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正暦2025年 1月1日
日本皇国 東京市千代田区
総理公邸
現在の日本皇国の内閣総理大臣である下岡俊英は今年の公務をすべて終え短い正月休みに入るところだ。正月休みといっても彼の地元は東京に隣接している神奈川であるのと、災害などがおきたときにすぐ対応できるように正月休みといっても総理在任中の住居である公邸にいることは変わりはない。
大晦日恒例の歌合戦も終わり、各地でカウントダウンイベントが終わりいよいよ2024年から2025年へと年が変わった瞬間に東京では微かに揺れを感じられた。その時の下岡はそろそろ就寝しようか、と思っていた時だった。揺れを感じたため一瞬身構えたものの、緊急地震速報が鳴らなかったことから少なくとも首都圏で大きな地震ではなかったのだと考えながら、寝室にあるテレビをつけ国営放送を確認する。
しばらくすると国営放送のニュースセンターに映像が切り替わりアナウンサーが地震が発生したことを伝えたが、その表情は困惑していた。そして、テレビを見ていた下岡も速報の字幕を見て思わず首を傾げた。
「随分と範囲が広いな?」
震度は3だったが、その観測された地点がほぼ日本全国だった。
そして、東京の町中を写した情報カメラにも異変が起きた。
「なんだこれは…」
夜空一面にオーロラのようなものがみえたのだ。
下岡はあわてて窓の外を確認してみるが、公邸からも夜空に妖しく輝くオーロラのようなものを確認できた。
「一体何が起きている?」
困惑する下岡の下に、隣接している官邸から異常事態を伝える連絡が届いたのはそれから十分後のことだった。
2025年1月1日になった時、日本全国はもとより世界各地で異常現象が観測された。各地で観測されたのは地震と夜空に浮かぶオーロラだ。日本のように日頃から地震が頻発している国はともかくとして、これまで一度も地震が起きなかった地域ではたとえ震度3の揺れであっても町中は大混乱に陥り、さらに空に浮かぶオーロラのようなものをみて信仰深い者は世界の終わりだと絶望した。そのような混乱が世界各地で起きていた時、各国政府はこの異常現象の正体がなんなのか情報収集を始めていた。しかし、そんな各国政府にとって想定外の事態がもう一つ起きる。無数に宇宙にあるはずの人工衛星との通信が途切れ、更に世界の海に張り巡らされていた海底ケーブルも断絶されたのか他国との通信が一切とれなくなったのだ。
同日
北海道東方沖 太平洋
日本もまた、各国との通信が途絶しさらに人工衛星の大部分とのアクセスが失われたことから状況を確認するためにスクランブル待機していた各空銀基地の戦闘機に対して情報収集のための出撃を指示した。
日本の北の領空警備を担当する北海道の千歳空軍基地と樺太の豊原空軍基地にもスクランブル待機していた戦闘機が空軍参謀本部の指示によって情報収集のために夜の空へと飛び立った。
それ以外にも台湾の高雄基地。マーシャル諸島の東浜空軍基地。北陸の小松空軍基地などからも戦闘機が飛び立ちすぐそばにあるであろうユーラシア大陸やハワイ諸島などの確認へ向かった。
このうち、千歳基地を飛び立った戦闘機は一時間ほど飛行した太平洋上で突如として警告を受けることになる。
『そちらはイギリス連合王国の領空を侵犯しようとしている。繰り返す――』
「イギリスだと?そんなバカな。ここは太平洋の真上だぞ!?」
本来ならば北海道の東にあるはずがないイギリスからの警告にパイロットは困惑しながらも自分は日本空軍千歳基地所属であることを国際無線にて名乗りあげるとイギリス側も「なぜ大西洋上空に日本の空軍機がいる!?」と困惑することになる。
結局、それぞれの情報をすり合わせる必要があることから日本空軍の戦闘機はイギリス空軍の戦闘機による誘導をうけイギリス連合王国領アイルランド島の首都・ダブリン近郊にある空軍基地へ降り立ちそこでイギリス側へ状況を説明することになった。
一方でユーラシア大陸を確認しにいった小松基地の戦闘機は二時間飛行してもユーラシア大陸を確認することができず基地へ戻りこの事が報告されたが、翌朝に海軍の哨戒機と共にもう一度探索を出ることにし、政府には「二時間飛行したもののユーラシア大陸は確認出来ず。翌朝再度調査にあたる」という報告を行った。