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 正暦2025年 2月13日

 ギリシャ共和国 北部



「まだまだ多いですね…」

「ほとんどの国民が逃げてるんだ。避難に時間はかかるのは仕方ないさ」


 アメリカ欧州軍第1機甲師団第1機甲旅団第70機甲連隊に所属するM370戦車の中隊は駐屯先のポーランドから陸路でギリシャの前線へ向かう途中だ。道中にはギリシャから着の身着のまま逃げてきたと思われる避難民の姿を多く見た。

 すでにギリシャの国土の大部分が占領されており隣国であるブルガリアもベルカ軍による侵攻を受けていた。連合軍は部隊を二つにわけてベルカ軍からの侵攻を食い止めようとしていた。


 彼らの乗るM370戦車はM1戦車の後継として5年前からアメリカ軍で配備が始められており対ソビエトの機甲部隊と対峙する欧州陸軍には真っ先に配備が行われていた。

 M370の特徴は砲塔の無人化と自動装填装置の採用だ。

 またガスタービンエンジンを搭載したことで燃費が悪いM1の欠点を改善させるためにハイブリッドシステムを採用した。これによって燃費は大幅に改善されておりより長く作戦に従事することができた。

 これらは、ソ連軍の新型戦車に対応することを目的に開発された。

 一部は日本から供与されたものもあり、日本の10式戦車や20式戦車との共通点もある。特に射撃制御装置などのものは日本で採用されたものが若干の手直しをされる形でそのまま採用されていた。


「敵戦車は結構固いみたいですけれど、大丈夫ですかね」

「先遣隊が何両もやっているからこいつの主砲なら問題ないだろう。まだこちらの戦車の被害はあまりないからな」


 あるとすれば古いソ連製の戦車を使っている東欧諸国の戦車が若干の損害を受けている程度だろう。まあ、近代化改修もあまりしていないT-72やT-80クラスだと第3世代相当の戦車を相手にするのは難しいらしい。

 それでも、ドイツやフランスにイタリアの主力戦車は十分な戦果を残している。

 ただし…。


「厄介なのは数の多さだな…倒しても倒しても次々に戦車や兵士が出てくるという話だ」

「まるで昔のソ連みたいですね」


 今のソ連は兵器の近代化に伴って兵力を減らしているが、20年前までは陸軍だけでも西部方面に250万人。極東に60万人ほどを常駐させていた。さらに総動員を行えば数千万人規模の兵力を用意できると言われ、西側諸国を恐怖させた。同様のことは北中国でも行っていた。

 だが、兵器の進化と共に兵士たちに相応の教育をする必要が出てきて現在ではその数を減らし、職業軍人化を進めているという。最も、それでも陸軍だけで常時150万人ほどを用意しているので数の上では現在でも十分に脅威になっていた。


「そのソ連も今はどこかの大陸を攻めているらしいな」

「本当に物騒な世界ですねぇ…」

「前のように睨み合っているのとどっちがマシなのかね」

「地球も地球で世界大戦を二度起こしていますからね…しかも、我が国はソ連とずっと睨み合いです」

「動けば世界大戦になるのがわかっているから動けない――『偽りの平和』とはまさにそのとおりだな」


 今はその「偽りの平和」ですらないが。



 

 

 旧地中海


 イタリア沖の旧地中海にはアメリカ・フランス・イタリア・スペイン・ブラジル・アルゼンチンの6カ国による空母機動艦隊が展開していた。この機動艦隊は主に、ベルカ軍に対する攻撃や制空支援を空軍と共に行っていた。


 6カ国艦隊の簡単な編成は以下の通りだ。


・アメリカ海軍 第4空母打撃群

空母「サラトガ」

ミサイル巡洋艦1、ミサイル駆逐艦4


・フランス海軍 地中海艦隊空母打撃群

空母「フォッシュ」

ミサイル駆逐艦1隻、フリゲート艦4隻、原子力潜水艦1隻


・イタリア海軍 第1機動部隊

空母「ローマ」

駆逐艦1隻、フリゲート艦2隻


・スペイン海軍 第1戦隊

軽空母「アラゴン」

フリゲート艦2隻


・ブラジル海軍 機動部隊

空母「サンパウロ」

フリゲート艦2隻


・アルゼンチン海軍 第1艦隊

空母「ブエノスアイレス」

フリゲート艦2隻


 このうち、ブラジル海軍の空母「サンパウロ」は元日本海軍の空母「蒼鷹」でアルゼンチン海軍の空母「ブエノスアイレス」は元イギリス空軍の空母「イーグル」をそれぞれ中古で買い取って就役させている。

 アメリカ海軍の「サラトガ」はヨークタウン級空母の3番艦で当初から地中海を拠点にしているアメリカ海軍第6艦隊に配備されていた空母であった。アメリカは更にもう一隻「ワスプ」をヨーロッパに派遣しているが到着はまだ先になる。


 フランス海軍はヨーロッパで唯一原子力空母を保有しており、今回地中海のトゥーロンを母港にしている「フォッシュ」が派遣されていた。

「フォッシュ」は「リシュリュー級」の2番艦であり満載排水量5万トンの中型空母ながら海外領土への任務なども考えて原子力推進を採用した。アングルドデッキと蒸気カタパルトを持ち、最大で50機の艦載機を搭載することが可能でラファールM艦上戦闘機を30機ほど搭載している。


 イタリア海軍の空母「ローマ」はローマ級航空母艦のネームシップだ。

 同艦はイギリスの中型空母「アークロイヤル級」をベースにして建造された準同型艦であり満載排水量6万トンと、原子力空母「フォッシュ」よりも満載排水量では上回っている。また「アークロイヤル級」の特徴というダブル艦橋が外観上の特徴だ。

 艦載機はF-35Cを30機。早期警戒機のE-2Dを2機など運用している。


 スペイン海軍の軽空母「アラゴン」はスペイン独自設計の軽空母で強襲揚陸艦としても運用可能で実際にウェルドックが艦尾に設置されており中型空母を運用するのが難しいトルコなどで準同型艦が運用されていた。

 満載排水量3.5万トンほどで艦首にはSTOVL機を円滑に運用するためにスキージャンプ勾配がついている。また、揚陸艦も兼ねているため他の空母に比べると非常に背が高くなっている。今回は空母として運用するためF-35Bを14機とヘリコプターを4機の合計18機の艦載機を搭載していた。


 そして前述の通りブラジルの空母「サンパウロ」は日本海軍が2001年まで運用していた通常動力空母「蒼鷹」を中古で購入した空母だ。

 満載排水量5.2万トンで3基の蒸気カタパルトを設置している。

 日本では1967年から運用されておりすでに就役から60年以上経っているのだが近代化改修されて引き渡されたこともあり現在も運用を続けている。ただ、さすがに老朽化が目立ってきているためアークロイヤル級の準同型艦の導入などを検討している。

 艦載機は日本が開発したFJ-5B艦上戦闘攻撃機を24機とスウェーデン製のグリペンの艦上機型を14機ほど運用していた。


 アルゼンチンの空母「ブエノスアイレス」はイギリスの空母「イーグル」を購入した。「イーグル」は1970年代にイギリス海軍に配備された中型空母で当時はイギリス海軍最大の空母であった。アークロイヤル級導入に伴い引退し、アルゼンチンが購入した。こちらも、アルゼンチン海軍へ引き渡される前にイギリスによって大規模な近代化改修が施されているが、やはり老朽化が目立っており更新が検討されていた。

 艦載機はフランスのラファールMを26機運用している。


 6カ国艦隊の指揮はアメリカ第6艦隊の司令官が務め、副司令官はフランス海軍地中艦隊司令官がそれぞれ務めており両名ともにイタリアのガエータ海軍基地で指揮をとっていた。



 アメリカ海軍 第4空母打撃群 空母「サラトガ」


「こりゃまた随分と巨大な基地だな…」

「大量の攻撃機が飛んでくるわけです。この物量――ソ連以上かもしれませんね」


 第4空母打撃群司令のマクレーン少将と「サラトガ」艦長のバティスタ大佐はモニターに映し出されていた敵の軍事基地の画像を見て少し圧倒されていた。この画像は、無事だったフランスの偵察衛星によって撮影されたベルカ帝国西部の軍事施設だ。

 中でも彼らが思わず呆れたような声をだしたのは、巨大な空軍基地を撮影したものだ。2つの3000m級の滑走路を持ち数百機と思われる戦闘機や爆撃機が駐機されている。

 しかも、このような基地は一つだけではなく。

 国にいくつも存在しているのだ。

 攻撃してもキリがない――そう彼らが思うのも無理はなかった。


「まあ、ともかく――今日の目標はこの基地だな」

「はい」


 潰したところで意味はないだろうが一つずつ潰していけばいずれは敵も球切れになる――そのことを期待しての攻撃になる。

 ちなみに作戦名は「希望の夜明け」――実にアメリカ軍らしいネーミングといえるだろう。


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