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 同じ頃。フィデス第1艦隊からも艦載機の発艦が行われていた。

 発艦しているのは「Rn-26艦上戦闘機」

 ルーシア連邦で開発された艦上戦闘機であり、フィデスでライセンス生産したものだ。その外観はMig-29によく似ていた。違いと言えばMig-29より少しばかり小型でありデルタ翼を採用しているところだろうか。


「第一次攻撃隊。発艦完了しました」

「ご苦労。先手をとっていればいいのだがな」

「問題ありません。このためにしっかりと訓練に励んできたのですから」

「…そうだな」


 元々アトラスの機動艦隊に対抗するために作られた空母だ。

 相手が超巨大空母ということでロッペルは少々弱気になっていた。

 彼らの世界において「超大型空母」を運用しているのは5大国と海洋大国として知られるアトラスなど僅かな国だ。ほとんどの国は多額の運用コストがかかる超大型空母を配備することはできない。それは、フィデスも同じ。

 今回の敵はその「超大型空母」を運用できる国だ。

 自分たちはもしかしたらとんでもない相手とこれから戦おうとしているのでは?と考えてしまっていた。

 そんな不安にかられる司令官を参謀長は冷ややかな視線で見つめる。


(アトラスに囚われている愚かな老害たちがいるかぎりフィデスはやはりよくならんな)


 若手将校の中には総統に心酔している者が若干名いる。

 参謀長もその一人だ。総統の期待に応えられない軍上層部は老害の集まりだと彼らは内心嫌っていた。


(何が大型空母だ。飽和攻撃さえしてしまえばそんなのはすぐに鉄くずになるというのに)


 艦隊に配備されている護衛艦はいずれも新型艦。

 しかも、ルーシアから供与された新型ミサイルもある。

 更に、潜水艦による雷撃を使えば問題はないのだ。

 だが――


「参謀長」

「どうした――なんだと!?」


 副官から伝えられたのは敵艦隊を偵察していた潜水艦がすべてロストしたという報告だった。

 声を抑えなかったので当然このことはロッペルに気づかれる。


「どうかしたのかね。参謀長」

「い、いえ…哨戒行動中の潜水艦との通信が途絶したという方向がたった今」

「なに!?」


 今回の潜水艦の件は参謀長が独断で行っていたことだったので「哨戒活動中」と事実を伏せた状態でロッペルに伝えた。当然ながらロッペルは驚愕した。


「敵の攻撃を受けたのかね?」

「…現在の所は不明ですが。何らかの事故に巻き込まれたのかと」

「――そうだといいがね」


 今度はロッペルが参謀長に冷たい視線を向けた。


(こいつ。私に伝えずに勝手な行動をとったな…潜水艦の運用は慎重に行うべしと海軍参謀部から通達があったというのに)


 さすがのフィデスも海底状況がわからない段階での潜水艦運用には慎重であった。しかし、参謀長たち一部はそれを無視して一部の潜水艦にニセの情報を伝えていたのだ。

 参謀長がロッペルを内心見下していたのは彼も知っていた。

 だが、参謀長として有能だったことから見て見ぬふりしていた。

 それも、そろそろ考え直すべきかもしれない。

 などと考えていると。


「こ、高速飛翔体。急速接近中!」


 レーダー員からの報告に戦闘指揮所にいた全員が一瞬固まった。

 


 第1艦隊 駆逐艦「カレージス」


「対空戦用意!すぐに撃ち落とせ」


 ミサイルの接近に最初に気づいたのは駆逐艦「カレージス」だった。

 これは、カレージスが空母などよりも前に出ていたことと見張りの水兵の目が良かったためだ。

 カレージスは空母配備に伴い建造された新型の防空駆逐艦だ。

 カレージスにはフェイズドアレイレーダーが搭載されている。ルーシア連邦で開発されたものをフィデスが改良を加えたもので同国で最初に導入されたフェイズドアレイレーダーだ。探知距離は600km以上で最大で10個ほどの目標を同時に攻撃できるという。

 防空兵装は射程150kmを超える「ファラット」

 そして射程40kmで国産の「ラシット」という二種類の防空ミサイルを搭載しており、30mmCIWSや主砲の65口径130mm速射砲も対空砲としてレーダーに連動して運用できるように設計されていた。

 VLSから続けざまに「ファラット」と「ラシット」が発射される。

 しかし、アメリカ軍が発射した対艦ミサイルは新型だ。

 誘導装置にAIを搭載しており迎撃ミサイルを探知すると機動をずらしてミサイルから回避行動をとるのだ。

 更にミサイルが接近したことから自動発射モードになっていたCIWSが作動する。これによって一発のミサイルを撃墜することはできたが、反撃はそれまでだった。1発のミサイルがカレージスの左舷に命中した。このミサイルの炸薬は駆逐艦なら一発で行動不能に、空母でも2発当たれば致命傷を与えるものだった。


「被害報告!」

「左舷に被弾!浸水止まりません!」


 報告に艦長は思いっきり舌打ちをする。このままでは長くは持たないと判断した艦長は総員退艦を指示した。


 そして、ミサイルは空母「スフィール」にも接近していた。




「対空戦闘急げ!」


 戦闘指揮所では艦長の指示が飛ぶ。

「スフィール」の防空兵装は「ラシット」とCIWSのみだ。

 本来は76mm砲などの搭載も予定されていたのだが予算の都合で見送られた。まあ、仮に76mm砲を搭載していたとしても今回の事態に対応できたかは微妙なところだが。


 すでに護衛の駆逐艦やフリゲート艦の多くはミサイルに対応出来ずに行動不能に陥っている。そして、一発のミサイルが激しい弾幕をくぐり抜けて右側面に命中した。大きな衝撃にロッペルたちは大きくよろめく。


「被害報告!」

「右舷に被弾!」

「格納庫にて火災発生!現在消火作業中」


 ミサイルの爆発で航空燃料に引火。格納庫内で大規模な火災が発生した。


「司令!」

「――ああ、艦長任せた」

「総員退艦!」


 艦長以下、乗員の大半はなんとか脱出することができた。

 その中にはロッペル中将や参謀長の姿もあったという。

 今回のアメリカ海軍の攻撃によってフィデス人民海軍第1艦隊は壊滅した。

 残ったのは2隻の駆逐艦のみだったという。





 母艦が攻撃を受けているとも知らずにRn-26艦上戦闘機10機はアメリカの機動艦隊を攻撃するために北へ向かっていた。


「アトラスの連中にお披露目できなかったが、異世界の連中に我々の強大さを見せつけるチャンスだ。全員心していけ!」


 指揮官である少佐が呼びかけると無線から男たちの雄叫びのような声が聞こえてきた。あまりの声量に鼓舞した側の少佐が思わず顔をしかめるくらいだ。だが、部下たちの士気が旺盛であることに少佐は密かに安堵した。

 少佐は元々空軍のパイロットだったが、海軍に戦闘機部隊が新編されるために移籍してきた。仲間からは「左遷」だと気の毒がられたが当人はむしろ新しい航空部隊に配属されたことにワクワクとしたものだ。

 ただ、狭い空母からの発艦は予想以上に気を使うものだったがアトラスを撃破するためだと考えれば頑張れば。空母がもう一隻揃えばアトラスへの反撃を行うと言われていた矢先に起きたのが異世界転移だった。

 そして見つけた未知の大陸。政府はすぐに軍事侵攻を決め、少佐もパナマシティの空爆などに参加している。ただ、相手は小国のようでたいした反撃はしてこなかった。嫌がらせのようなゲリラ戦はやっているようだが少なくとも海の上では反撃を受けることはなかった。

 今回はようやく歯ごたえのありそうな敵が出てきた、と少佐は笑みを浮かべる。


「こちら攻撃隊。まもなく攻撃ポイントに到着する」


 母艦に無線にて呼びかけるが応答はない。

 何度か呼びかけるがやはり反応はない。

 少佐は無線の故障かと思ったが、部下たちからの無線はしっかりと届いている。


「まさか…『スフィール』がやられた?」


 少佐の直感は当たっていた。このときすでに「スフィール」は沈没していた。


「このまま作戦を終えても母艦がなければ…」


 一応フィデス軍が確保している空港がニカラグアやコスタリカなどにあった。そこに降りることができれば機体は無事だ。しかし、空母を失った自分たちの居場所はないだろう。


「ならば一矢報いるしか無い」


 少佐はそう決断するが彼らにも襲撃はきていた。


『隊長。ミサイルです!』

「――!」


 少佐はとっさに回避行動をとろうとしたが間に合わなかった。

 Rn-26の編隊は突然出現した対空ミサイルの前に隊長機を含む7機が撃墜され、残った3機は作戦を中止しコスタリカの空港へ着陸した。


 フィデス人民海軍は唯一の空母を失うことになり、これ以後この海域での活動は潜水艦など限定したものとなった。また、新規に建造した戦闘艦の大半も姿を消したことから水上艦は基地とその周辺のみの哨戒活動以外しなくなりこの海域の制海権はアメリカ海軍が握ることとなった。



 アメリカ海軍 第7空母打撃群 空母「レンジャー」


「敵艦隊の壊滅を確認しました」

「ご苦労さま。新型兵器は現代艦相手にも良好な結果を残したみたいね」

「そのようですね。上の連中も喜ぶことでしょう」

「ただ、日本相手に通用するのかしらね?」

「それは・・・」


 ホンジョウ司令の本気とも冗談ともつかない口調で放たれた言葉に参謀はなんと返していいのかわからず口を噤む。

 無論、彼女の言っていることは冗談で本気で日本海軍相手に撃ってやろうとは思ってはいない。ただ、気になっただけだ。今回の相手はアトラスからの情報を参考にすれば近年急速に海軍戦力を増強した北中国のような国家だ。北中国に比べれば規模は小さいがそれでもイージス・システムに匹敵する防空システムを搭載した艦艇や中型空母も保有していた。


 彼女が想定したのは日本との戦いではない。

 日本やアメリカ並の海軍力をもった国との戦闘ではどうなるかを彼女は考えていたのだ。そのことを説明された参謀はようやく彼女の考えていたことの意図を察した。


「つまり、海軍強国との戦いで今回の新兵装は効力を発揮できるかということですか」

「そういうこと。まだこの星の全容は把握できていないけれど少なくとも3つ以上の世界が混ざり込んでいる。今のところ地球と技術レベルが近いのはアトラスやフィデスがいた『アーク』と呼ばれる世界。その世界の超大国がもしアメリカの近くに存在しこれからの関係が悪化して戦争になった時。はたしてアメリカの今持っている軍事力で戦えるのか。私が気になっているのはその部分よ」

「…なるほど」

「ま、いくら考えてもわからないのだけれどね。今度、日本やアトラスにイギリスとかが参加する軍事演習があるらしいから。そこでシミュレーションはできるかもしれないけれど。私たちは当分ここにいることになるから直接参加できないのは残念ね」


 彼女のような考え方を持つ者はペンタゴンの中にもいた。

 そして、彼らはコンピュータ上であるが今後様々な事態を想定したシミュレーションを行う予定だった。彼女がそのことを知るのはだいぶ経った時であるが、シミュレーション結果を国防総省の知り合いに頼み込んで見せてもらう程度にはこのことを気にし続けたという。


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