表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/167

52

 正暦2025年 3月20日

 日本皇国 静岡県 御殿場市

 日本陸軍 東富士演習場


 日本で二番目に高い山――富士山。

 その麓には本州最大の演習場が置かれている。

 東富士演習場。毎年、夏頃になると陸軍の教導師団による総合火力演習が行われることで知られている演習場だ。ちなみに、それ以外でも当然ながらこの演習場で大規模な訓練は行われている。

 教導師団――「富士教導師団」は富士学校において教育支援を担当している部隊であるため配備している装備も陸軍が採用している一線級の装備ばかりだ。北海道や樺太に集中配備することになっていた20式戦車も本州ではここだけに配備されている。


「ジャクソン大佐じゃないか。久しぶりだな」

「ワイト准将――ご無沙汰しています」


 ワイト准将は兵学校時代の後輩であり現在は大使館の駐在武官をしているジャクソン大佐と久々の再開をしていた。


「そういえば君は駐在武官だったな。どうだ?この国は」

「過ごしやすい国ですよ。亜人はやはり物珍しいようですが――大きなトラブルはまだ起きてはいません。今後、定期便が就航するようになると観光に訪れるエルフも増えるかもしれません。まあ、それで問題が起きるかもしれませんが。そちらのほうは?確か、ガリア帝国関係の国がフローリアス諸島近海に出没しているとか」

「最近はどうも大人しいようだ。第1機動艦隊をフローリアス諸島へ派遣し当分は監視任務は継続――といったところだな。ガリアが出てくる可能性もゼロではないと情報部は言っているからな」

「ガリアが仕掛けてくると面倒ですね…」

「ああ、あそこは曲がりなりにも5大国だからな。しかも、その中でも情報が限られている。実際どれだけの戦力を持っているか把握しているのは付き合いのあるルーシアくらいだろう」

「そのルーシアも果たしてどこへいったのやら…」

「これも情報部から聞いた話ではあるが、どうもユーラシアとかいう大陸の南にあるのではないか――という話だ。だが、ルーシアはルクストール連邦とも対立している。他の大陸に目を向ける余裕はないだろうな」

「ユーラシアですか…日本からの情報によると中々に濃い国々が揃っている大陸らしいですが」

「ああ、ソビエト連邦と中華人民共和国という二つの共産主義国家がいるんだったな。そのうち、中華人民共和国はダストリア大陸に軍事侵攻しているとも…」

「それ以外にも宗教問題で混乱が続いている地域も多いようです。特に中東とよばれる地域は地球における石油や天然ガスの一大採掘地帯なのですが、そのせいもあって大国の介入などで宗教対立が激化して常に小競り合いを続けているとか」

「世界が違ってもやはり人はかわらんな」


 准将が渋い顔で呟く。

 アークでもそういったトラブルは多かった。特にアークの場合は亜人がいるのでそれ絡みの周辺国とのトラブルは特に大陸諸国では多い。一方的な難癖をつけられて攻め落とされた亜人国家もありそういった国から逃れてきた難民たちが他国から直接的な武力侵攻の危険が少ない島国へと殺到し、従来から暮らしている住民たちとトラブルを起こす――といったことまであった。

 アトラスは幸いそういった紛争地域から離れた(フィロア大陸は除く)立地だったがその代わりにフィデスとの問題がずっと横たわっていた。


「ところで、准将たちは明日にはイギリスですか」

「その予定だ。いやぁ日本の軍備にはただ圧倒されたよ。最後に向かうアメリカはこの日本以上だというし。どんなものが見られるか楽しみでもある。来月には大規模な訓練も予定されているからな。君は確かその演習に参加するんだったな」

「各国の駐在武官たちと一緒ですが。日本主催の大規模な海軍演習らしいですね。『大和』はどうやらヨーロッパという大陸へ向かうようですが」

「そういえば新しい『大和』がいたのだったな。私も見たかったが…」


 准将は少し残念そうな顔をする。

 初代「大和」を置き換えた新型「大和」は現在太平洋をアメリカに向かって航行していた。目的地はヨーロッパだ。ヨーロッパへの軍の派遣が3日前に閣議決定で正式に決まり、大和もその派遣部隊の一員として昨日。母港である横須賀を出港していた。


「でも、初代はご覧になられたのですよね?」

「ああ。初代もすごい戦艦だった。80年以上前の軍艦にVLSを設置していたし、フェイズドアレイレーダーまで取り付けられていたんだぞ?しかも状況によってはまだ現役復帰できるような準備をしているなんてこの国の海軍はよほど戦艦を重要視しているようだな」

「それは、私も感じました。最初は地球特有のものかと思いましたが。どうやら日本を含めたごく一部の海軍大国のみの考えのようで…」

「今の軍隊は昔以上に金がかかる。そのうえで巨大な的にも見える戦艦を不要と考える国が多いのは当然だろう。この国の場合は戦艦の対地攻撃能力を特に重視して見ているようだがね」

「今後。我が国でも戦艦は検討されるのでしょうか」

「我が国はそこまでのことはしないと思うがね。だが、大口径レールガンを搭載した大型巡洋艦は技術研究部で実用化に向けた研究が行われていたはずだ。この世界は色々と物騒だから実際に建造に向けて話が進むかもしれないな」


 ワイト准将はそう言いながら目の前で繰り広げられる日本陸軍の射撃・砲撃演習を真剣な表情で見つめていた。



 正暦2025年 3月22日

 ユーラシア大陸南方沖

 日本海軍 第3艦隊

 護衛空母「日進」


 ユーラシア大陸とダルネシア大陸のちょうど中間付近の海域を無数のタンカーや貨物船が航行していた。この船団は日本から出発したユーラシア方面向けの貨物船とタンカーの再開便だ。

 転移に伴って世界情勢が大きく変化したことから、船会社は単独での運行は出来ないと国に訴え。その結果、海軍の艦艇と海洋警備隊の大型巡視船が船団護衛という形で同行することになったのだ。

 今回の第一陣の護衛には佐世保に司令部をおいている第3艦隊が同行していた。

 旗艦は那覇を母港にしている護衛空母「日進」が務め。

 指揮官は日進が所属する第3護衛群司令である神山洋介准将が務めていた。

「日進」はスキージャンプ勾配を艦首に設置した軽空母でありF-35B艦上戦闘機を最大で18機搭載することが可能だ。今回は、F-35BJを8機。哨戒ヘリコプターであるSH-60Kを6機搭載してイランを目指していた。


「近くにいる北中国のフリゲート艦はまだ追ってきているのか?」

「はい。距離はとっていますが、こちらを監視しているようです」

「心配しなくてもそっちの獲物は狙ってないんだがな…」


 CICと艦橋はまるで戦地の只中にいるような緊迫感が漂っている。

 というのも、この海域はちょうどユーラシアとダストリア大陸の中間地点にありダストリア侵略のために人民解放軍の艦艇が頻繁に行き来している海域なのだ。そして、現在人民解放軍のフリゲート艦が船団の後を監視するかのようについてきているのだ。

 さすがに、民間船舶を人民解放軍が襲うことは考えられないが軍艦を持ち出したことに対しての抗議のための「挑発行為」はしてくるかもしれないので神山准将たちはいつでも対処できるように気を張り詰めていた。


「今後もこれが続くんですかね…」

「可能性はある。だからこそ民間船舶はここを単独で通りたくはないんだ」

「中東の情勢もだいぶ悪化しているという話ですね…イランはまだ安定しているようですが」


 今回の目的地であるイランは中東の中では情勢が安定している。

 親日的な国であるし、イスラム教徒が多数生活しているが周辺諸国のようなイスラム国家――という形態はとっておらずトルコと並んでかなり世俗的な体制になっている。他の中東諸国と対立しているイスラエルとも外交をもっているほどだ。まあ、そのせいで他のアラブ諸国とは仲が悪いがこれはイスラエルと外交を結んだことだけではなく、イランとサウジアラビアなどの湾岸諸国とでは同じイスラム教徒でも宗派が違うという部分が大きいだろう。

 かつての、キリスト教もカトリックとプロテスタントで激しく対立していたように同じ宗教でも宗派による対立関係とはよくあることだった。


「どうせなら原子力空母をつれてきたほうがよかったのかもしれないな」

「それだと余計人民解放軍を刺激しませんか?」


 空母がいればなぁ、とボヤくと参謀長の愛川大佐が渋い顔をした。

 第3艦隊には原子力空母が2隻配備されているが1隻はドック入り。もう1隻は動かせる状況だったが第1艦隊の空母がヨーロッパに派遣されることになったので本土周辺の空母を減らせないという事情により派遣は見送られた。

 ちなみに、日進以外の派遣艦は。


ミサイル巡洋艦「栗駒」

ミサイル駆逐艦「海月」

汎用駆逐艦「淡雪」「鈴波」

護衛艦「阿武隈」「吉野」の6隻だ。


 船団護衛以外は北米やアメリカ向けでも要請されており現在、連合艦隊や軍令部はどのように艦艇を振り分けるかでかなり頭を悩ませているらしい。ともかく危険度が高いと考えられる場所に優先的に主力艦を向かわせることにしているようでこのユーラシア方面もそんな「危険度が高い」と判断された航路の一つだった。


「人民解放軍のフリゲート艦。離れていきます」

「監視任務は終わりのようだな」

「帰りはあっさりと通してくれるといいんですがね」

「どうだろうな。南は戦争中だし、仮に終わってもここはすでに北中国の庭のようなものになったからな。定期的な監視を受けるのは仕方がないと思うしかないだろう」


 別に俺等はやましいことをしているわけじゃないしな、という神山准将。

 今回の任務はあくまで船団護衛。人民解放軍を監視することではないのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ