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 正暦2025年 2月18日

 日本皇国 東京市新宿区

 国防省


 国防省では現在新たな軍備整備計画の見直しが行われていた。

 これまでは北中国やソ連の軍備拡張に対応した計画にそって装備品の導入や改良などを行っていたのだが、転移によって北中国やソ連といった仮想敵国が日本の近くから消えたことから現在の軍備整備計画は過剰なものになっているのではないか?という声が政府内で上がり始めたからだ。

 野党からは「ソ連も北中国もいないのだから軍縮すべき」という意見が今始まっている通常国会の国防委員会で出されているほどだ。

 ただ、脅威事態はまだ存在しているという声も与党などから聞こえている。

 その声は、ノルキア帝国による樺太への軍事侵攻でより強まった。

 アトラスのように友好的に接触できた国がある一方で、中央アメリカを侵攻しているフィデスや、ヨーロッパに軍事侵攻している国のように好戦的な覇権主義国家も存在していることを考えると安易な軍縮を判断するのは時期尚早というのが与党議員たちの主張だ。


 世論もまた、安易な軍縮はすべきではないという声が多い。

 一方で、左派系を中心に大規模な軍縮を訴える声は多い。

 膨大な軍事費を国民の生活にまわすべき――という声は以前から左派を中心に出されていたのだが、今回の件でよりその声を強く出し始めた。

 マスコミなどもそういった意見に賛同しているのか頻繁に報じるようになったが。現実問題すぐに軍縮――という結論には国防省の中ではなっていなかった。


「転移して中ソが消えたといっても殆ど現状維持だな」

「まあ、陸軍のデカブツはいらなくなったがそれ以外をへらす理由はない。芦原島の防衛のために増員は必要だな。警備すべき領海・領土・領空が広がってしまったから海軍艦艇や戦闘機は更に増強しなければならんな」

「流石に艦隊を一つ増やすことはしなくてよさそうだが――ところで、重巡まで建造するのか?」


 重巡というのは他国海軍でいえば「巡洋戦艦」ともいえる大型水上戦闘艦で、日本海軍では1970年代に引退する戦艦の代わりと言うかたちで4隻が配備されていた。それでも戦艦すべての更新はしておらず、初代大和型が70年以上も現役で運用されていた。

 その、初代大和型も数年ほど前に新しく建造された「現代の戦艦」である二代目大和型戦艦によって更新されて現在は記念艦として第二の人生を歩んでいる。

 そして、1970年代に建造された長門型も老朽化が進んできたことからその代替艦として海軍の要求に「新型重巡洋艦建造」が記載されていた。


「長門型の更新用だ。戦艦を新たに一隻作るよりは安上がりだな。それと金剛型の更新も赤城型の改良型にすることで問題ないだろう。軽空母も増やす必要性が出てきたな」

「確かに安上がりだろうが。翔鶴型の5番艦を建造するなら重巡は明らかに予算オーバーだぞ?今回は見送ったほうがいいんじゃないか。それに水上戦闘艦ならレールガンを搭載した赤城型などでも十分に代替可能だろう」

「たしかにな…それか、大和型の追加建造か」

「それはまた色々と嵐が吹き荒れるだろうから。現状は2隻退役させて、後期建造2隻を改修していくでいいのでは?」

「仕方がないか」


 海軍は結局、新型重巡洋艦計画を諦めることにした。

 実は海軍内部にも「流石にこれは認められないだろう」という声があったのだが載せておけばもしかしたら通るかもしれないという淡い期待を込めて掲載されていたのが重巡計画である。

 海軍内にはまだ大艦巨砲を熱心に推進している勢力がいるのだが、その勢力も大和型建造で満足していたりするので今回の新型重巡除外でもなにか言ってくることはないだろう。


「領土が増えたから新規に空軍基地を作る必要性も出てきたし79式(FJ-5)の退役は更に伸びそうだな。レーダーサイトの新設もしなければならん」

「一番影響が出るのはやはり海兵隊だな。増員はどうにかなるが装備はどうする?」

「陸軍で余剰となった装備の一部を海兵隊にまわすしかないな。ヘリコプターに関しては追加調達するしかないし、海軍の揚陸艦や輸送艦の数も増やさないといけない」


 あれこれ検討した結果は領土が増えたこともあり当初の予定よりも要求予算は増額してしまった。特に新規に獲得した島々への基地新設などに多くの予算がかかることになったのは致し方ないであろう。

 それ以外の部分を見れば概ね「現状維持」という形に落ち着いた。

 陸軍の新型戦車である20式は対抗相手であるソ連が消えたこともあり調達数を削減し代わりに10式戦車を追加整備することで戦車の定数を満たす方向となった。

 更に芦原島という九州並の大きさの島を領有することになったことからその防衛のために陸軍の兵力を1万人ほど増員することになった。それ以外に関しては既存の計画から変更点はない。


 海軍と空軍は純粋に領土が広がったため艦艇数と戦闘機定数を更に拡大化することとなった。なお、更新される駆逐艦やフリゲート、コルベットの一部は購入を希望しているフィリピン、インドネシアなどの国々に供与されることがすでに閣議決定で決まっていた。


 最も変化が大きかったのは海兵隊だ。中小の島が増えたことから中小島嶼防衛を担当する海兵隊の戦力が最も増強されることとなった。具体的には兵員を1万人増員することになったのだ。ただこれは人口2.2億人という他国や現実日本に比べて圧倒的に豊富な人的資源を抱えていることから増員に関しては大きな問題にはならなかった。装備に関しては一部は陸軍の余剰品で対応出来るがヘリコプターなどは増強整備することとなった。


「財務省は黙って通してくれるのかね」

「まあ、今回は緊急時だし多少は見逃してくれるだろ」


 当初計画されていたものより要求額がやや増額したがこれでも想定の範囲内にまとまったから財務省も許してくれるだろう、と官僚たちは思うことにした。



 正暦2025年2月21日

 日本皇国 東京市千代田区

 総理官邸


 総理執務室にはこの日。五島国防大臣が新たな国防整備計画を書類をもって訪れていた。


「ずいぶん早くないですか?」

「元々立案されたものをこの世界用に手直ししたものですし、これは簡易版ですから」


 下岡の問いかけに五島はしれっと答えるが資料をまとめた国防省の官僚たちは疲れ切った顔で眠りこけている程度に激務であった。下岡もそれ以上突っ込んだことは言わずに資料を読み進めていく。


「目玉は翔鶴型の追加建造ですか」

「中ソは遠くにいきましたが、今度は星が広大化しましたから。空母のさらなる整備は仕方ありません」


 最も巨額の予算が使われるのは基準排水量でさえ10万トンを超える翔鶴型航空母艦だ。空母としては世界最大級であるが推進が従来の原子炉ではなく核融合炉が搭載されている点が他の原子力空母と異なる点だ。

 推進と艦内電力すべてを核融合炉で発電された電力でもって行うという統合電気推進を採用しておりカタパルトも世間一般で電磁式と呼ばれるリニアカタパルト式を設置している。現在までに4隻が就役していて2隻が建造中だが今回の整備計画で7番艦の建造が盛り込まれた。

 1隻あたり1兆円程度費やされることになっているので中ソという仮想敵国がいなくなった時点での建造には内外から様々な反発を受けそうだな、と資料を見ながら下岡は思った。

 ただ、無駄に広くなったこの星で未だにどの大陸が安全かというものがわかっていない現時点での段階ではむしろほぼ無限の航続距離を持つ原子力空母などを多数整備するのは悪くはない案ではあった。


「転移に伴う追加項目は護衛艦、海防艦、哨戒艦や揚陸艦の増備と海兵隊の増員。空軍戦闘機定数の増加と新規レーダーサイト設置ですか・・・」


 結局。中ソが消えても国防予算は現状維持かむしろ広大化した領土によって増額してしまっている。因みに地球時代の国防予算はGDP比で2.5%程度を行き来している。現実日本が1%をうろちょろしているのを見ると国防予算は潤沢であるし、そもそも現実日本以上の経済力を持っているのでその額事態も桁が違うのだがそれでも空母などを多数配備している関係上国防予算は常にカツカツで財務省とはいつも鞘当をしていた。今回は緊急事態ということで財務省は求められた予算をある程度認める方針であった。

 なお、国防大綱は中期国防計画が正式に決まったときに提出されることになっているがこちらも基本的に大半が現状維持かむしろ部隊増強という形になりそうであった。


「仮想敵国が消えたから軍縮できると思っていた方々にとっては残念な結果になりそうですね」

「そんなすぐに軍縮なんてしたら国が滅びますよ」


 現実世界では冷戦終結と同時に大規模な軍縮を施した国があったがその中の一つのドイツでは急激に軍縮したせいで現役装備品のメンテナンスさえままならず軍として機能不全に陥っているなどという話も出ているように急激な軍縮は後の世に大きな影響を及ぼす。その時平和だからといって急激に軍縮をすれば後の時代に対応できないのである。


 こちらの世界ではそもそも冷戦が終わっていないので急激な軍縮を行う国はなかったがそれでもメンテナンスなどに問題を抱えている国は主に途上国を中心に多く、一部の先進国でもその問題で満足に活動できないというところもあった。


「まあ、とりあえず特に私から言うことはありません。この通り進めてください」

「わかりました」


 後に提出される中期国防整備計画と国防大綱では一部で軍縮を叫ぶ市民団体や野党から「軍国主義の第一歩」などと反発を受けたが、ノルキア帝国による樺太攻撃が記憶に新しいことや中央アメリカやヨーロッパのこともあるので世論の大半はむしろ「もっと増やすべきでは?」という声が出る程度に今回の国防計画に対しての反発はなかった。



 正暦2025年 2月21日

 日本皇国 神奈川県横須賀市

 横須賀海軍基地



 神奈川県横須賀市。

 三浦半島の北部に位置する人口45万人の港湾都市。

 神奈川県の中では川崎・相模原に次ぐ第三位の人口を抱える(横浜市は特別市として県から独立している)

 横須賀市は日本を代表する海軍の町だ。

 日本最大規模の軍港である横須賀海軍基地が置かれており、住民の2割ほどは軍関係者が占められている。市内には海軍大学校や、陸軍駐屯地もおかれており「軍港めぐり」は国内外の観光客から人気の観光スポットになっている。


「…これが『大和』か」


 横須賀海軍基地に停泊している数多くの軍艦の中で一際目立つ艦を見上げるエルフがいた。

 ケンリー・ジャクソン。

 アトラス海軍の大佐で一ヶ月前に設立されたアトラス大使館に派遣された駐在武官だ。

 彼が見上げている艦の名前は「大和」

 日本海軍で運用している唯一の戦艦だ(長門型は日本海軍ではあくまで「大型巡洋艦」の扱い)

 大和の就役は2024年――つまり去年配備されたばかりの新造艦だ。

 現在は同型艦である「武蔵」の建造も進められている。

 元々、大和は2010年まで60年以上運用されていた初代大和型戦艦の後継として計画されていた戦艦であった。ただ、アークでもそうだが現代の地球においても戦艦は時代遅れであり、なおかつ周辺諸国との関係を考える戦艦を堂々と建造できるような情勢ではなかった。

 そこで、海軍は徹底的に情報を封じ込めた上で秘密裏に「大和」を建造されたのだ。


(しかし、よくこれだけの巨艦の建造が露呈しなかったな)


 ジャクソンはついつい感心してしまう。

 今くらい時代だったらすぐに世間に露呈してしまうだろう。

 それだけ、軍内部でも徹底的に隠し通した――そういうことだろう。

 さて、この新型大和は機関に核融合炉を採用している。

 大型空母「翔鶴」にも搭載されているものであり、従来の原子力推進に比べるとより小型により高出力のエネルギーを得ることができる。それによって大和は主砲に「レールガン」を搭載することが出来た。

 レールガンはかなりの電力を必要とするのだが核融合発電によってその膨大な電力を十分に賄う事ができるという。


「あ、あんなのが我が国に来ていたら…終わっていた」

(あれは――確かノルキア帝国の海軍士官か。なるほど、自国が戦った国の調査にきたわけだが。すっかりと怯えているではないか)


 隣で震えている他国の海軍士官を見てジャクソンは少し同情する。

 上陸した土地がここまでの兵力を揃える大国だと知れば誰もが絶望するだろう。まあ、一番はそもそも軍事侵攻なんて企てずに自分たちのように友好的な接触をすれば状況は変わっただろう。この部分は同情はできない。


(そういえば我が国近海にも国籍不明艦が出現しているという話があったな…)


 場所は転移前フィデスと抗争の場所となっていたフローリアス諸島。

 しかも、その不明艦は「ガリア帝国の艦艇によく似ている」という報告まであった。日本に赴任した後も本国から情報を聞いているがどうやら「ガリア帝国と関係の深い国」である可能性が高いという。

 人間至上主義国家は厄介だ。まず、亜人と話をしようとしないし、仮に話し合いの場を設けても全く話が通じない。そもそも、エルフなどを「人間」として見ていない「奴隷」としか見ていないのだから話が通じないのはその通りなのかもしれない。亜人を自分たちと同等の存在と見ていないのだから。


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