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 アトラス連邦共和国 ヴェルトース州

 ベラトーサ海軍基地


 首都・ヴェルスなどがあるアトラスの中心といえる島「ヴェルーサ島」の南部に位置するヴェルトース州は、首都である「ヴェルス」に次ぐヴェルーサ島第二の拠点だ。

 ベラトーサ海軍基地はヴェルトース州南西部に位置するアトラス連邦海軍の基地で、同海軍の基地としては最大の大きさを持つ。敷地面積はアメリカのノーフォーク海軍基地の7割ほどの大きさをもち多数の桟橋や造船所などが立ち並んでいる。


 空母「トレイバス」を旗艦とした第1機動艦隊もベラトーサを母港としていた。その第1機動艦隊はフローリアス諸島付近に出現した国籍不明勢力からの攻撃を警戒するためにノーリッポ島近海へと派遣されることが決まり、現在乗員たちが急ピッチで出港の準備を行っていた。

 その様子を遠くから見つめる男がいた。

 日本海軍の軍服に身を包んだ男の名は柏木泰史。

 日本海軍の大佐であり、今月開設したばかりの駐アトラス日本大使館付きの駐在武官だ。

 柏木がこの場に立ち会ったのは偶然だ。

 丁度、この日ベラトーサ海軍基地の視察予定が入っていて来てみればどうも基地内が慌ただしい。案内役の士官に尋ねてみれば「第1機動艦隊が出港する」というだけではないか。アトラスの空母がどんなものか気になったのでダメ元でその様子を見てみたいと言ってみたら「遠くからならいいですよ」と言われてこうして少し離れたところで見物しているわけだ。


(確か…北方で国籍不明の軍艦が出没しているという話だったな。なるほど、その対処のためか)


 この世界は周囲の国の様子も未だにわかっていないのでこの手の出撃は今後も増えるだろう。日本はノルキアは撃退しているが未だに未知の陸地は多く存在していてその対応に頭を抱えている。


(それにしても、空母に巡洋艦に駆逐艦――いずれもステルス性をだいぶ意識した外観をしている)


 アトラスの軍艦はステルス性を意識しているのは極力凹凸がないような設計が施されている。巡洋艦にしても駆逐艦にしても艦橋からヘリ格納庫までが一体的な構造をしており艦橋などの上部構造物も従来よりも背を抑えた設計をしている。こういった設計は地球ではヨーロッパなどでよく見られ、主に沿岸域での活動に有利で働くという。

 日本海軍は沿岸哨戒にあたる艦艇のステルス性は重視しているが、外洋に出る巡洋艦や駆逐艦などのステルス性はそれほど考えてはいない。ただ近年は凹凸をなるべく少なくなるような設計をしているが艦隊司令部機能を充実させるために伝統的に巨大な艦橋をミサイル巡洋艦やミサイル駆逐艦などは持ち諸外国から「日本は未だに80年前の世界にいるらしい」と皮肉られることも多い。

 まあ、それでも日本海軍の戦闘艦は世界水準で見てかなりの高性能艦だ。

 的が大きいと言われてもそれを狙うミサイルを撃ち落とせるだけの防御を固めればいい――それが日本海軍の伝統的な考えであった。


(アトラス軍がどういった戦いをするのか気になるが…まあ、機会があったら観戦武官として見物することはできるだろう)


 トレイバスは遠目から見てもわかるとおりの大型空母だ。

 案内役の士官の話によれば満載排水量は8万トンで約80機の艦載機を搭載することができるという。遠目からみて飛行甲板に航空機の姿はあまり見られないが近くに海軍飛行場があり艦載機はそこにいるという。


「今回の相手は少し厄介かもしれません」

「というと?」

「どうやら相手は我々亜人を認めない勢力のようで…外交交渉はほぼできない相手なんです」

「それはまた…」


 案内の士官は苦笑しながら柏木に「人間主義国家」のことを説明する。


(人種差別――地球でも問題になってはいたが彼らのいた世界の場合それがより苛烈な方向へ進んでいったということか)


 アークは地球よりも平和だったのでは?とも当初は考えたものだがそれはまったくの見当違いだったことを柏木は心のなかで恥じる。結局、どの世界でも似たような問題というのは起きてしまうらしい。世界は違っても人間は人間だということだ。


「さて――我が海軍の一番大きい空母はあの通り出港してしまいましたが、別の空母でよろしければご案内いたしますよ」

「それはありがたい。実はずっと興味があったのですよ」


 士官の申し出に柏木は実にいい笑みを浮かべて頷いた。




 アトラス連邦海軍 第1機動艦隊

 空母「トレイバス」


 アトラス連邦海軍第1機動艦隊。

 同国海軍の主力艦隊の一つであり原子力空母「トレイバス」を旗艦に、ソライス級ミサイル巡洋艦1隻。エミトン級ミサイル駆逐艦3隻。エディース級駆逐艦4隻によって構成されている。

 旗艦である「トレイバス」は満載排水量8万2000トン。全長320m。最大幅74m。約80機の艦載機を最大で搭載することが可能で、3基の電磁式カタパルトを持つ核融合推進の大型空母であった。

 3年前に就役したばかりの新鋭艦でもあり現在2番艦の建造がベラトーサ海軍基地に隣接しているベラトーサ造船所で行われていた。

 トレイバスの名はアトラス連邦の元大統領であるセオドア・トレイバスから名付けられている。


 随伴艦であるソライス級ミサイル巡洋艦は、日本にやってきた「ケーテンバーグ」も属している同国の新型ミサイル巡洋艦で第1機動艦隊にはその内のネームシップである「ソライス」が所属していた。

 艦名はアトラス連邦の都市の名前がつけられている。

 日本などが導入している「イージス戦闘システム」に似た戦闘システムである「エルジス防空システム」を搭載した艦隊防空指揮艦であり、同システムを搭載しているエミトン級ミサイル駆逐艦と共に艦隊防空などを担当している。


 エミトン級ミサイル駆逐艦も「エルジス防空システム」を搭載した防空駆逐艦でありソライス級などのミサイル巡洋艦の補完的な役割を担っている。エミトン級は現在配備が進められている新型艦であり現在までに6隻が就役しそのうちの半数が第1機動艦隊に配備されていた。


 汎用駆逐艦であるエディース級は日本海軍の汎用駆逐艦と同じく艦隊内での対潜哨戒を主任務としている駆逐艦で高い対潜戦闘能力をもっている。「エルジス防空システム」は搭載していないものの国産の多機能レーダーを搭載していることから個艦防空に限られるがその防空能力はエルジスシステム搭載艦と遜色ないと言われている。

 本来ならば、これに潜水艦もつくのだが今回、潜水艦は同行していない。


「提督。ノーリッポ島沖合には2日後の午前中に到着予定です」


 第1機動艦隊司令官ターネル・ブライトス中将に艦隊参謀である少佐がノーリッポ島近海への到着予定日を報告する。


「了解した。航空参謀、艦載機との合流はいつ頃になる」

「あと2時間後に合流予定です」

「国籍不明艦は?」

「ここ数日は姿を見せていないようです」

「補給に戻ったのかもしれないな…監視しているのは海軍だけか?」

「いえ、空軍の早期警戒機がフロアンス島を拠点に哨戒活動を実施しています」


 参謀たちからの報告にブライトス中将はふむふむと何度か頷く。

 ブライトスは海軍参謀長から相手が「人間主義国家ガゼレア」である可能性が高いという報告を受けていた。ブライトスもガゼレアに関して詳しくは知らないが人間主義国家の中で最も警戒すべきなのは5大国の一つであるガリア帝国だ。人間主義国家の中でもガリアだけは他国にくらべて頭数段飛び抜けた軍事力をもっている。


「相手が全く情報のない異世界国家だけではないだけマシではあるか…」

「ですが、大東洋の情報はかなり不足しています。ガゼレアなんて国聞いたこともありませんから。実質的に異世界の国と対峙しているのと似た状況なのでは?」

「…そうだな」


 参謀長の指摘にブライトスは苦笑いを浮かべながら頷いた。


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