス」は自国開発したものだ。

 発見が遅れたがまだ対空ミサイルは余っている。しかし、超低空を飛翔する巡航ミサイルの発見は遅れておりすでに艦隊にかなり接近した状態であった。残存艦から残っていた個艦防空ミサイルが発射されたが「ブラモス」には最新のAI誘導が使われていることから飛行針路を多少修正しながらまっすぐと迫ってきていた。CIWSが自動起動するが1発の「ブラモス」がトゥグリルの艦橋付近に着弾した。

 北中国の空母機動艦隊の撃破を念頭に開発された「ブラモス」は300kgの弾頭が詰め込まれており排水量4,000トンほどのフリゲートはあっという間に轟沈してしまった。



 その後。陸地から航空機搭載型のCM-300を搭載したパキスタン空軍のFC-1戦闘機がインド機動艦隊撃破のためにやってきたがインド海軍の濃密な対空防御網によって阻まれFC-1もMig-29Kとの対空戦闘に破れ撃墜されてしまった。

 このように奇襲攻撃で始まった戦争はすぐにインド側が優位な状態で戦闘は進んでいき予想と違った結果にパキスタン軍部を大いに慌てさせることとなったのであった。


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