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 正暦2025年 3月29日

 フィロア大陸東方沖 太平洋

 アメリカ海軍 第1水上戦闘群



 アメリカ海軍太平洋艦隊第1水上戦闘群。

 戦艦「モンタナ」を旗艦とし、ミサイル巡洋艦2隻。ミサイル駆逐艦4隻によって構成された水上艦隊だ。

「モンタナ」はモンタナ級戦艦の1番艦として1944年に就役した。

 当時のアメリカは日本海軍に対抗するためにアイオワ級戦艦の建造や、エセックス級やミッドウェイ級などの大型空母の建造を進めるなどして太平洋戦争で壊滅した海軍の再編を行っており、モンタナ級はその総仕上げという形で計画された。

 日本が建造した「大和」に匹敵する巨大戦艦として建造されたモンタナは第二次世界大戦では運用されることはなかったが、その後の中華戦争などで黄海に派遣され北中国への艦砲射撃を実施し、更にビルマ戦争でも派遣されるなどアメリカに関わった多くの戦争に参加した。

 その後は何度か予備役に入りモスボール状態となっていたが、近年は北中国やソ連が海軍力を増強していることからそれに備えるために大規模な近代化改修が行われそれも昨年に終わっていた。その直後におきたのが今回の異世界転移でありモンタナは20年前のイラク戦争以来の現役復帰を果たした。

 同型艦であるニューハンプシャーやルイジアナも順次近代化改修を受けており今後現役復帰していく予定だ。

 その「モンタナ」などによって構成されているのが第1水上戦闘群だ。

 基本的にアメリカ海軍における水上戦闘群は日本のように常設した艦隊ではなく、戦艦が現役復帰したとき。あるいは巡洋艦や駆逐艦などの水上戦闘艦のみの艦隊編成になったときに臨時に編成されるものだ。


「司令。作戦本部からです」


 第1水上戦闘群の指揮官であるリベラ准将は参謀から指示書を手渡された。それに何気なく目を通したリベラ准将は一瞬目を見開く。


「どうやら、この国は我が国に対して弾道ミサイルを発射したらしい」

「!?」


 准将の言葉に艦橋にいた全員がその場で固まった。


「そ、それで本国は?」


 艦長が少し焦ったように准将を見る。


「落ち着け艦長。フロリダ沖にいた『シカゴ』がSM-3で迎撃したようだ。ただし、我が国が攻撃を受けたのは事実」

「つまり報復攻撃ですか」

「そうだ。我々の任務は近くにある基地への対地攻撃だそうだ。本当ならば艦砲射撃もお見舞いしたいところだが…制海権を完全に確保していないから。こればかりはあとになりそうだな」


 リベラ准将は少し残念そうに言う。

 日本海軍には未だに大艦巨砲主義を唱える軍人が多いが、実はアメリカ海軍の中にもそういった者たちは何人かいる。リベラ准将はその内の一人だ。

 日本もそうだがアメリカの大艦巨砲論は「ミサイルなんて高いものを大量に揃えるより大砲撃っていたほうが安上がりだ」と考えて大口径砲を搭載した戦闘艦が現代でも必要という考えだ。だからこそ、レールガンなどの研究や開発を日本はかなり熱心に行い。日本に負けたくないアメリカも研究を続けた。実用化という面では日本が一歩先にいったが、アメリカも一応は実用化できる段階まで来ている。ただ、議会が「そんなものは必要ない」という方針のため今のところレールガンを搭載する軍艦は一隻もいない。


「近くにいる第7空母打撃群も艦載機を用いて大規模な攻撃を行い。更に空軍の戦略爆撃機が敵首都への攻撃を実施する。敵さんも誰に喧嘩を売ったかそろそろ思い知るときが来たということだな――CIC。攻撃の準備は?」

『すでに目標の入力は終えています。提督』

「よろしい。ならば盛大に始めるとしよう。僚艦にも通達」

『アイサー!』



 フィデス人民共和国

 中部 グローレン州 グローレン

 人民陸軍 中央軍管区司令部


 フィデス中部にあるグローレン州――元々ここは独立した国であったが半世紀前にフィデスによって侵略を受け併合された。中部におけるフィデス軍の拠点であり陸軍司令部や第1艦隊に次ぐ主力艦隊である第2艦隊の司令部が置かれた海軍基地が置かれている。

 そんな、グローレンの町は海軍基地が置かれている港湾を中心に大規模な火災が発生していた。その原因は巡航ミサイルの幾つかが港にあった石油貯蔵用のタンクを破壊したからだ。


「い、一体なにがおきた?」

「わ、わかりません」


 グローレンに司令部をおいている陸軍中部管区軍司令の大将は突然の出来事に困惑する。彼らは前線のことを伝えられておらず、ただ「作戦は順調に進んでいる」という総司令部の言葉を鵜呑みにしていた。そのため、彼らはこの爆発がアメリカによる攻撃だと思わず、何らかの事故が港に起きたのだとこの時は判断していた。


「閣下!どうやら海軍基地でなにかあったようです」

「海軍の連中。もしや何かヘマをしたな?空母などという玩具を仕入れてから調子に乗りやがって」

 

 大将は舌打ちをしながら海軍を非難する。

 これまで自分たち陸軍がフィデスの中心だったのに、近年はアトラスに対抗とばかりに海軍が増強されているのを苦々しく思っている将校は多く、大将もその一人だった。

 これで海軍の予算を減らせるチャンスかもしれないな、と内心考えていると突如として司令部全体が揺れ、数秒後に何かが爆発する音がすぐ近くから聞こえてくる。


「こ、今度は何事だ!?」

「閣下!隣の補給処にミサイルが着弾しました!」

「なんだと!?い、一体どこからの攻撃だっ!」


 アメリカの存在を知らない大将は意味がわからないと混乱する。


「と、とにかく情報を集めてこい!海軍基地が爆発したのと関係があるかもしれん」

「は、はい!」


 報告に来た若い士官は慌てて部屋を出ていく。

 その間、大将は窓を開けて隣にある補給処を見た。

 補給処となっている倉庫からは猛烈な炎が立ち上っており、黒煙ははるか上空まで広がっている。補給処には燃料が貯蔵されておりそれに引火させないために兵士たちが急いで消火活動を行っているが炎の勢いは一向に収まる気配はない。


「一体誰が…まさかリヴァスがこの近くにいるのか?だが、リヴァスが我が国を攻撃する理由は見当たらない」


 彼がアメリカという国の存在をしるのはそれから一週間後。

 総統命令という形で前線へ向かえという辞令が届いた時であった。



 3月30日

 フィデス人民共和国 アディンバース

 総統官邸


「『アイガンガー』が撃墜されただと!?おのれ、アメリカめっ!」


 虎の子のICBMが破壊されたことに激怒する総統。

 更に、中部の中枢グローレンも攻撃を受けたという報告で総統の怒りのボルテージは更に上がった。


 そのアメリカに一撃を食らわせてやろうと思いついたのが今回の弾道ミサイル発射である。さすがに、核弾頭を使うほどまで理性を失ったわけではなかったがその理性すら撃墜されたことで失いかけていた。

 それでも彼は核弾頭を使うという最悪の判断を下すことはなかった。

 もし、ここで彼が核弾頭を使うという最悪の判断を下していたらフィデスという国はその日の内に消え去っていたであろう。

 だが、長距離弾道ミサイルをアメリカに向かって放ったということでこの日アメリカによる報復攻撃がそれまで攻撃の対象外とされていた首都のアディンバースに向けられることになった。


 少し気持ちが冷静になった総統はとりあえず残っている仕事を片付けようと思った時。大きな爆発音と総統官邸を揺らす震動に思わず窓へ駆け寄った。


「何事だ!?」


 更に続けざまに聞こえてくる爆発音に総統は完全に混乱していた。

 それが敵からの攻撃によるものだと彼が気づいたのはそれから暫くたってからだ。彼は軍参謀本部につながっている電話を手にとって受話器を耳にあててみるが普段ならすぐに連絡がつくはずの軍参謀本部との連絡はつかなかった。

 彼はその隣りにある国防省との直通電話をとるがこちらも連絡はつかない。


「た、大変です閣下!」


 暫くして、青ざめた顔の総統補佐官が部屋に駆け込んできた。


「一体なにがおきた!」

「こ、国防省や軍参謀本部をはじめ市街地にある軍施設にミサイルが着弾しましたっ!」

「なんだと!?」


 これまで攻撃を受けてきたのは主に北部にあった空軍基地や兵站拠点などが多く首都にある施設まで攻撃を受けることはなかった。


「国防長官との連絡はつきましたが、参謀総長などとの連絡はついていません」


 ちょうど、この時間は軍高官が集まった会議が参謀本部で行われていた。

 国防長官は総統官邸にいたことから攻撃から逃れることができた。彼は現在攻撃を受けた国防省などの確認をしていた。


「おのれ、アメリカめっ!」


 机を拳でたたきながらアメリカに対しての憎悪を増大させる総統。


「国防長官をすぐに呼んでこい!」

「は、はい!」


 総統の威圧にあてられた総統補佐官は顔を真っ白にしながら慌てたように部屋を飛び出ていった。


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