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 アーク歴4020年 5月4日

 アトラス連邦共和国 ヴェルス

 アトラス連邦情報庁


「このユーラシアって大陸はなんでこんな争いばかり起きているんだ?」


 地球のことなんて一部しか知らない連邦情報庁の職員は報告書の中にあったユーラシア大陸の現状に関する資料を見て首を傾げた。


「ソビエト連邦と中華人民共和国とかいう社会主義国が仲が悪いことはわかったが。ほかは一体なんだ?」

「日本の情報局から聞いたけど。イギリスだとかアメリカが色々と関わっているらしいぞ。その辺」


 首を傾げている職員にちょうど日本の内閣情報局職員からユーラシア大陸に関する話を聞いていた同僚がユーラシア大陸がなぜ争いだらけになったかの部分を説明する。


「つまり列強が好き放題やった結果ということか?」

「まあ、概ねそんな感じらしい。ユーラシア大陸の大部分が列強の植民地に一時的にされたらしいしな。そして、二度の世界大戦とその後のアメリカとソビエト連邦の冷戦で更にややこしい対立がおきたとかいう話だぞ」

「どこの世界でも似たことは多く起きているってことか」


 同僚の説明に納得しながら彼はアーク世界の情勢を思い返す。

 実は彼らが元いた世界であるアークでもそういった情勢が極めて不安定な大陸が存在していた。そういえば、その大陸の行方もまだわかっていないな、と職員は思い出す。現在主に調査が行われているのは北半球部分だが日本やアメリカそしてアトラスが衛星を続々と打ち上げておりそれによって発見された大陸や島なども多い。

 最近になってわかったのは彼らの世界の5大国の一つでその筆頭格とされているリヴァス共和国がニュージーランドから7000km離れたところにあることが確認されたところだろうか。早速、リヴァスはニュージーランドなどと外交関係を締結し、日本やアメリカともつい一週間ほど前に外交関係を締結していた。

 リヴァスは、アトラスにとっても重要な同盟国の一つなのでその国が見つかったことはアトラスでも大きな話題になったほどだ。更に、前世界では鎖国状態だった竜人族の国であるドラネシア王国が日本からの外交使節団を受け入れたというのもアトラスでは大々的に伝えられていた。

 基本的に他種族と馴れ合う事を嫌う竜人族が他種族――しかも、竜人族がとりわけ嫌っている人間と接触をもった事はそれだけ亜人たちの間では衝撃的なことだった。

 今は、外交関係締結に向けた話し合いが行われているらしいという。ドラネシアは大部分が山というドランシア島という島のみで構成されている国で鉱物資源が豊富であり、それらの鉱物資源を輸出することで外貨を得ていた。ただ、基本的に取引をしているのは亜人の国が中心で人間の国とは貿易をしていなかったのだが、どういうわけか日本とだけは交渉に応じることを決めたという。これには同国で絶対的な権力を持つ王家が深く関与しているらしい。王家は竜神などとも呼ばれている竜族の末裔なので何かを感じ取ったのかもしれないがそういったオカルト的なことは調査してもよくわからない。


「この、イスラエルって国もまた色々と濃いな…」

「大昔に故郷を追われた流浪の民が第二次世界大戦後に、聖地とされている場所に戻り建国。しかし、周辺諸国はそれを認めずに戦争をするがそれを勝ち抜き独立――現在も、周辺諸国とは争いが絶えないねぇ…。アメリカから潤沢な軍事支援があるとはいえ周辺諸国すべてが敵の状態で今の今まで独立を保っているというのは相当に軍の練度が高いんだろうな」


 ユダヤ人国家のイスラエルは世界最大のユダヤ人コミュニティを抱えるアメリカによって強力に軍事支援を受けているが建国時は各国が第二次世界大戦で使っていた兵器などを流用してアラブ諸国に対抗していた。はじめはフランスなど西欧諸国からも支援を受けていたがアラブの石油利権などでフランスが手を引いたことで現在はアメリカが最大の支援国家となっている。そして、イスラエル自身も他国の手をいつまでも頼るのは危険と判断して多くの予算を研究開発分野にまわすことで世界でも屈指の技術力を持つ工業国家に成長していた。特に軍需産業はアメリカやソ連そしてヨーロッパの軍需企業に肩を並べるほどで世界各地にレーダーやミサイルなどを輸出していた。


 イスラエル国防陸軍と国防空軍は世界最強の陸軍と空軍の一つと地球時代には言われていたほどだ。そして、イスラエルの情報機関である「モサド」も世界で特に優れた情報機関と評価されておりイスラエルのために様々な情報工作活動を行っていた。

 ただ、アラブ諸国がイスラエルにいつも敗北しているのはアラブ諸国同士の一体感がないことも問題だと考えられている。一応、アラブの盟主はイスラム教の聖地があるサウジアラビアだが、イラクやエジプトなどといった国々も自分をアラブの中心だと考えており対立していた。また、同じイスラム教徒でも宗派による対立は激しくそれによってサウジアラビアなどは宗派の違うイランとも対立をしていた。


 イランはイスラム教徒が多数派の国であるがイスラム法を憲法には制定していない世俗国家であるためその部分も他のアラブ諸国との対立の要因になっているという。ちなみにイランが世俗的な共和国になったのは日本の情報機関の工作活動によるものである。イランは元々親米の帝国だったのだが一種の独裁的な体制だったことから国内の不満がたまっていて革命間近だと言われていた。イスラム革命が起きるとアラブ情勢が更に混沌化することを恐れた日本が裏工作をして無血クーデターと言うかたちで帝政を終わらせて世俗的な共和制国家にしたというのだ。この時日本の情報機関とアメリカの情報機関そしてソ連の情報機関の三つ巴の戦いがイラン国内で起きていたらしい。

 ただ、これによって日本は膨大な埋蔵量を誇るイランの油田を手に入れることができ「オイルショック」などという事態にあってもなんとか経済を立て直すことができたというわけだ。

 まあ、この件で日米関係は一時的に悪化したそうであるが。


「ユーラシア。俺たちの近くになくてよかったな」

「まったくだ。その変わりに人間主義の連中がいるがな」

「…案外そっちのほうがまずいか?」

「ああ。少なくともユーラシアは日本が仲介してくれればなんとかなるが。人間主義者共はそうはいかないからな」


 職員たちは自国の置かれた状況を考えて「どっちにせよ問題ばかりか」と思い肩を落とした。






 インド連邦共和国 ニューデリー

 国防省


「この戦争をどこまでやるか・・・だな」


 国防大臣が悩ましげに呟く。

 彼の前には各軍のトップがいるが全員の表情は険しい。

 パキスタンによる突如の侵攻によって国境沿いにある都市は大きな損害を受けていた。奇襲攻撃はほぼ無差別に都市を攻撃しそれによって多くの民間人が犠牲になっていた。軍高官たちはパキスタンへの激しい怒りの感情をなんとか抑えながら会議に参加していた。


「最初に仕掛けてきたのはパキスタンです。徹底的にやるべきです!」


 と、主張するのは空軍参謀長だ。

 しかし、すぐさま陸軍参謀長が懸念の声をあげる。


「しかし、徹底的にやったら北中国が介入してくるのではないか?今はまだ国境の人民解放軍はおとなしいがパキスタンがやられるのをそのままただ静観しているとは思えんぞ」

「攻撃を受けたのは我が国だぞ!なぜ敵に配慮する必要がある」

「そうは言っていないっ!」

「言い争っている場合ではない!」


 言い争いを始める二人の参謀長を国防大臣が一喝でもって黙らせる。


「それで、人民解放軍は本当に動いていないのか?」

「はい。国境地帯に軍はいますが、動きは見られません」

「連中もパキスタンは重要な取引先のはずだ。いくらパキスタンから始めたとしても何らかのアクションでパキスタンを支援すると思ったのだが」

「例の新大陸の攻略に手こずっているのでは?」

「確かに、講和条約を結んでいるがダストリアへ追加の部隊を派遣しているという噂もある。パキスタンのことまで数がまわらない可能性はあるな」


 中国の動きが予想できずに頭を悩ませるインド軍指導部。

 単純に中国共産党の指導部はパキスタンに勝ち目はないと考えて、手出しをしないことを決めただけだ。ただ、人民解放軍は戦意旺盛なのでその戦意を他所で発散してもらおうと考えてそういった部隊をダストリアへ送り込んでいた。ちょうど、ダストリア諸国も講和条約に反発する世論が強まっているので戦争が再開される可能性は高く、ガス抜きに都合がいいと軍部は考えたようだ。


「とりあえず北中国を警戒しながら残りの部隊でパキスタンに攻め込むしかないか――世論もパキスタンを徹底的に叩くべきという論調が強まっているしな」


 国防大臣は悩みながらもそのような結論を出す。

 軍高官たちからは特に反論は出なかった。彼らも北中国のことは気になるがだからといってあまり消極的な対応をとれば国民から激しい反発を受けるのは理解していたしなによりも突然攻め込んできたパキスタンに対しての怒りもあったからだ。

 このことはすぐに首相及び大統領に届けられ両者もこの国防省の方針を指示した。彼らもあまり弱腰な対応を取ることが出来ず今回のは明らかにパキスタンが悪いということを国際社会(主に国連)でアピールすることを外務省に指示を出し外務省もそのように行動するのだった。





 正暦2025年 5月7日

 アメリカ合衆国 ワシントンD.C.

 ホワイトハウス


「安保理はパキスタンへの非難決議でまとまったか」

「北中国とエジプトは棄権しましたが、それ以外の国々はパキスタン非難で一致したようです」


 パキスタンの実質的な後ろ盾である北中国とイスラム教徒が多いエジプトは今回の決議には棄権したが。それ以外の常任理事国・非常任理事国はパキスタンへの非難決議に賛成した。

 非常任理事国の中には、イスラム教徒が多い国もいたが今回のパキスタンは擁護できないとし非難決議に賛成している。


「まあ、今更安保理が何を言ったところでパキスタンは止まらんか。パキスタン駐在のCIAはなんと?」

「どうやらパキスタン軍のかなりが今回の件に関わっているようです。北中国の統一工作部にも感づかれていなかったようで」


 クロフォードの質問にCIA長官が答えるが北中国の情報機関である統一工作部まで知らなかったというのはパキスタンの統合情報部が何らかの工作をしていた可能性がありそうだな、と大統領は感じた。


「我々と北中国まで出し抜いたということか。どうなっても知らんぞ」

「もしかしたら人民解放軍が呼応して動くと考えたのでは?北中国指導部は人民解放軍を今必死に抑えているという話もありますし」

「つまりパキスタン軍部の見込みが甘かったということか?」

「恐らくそうなのではないでしょうか」


 いくら、最近人民解放軍が独自の動きをしているといっても基本的に中国共産党の軍隊であるのはかわりなく最高指揮官は国家主席だ。国家主席たちからすればインドやソ連と二正面になるのがわかりきっている戦いに首は突っ込みたくないだろう。ただでさえ今はダストリア大陸の植民地化に忙しいのに他国の戦争にまで手は出したくないということだろう。

 噂によればダストリア大陸にある3つの国を統一工作部を使って属国化させたという話もある。パキスタン軍は武器の売り手としては確かに北中国にとっては重要ではあるが今回の件は北中国最高指導部にとってはパキスタンを切り捨てるには十分な理由になったのだろう。


「パキスタンから人材を引き上げますか?」

「そうだな。消えゆく国にこれ以上いても意味はない。無論大使館員もな」

「わかりました。すぐに指示を出します」


 クロフォードは印パで核戦争が起きるだろうと予測していた。

 そんな場所に諜報員や大使館員をいつまでも置いておけるわけがない。今後パキスタンの情報を仕入れることができなくなるというデメリットはあるもののその部分は仕方ないとクロフォードは割り切っていた。CIA長官やホープ国務長官もこの大統領の決定に異を唱えることはなかった。

 CIA長官は内心ではパキスタンでせっかく築いたものがすべて台無しになることを惜しく思っていたが彼もまた今回の印パ戦争では核兵器の応酬が起こり得ると考えていたので大統領の考えに異は唱えなかった。

 一方でホープ国務長官は国連も巻き込んでなんとかパキスタンが核兵器を使わないようにしようと考えており実際に国務省に戻ったら職員たちにそのように指示を出すのだった。


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