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正暦2025年 3月12日
ギリシャ共和国 西部
ドイツ連邦陸軍 第3機甲師団
ベルカ帝国によるギリシャ侵攻から二ヶ月。
戦線は完全に膠着している。圧倒的な物量を持つベルカ帝国軍であるがギリシャ全土を制圧することは出来ない。一方の連合軍もベルカ帝国軍を押し返すだけの勢いはなく両者はギリシャ西部で散発的な衝突を繰り返すことに終始していた。
ドイツ連邦陸軍第3機甲師団は、ドイツ連邦陸軍第2機甲軍団に所属する機甲部隊でありドイツ北部を拠点においている部隊だ。この機甲師団はドイツの新鋭戦車である「パンター2」を装備している師団でもあった。
「パンター2」は所謂第4世代型主力戦車に部類されるドイツ陸軍の最新鋭戦車であり52口径130ミリ滑空砲を搭載しているのが最大の特徴で複合装甲なども新規に開発されたものが装備されているがそれ以外は第3.5世代戦車などとあまり変わっていない。
戦車という兵器はすでに完成されてしまったのであとはどれくらい大型の砲を搭載するかどうかくらいしか変化のとりようがないと言われている。日本は戦車にもAIをのせていたりするし、ドイツも最終的に完全無人化も検討しているが「もし暴走したらどうするか」という議論が決着する見込みがつかないことから完全無人化は最悪50年経っても検討されそうだ、と揶揄されるくらいには話は進んでいなかった。
まあ、乗員にとってはどうでもいい話なのだが。
「正面、敵戦車!」
「APFSDS発射!」
パンター2から発射されたAPFSDSがベルカ軍の「MG-86」を破壊する。
「これで何両目だ?」
「6両目だな。次から次へと湧いて出てきてきりがねぇ」
「航空支援があるだけマシだが気が滅入るぜ」
周囲の敵が掃討されたのを確認して戦車から顔を出すドイツ兵。
すると上空から甲高いジェット機特有の音が聞こえてくる。上空を見上げればアメリカ軍のステルス攻撃機であるA-12が彼らの上空を飛んでいったかと思うと搭載していた対地ミサイルを発射していた。程なくして大きな爆発音が近くから聞こえてくる。
どうやら、敵の拠点が近くにまだあったらしい。
「いつまで続くんだろうなぁ」
「そりゃ、相手が諦めるまでだろ」
「つまり、俺らが向こうの大陸に行かない限り無理ってことか」
戦車長の軍曹はため息を吐きながらハッチを閉める。
同じ中隊の戦車が動き始めたからだ。どうやら、まだまだこの地域には倒されていない敵が大勢いるらしい。彼らの中隊はこの後、さらにもう一つの戦車中隊を壊滅させて交代にやってきたスペイン陸軍の部隊と交代して、この場を離れた。
ギリシャ共和国 テッサロニキ
ベルカ帝国軍 第3装甲軍団
「閣下。現在までの被害報告です」
「ご苦労――第34装甲師団はほぼ壊滅か。先の空爆で空軍の支援も得られなくなったのも痛いな」
第3装甲軍団のトレイゼン中将は前線部隊の被害報告を見て表情を険しくさせる。第3装甲軍団全体でみれば3割がすでに失われている。本国から追加の師団などが到着しているものの、前線はここ数週間まったく動いていない。なんとか、首都であるアテネを確保はしたが、それは連合軍がアテネから撤退しただけで戦って得たわけではない。
「総司令部は海軍の第1艦隊を派遣することを決めたそうです」
「第1艦隊か。確か空母2隻の機動艦隊だったか」
大陸国家であるベルカは陸軍と空軍の増強をメインに行っていたが近年になって大陸外への軍事侵攻を行うために海軍の増強も行われており現在では空母4隻や戦艦2隻などを中心に主力艦艇50隻あまりを保有していた。
第1艦隊はその中でも特に主力とされている艦隊だが、母港はヨーロッパから離れた場所であり、更に近隣の大陸調査を行っていたのでギリシャ侵攻時は不在であった。
「敵は空母6隻居るという話だが大丈夫なのか?」
「空軍が支援に入ればなんとかなる――と、総司令部は考えているようですが」
「正直、私は難しいと思うがね」
未だにベルカは連合軍にどういった国が参加しているのかという情報を掴んではいない。それでも、トレイゼンは連合軍に相当な大国が含まれているのではないか――と考えていた。
彼のこの読みはあたっていた。連合軍の主力はアメリカ欧州軍とドイツ連邦軍そしてフランス軍だ。それ以外にイタリア・スペイン・オランダ・ベルギー・ポーランドなども多くの兵力を供出していたし、多くの国が予備役の動員を行っており、着実に前線投入できる兵力数は増えていた。
更に、ここにきて南米からの義勇軍も到着し、日本やイギリスからも部隊派遣の準備が進められているなど連合軍は徐々にその体制を整えている最中であった。
「まあ、海軍には頑張ってもらうとしよう。高い予算が投入されたのだから」
などというドレイゼンだったが、そこまで海軍に期待していないのは明白であった。
アーク歴4020年 3月14日
オーレトア共和国 レフィアル
大統領官邸
人民解放軍による初の大規模な大陸侵攻となっているダルネシア侵攻。
すでにオーレトア共和国の東部は人民解放軍によって占領されている。
ダルネシア大陸にはオーレトア共和国以外に2つの国が存在しており、いずれもオーレトアとは同盟関係にあるため今回の軍事侵攻においてもオーレトアを支援するために軍を派遣しているが、これまで大きな脅威もなかったことから両国ともにそれほどの軍事に力をいれているわけではなく各国ではこの状況に対応するための徴兵が行われているが状況は極めて厳しいと言わざるを得なかった。
「前線の状況は?」
「極めて厳しいです。東部方面軍は7割壊滅。中部方面軍と西部方面軍が事態の対処にあたっていますが、相手の物量に押され気味です」
「フィスティアやセーヴァルからの援軍は続々と来ているが、やはり難しいか」
「どちらも、我が国よりも国力は小さいですから…」
大統領と国防大臣がそのような会話をしていると突如として大音量の空襲警報がレフィアル中に鳴り響いた。
人民解放軍の爆撃機がレフィアルに接近しているのだ。
「最近は爆撃機が来る頻度も増えているな…」
それによって市民の不安は日増しに高まっており、野党からは北中国への降伏を進言してくる者までいた。このまま戦い続ければ首都まで蹂躙されてしまうと考えた市民も多くこの一週間ほどは市外へ逃れようとする市民は急速に増えていきこの国で一番活気があったレフィアルは不気味なほどに静まり返っていた。
ほどなくして、空襲警報は鳴り止む。どうやら爆撃機は去っていったらしい。
「これも挑発行動なのだろうな…首都近郊の空軍基地の再開はいつになる?」
「徹底的に破壊されていますから、すぐには無理です――恐らく一ヶ月近くかかるかと」
「そうか…」
「仮に復活しても残っている戦闘機は旧式ばかり。優秀なパイロットも多く失っていますので…」
「爆撃機を追い払うのは難しいか」
「残念ながら…」
大統領は考える。確かに野党の言う通り降伏すれば戦闘は終わる。
だが、それは果たしてこの国にとっていいことなのだろうか。
降伏し、講和条約を結んだところで人民解放軍の脅威は常に存在し続ける。とはいえ、このまま戦い続けても自分たちが勝利できるかはわからない。このまま戦闘が続けば食糧事情は大きく悪化するだろう。
(やはり、降伏するしかないのか?)
応えはまだ出ない。




