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 正暦2025年 2月11日

 メキシコ沖

 アメリカ海軍 太平洋艦隊 第7空母打撃群

 原子力空母「レンジャー」



 原子力空母「レンジャー」を旗艦とした第7空母打撃群は三日前に母港であるサンディエゴを出港し、現在はメキシコ沖の太平洋を南下していた。

 第7空母打撃群は、


ヨークタウン級航空母艦「レンジャー」

ミサイル巡洋艦「ボストン」「クリーブランド」

ミサイル駆逐艦「R・スミス」「D・スチュアート」「N・ウィルソン」「S・ロバーツ」

補給艦2隻


 によって、構成されている。

 本来ならば原子力潜水艦も少し離れた位置で艦隊に同行していた。

 まだ、この海域の海底状況は確認されていないことから潜水艦は本来よりも浅い位置で潜航している。

 旗艦である「レンジャー」はヨークタウン級の8番艦。

 満載排水量10万トンを超える超大型空母であり、約80機の戦闘機とヘリコプターなどを搭載している。

 護衛のミサイル巡洋艦、ミサイル駆逐艦はいずれもイージス・システムを搭載しているイージス艦であり高い防空能力と汎用戦闘力を持つ。

 第7空母打撃群司令は日系3世のアンジェラ・ホンジョウ少将。

 東洋系の顔立ちと黒髪を持った美女で流暢に日本語を話すこともできる。一時期、日本の海軍大学校に留学した経験もあるなど比較的日本と交流の深い女性提督だ。


「敵地上施設への攻撃は無事に成功したようです」

「敵の独裁者はさぞかしご立腹でしょうね」


 いい気味だわ、といって笑うホンジョウ。

 実際、彼女の言う通りフィデスの最高指導者であるグリーンベルは怒り狂い情報機関に情報収集を指示していた。今回の作戦は相手の中枢に揺さぶりをかけるという思惑もあったのでフィデスの総統はその通りに動いてくれたことになる。


「あとは、パナマ沖合にいる機動艦隊を排除すればいいわね。例の艦隊の位置は?」

「コスタリカの沖合まで来ているようです。恐らく向こうもこちらの存在には気づいているかと」

「さすがに空爆とかしていれば気づくか…この資料によると敵空母はカタパルトを搭載していない中型タイプ…ソビエトのアクーラや北中国の遼寧みたいな感じなのかしらね」


 この手のタイプは発艦にスキージャンプ勾配を使う。

 そのため、艦載機の燃料や兵装などに制限が加えられる。ただ、カタパルト製造はそれなりに難しいものがある。だからこそ軽空母はもちろんのこと中型空母の中にもF-35BのようなSTOVL機を艦載機にするケースも地球の中では多い。

 今回の、フィデスの空母はアトラスの資料によるとSTOVL機ではなく一般的な艦上機を搭載しているのでやはりこの部分もソビエトや北中国など東側陣営の初期に建造された空母に似ていた。


「…先に仕掛けようかしらね」


 相手はもはや敵対国なのだから問題ないでしょう――と、半ば正当化するように呟きながらホンジョウ少将は艦載機発艦を準備するように指示した。



 フィデス人民海軍 第1艦隊

 空母「スフィーズ」


 アメリカ艦隊から離れたコスタリカの沖合にフィデス唯一の空母機動艦隊である第1艦隊がいた。


 空母1隻、巡洋艦2隻、駆逐艦3隻、フリゲート艦5隻、補給艦2隻によって構成されたフィデス第1艦隊。艦隊旗艦の「スフィーズ」はフィデスで最初に建造された空母だ。

 フィデスの友好国であるルーシア連邦共和国による技術供与によって建造されたため外見などはルーシア海軍の空母によく似ていた。ちなみにルーシア軍の装備はソビエト連邦の装備に似ていたので必然的にその外観は地球でいうところの東側陣営の空母に似たものになっている。

 満載排水量6万トンの中型空母で、約40機の戦闘機やヘリコプターを搭載可能だ。カタパルトは設置されておらず艦首部分にスキージャンプ勾配がありこれによって艦載機は発艦する。ただ、燃料や兵装などに制限があり更に早期警戒機を搭載出来ないというデメリットもあった。

 ルーシアはカタパルトを運用しているがその技術がフィデスに提供されることはなかった。


 第1艦隊司令のルイス・ロッペル中将は本国から送られてきた「我が国の邪魔をする連中を血祭りにあげろ」といった指示書を見て渋い顔になっていた。


「総統閣下はかなりお怒りらしいな」


 それだけ自国の一部が攻撃を受けたのが我慢ならなかった――ということだろう。


「しかし、我が国の本土は強固な防空システムがありアトラスですら我が国の本土には攻撃をしかけなかった…相手は一体何者なんだ?」


 実際にはアトラスもフィデス本土を攻撃することは可能だったのだが、アトラス政府が「そんなことをすればあの総統がより面倒なことになる」と判断して攻撃しなかっただけだ。さらにいえば巡航ミサイルを使ってフィデスの軍事施設を攻撃したことは過去に何度かあったのだがフィデスはアトラスから攻撃を受けた――とは考えていなかったようである。

 実際、フィデスの防空網はかなりとしっかりしている。

 しかし、穴がないわけではない。アトラスはその防空網の穴をつくかたちで攻撃を仕掛けたしアメリカの場合はそもそもフィデスが強固な防空網を敷いていようが関係なかった。目標が国土奥深くにある施設ではなく海岸付近にあった軍事基地だったのも大きい。


「陸軍の連中も苦労しているようですしね」

「そのようだな。あれほど嫌っていた我々にも協力要請をするくらいだ。前線はだいぶ苦戦しているようだな」


 総統命令とはいえ多額の予算を投入されて建造された空母に、陸軍は強い不満を持っていた。なにせ、空母のせいで陸軍の装備計画がめちゃくちゃになったのだ。総統相手に怒りはぶつけられないので彼らの怒りの矛先は自然と海軍に向かった。

 元々陸軍と海軍の仲は悪い。

 これは、海軍が伝統的に帝室を支持していたため、クーデターに一切関わらなかったからだ。そのため海軍は革命あとからずっと冷遇され続けていた。元々大陸国家だったこともあり陸軍重視だったが革命によってそれがより顕著になったからだ。状況が変わったのはほど近いところにあったアトラス領の島フローリアス諸島に豊富な天然資源があることがわかったときだ。

 丁度、そのころは大陸南東への軍事侵攻がフィロア山脈という天然の壁によって阻まれていたため総統は海へ興味を向けた。ただ、当時の海軍はアトラス海軍と比べてかなり貧弱だった。空母はないし主力艦はフリゲートくらい。揚陸艦も旧式ばかりだった。そのため最初のフローリアス諸島を巡る戦いで惨敗した。これではまずいと考えた総統は海軍の予算を増やした。結果的にそれは陸軍の予算を減らすことを意味していた。

 海軍とすれば自分たちを見下してきた陸軍に一泡吹かせるチャンスがきたわけだが、陸軍からすれば面白くはないだろう。海軍に対しての嫌がらせなどが続いたし、結局フローリアス諸島は一時的に占領出来てもアトラスの強力な機動艦隊によってすぐに奪還されてしまった。

 そこで、対応策として建造されたのが空母であった。


「――とりあえず、当分の邪魔になりそうな敵の機動艦隊を排除するしかないか」

「こちらが敵艦隊です」

「…大型空母を配備しているのか?やはり相当な大国のようだな」


 ロッペルは参謀長から一枚の写真を手渡される。

 そこには高高度から撮影したアメリカ艦隊が映し出されていた。

 一気にこの作戦は成功するのか?と不安になるロッペル。

 だが、総統命令を無視することはできない。


「命令は命令だな…敵艦隊の位置は?」

「空軍の偵察機からの報告によると我々の北西にいるようです」

「――そうか。艦載機隊の発艦準備を急がせろ」

「了解」



 メキシコ沖 太平洋

 


「さぁて派手にやるぞ。アーサー」

「はい!」


 対艦ミサイルをぶら下げた複座式の艦上機F/A-18Fのパイロットであるアラン・フィスター大尉が後部席に座る兵器管制士官であるアーサー・リーチ中尉に声をかけた。

 彼らが所属する第84戦闘攻撃飛行隊は敵機動艦隊撃滅のために数分前に空母「レンジャー」から発艦した。攻撃には12機のF/A-18Fがあたり、護衛として第420戦闘攻撃飛行隊のF-35Cが6機ついていた。

 F/A-18Fには新型の対艦ミサイル「AGM-158C」が2発搭載されている。

 日本海軍ならばこれを4発搭載するだろうがアメリカ海軍は日本海軍ほど対艦ミサイルに狂ってはいないので2発だけだ。というよりも大型の対艦ミサイルを4発搭載できる戦闘機を作り出す日本が色々とおかしいのだ。

 さて「LRASM(長距離対艦ミサイル)」とも呼ばれるこのミサイルは元々空対地ミサイルの「JASSM」を改良したものだ。射程は900km以上で艦艇への搭載も可能で艦艇型も今回使われていた。


「敵の空母はスキージャンプ式でしたよね」

「ああ、そうだ。カタパルトは向こうでも簡単に作れるものじゃないみたいだな。とはいえ、油断はするなよ。レシプロ機が飛んでくるわけじゃないからな」

「は、はい」

「まあ、訓練どおりにやれば問題はないし。今回はF-35Cがくっついているから問題はないさ」


 海軍初のステルス戦闘機であるF-35C。

 その性能は空軍のF-22と同等とよばれている。それながらステルス機の割に安価(それでも十分に高額)であることからイギリスやオーストラリアなどにも配備されていた。

 相手の戦闘機の能力は不明だがF-35ならば同等のステルス機さえ出てこなければ大丈夫という安心感があった。まあ、敵が同等程度のステルス機を持っていれば一気に難しいが現時点でフィデスはステルス機などを前線に出していないのでアメリカ軍は「もっている可能性は低い」と結論づけていた。

 さらにここにきて、フィデスのことをよく知っているアトラスからの情報提供によってフィデスがまだステルス機を運用していないことが判明していた。


『各機へ。敵空母から艦載機の発艦を確認した。なお作戦に変更はないが護衛機に関してはミサイル発射後に敵戦闘機への対応を行え』


 早期警戒機から最新の情報が届く。

 どうやら、フィデスもアメリカ艦隊の存在には気づいていたらしい。


「やっぱり敵さんもこっちの存在は気づいていたか」

「大丈夫でしょうか?」

「問題はない。ウチの防空網は鉄壁だ――日本海軍以外はな」

「――それって本当に大丈夫なんですか?」


 それは本当に大丈夫なのか?と不安になるリース中尉。


「大丈夫だ。あいつらがおかしいだけだから」

「は、はぁ…」


 定期的に行っている日本軍との演習は度々「実戦以上に激しいもの」になる。それをよく知っているフィスターは少し遠い目をしていたが、日本軍との演習を話でしか聞いたことがないリーチは「なぜ同盟国相手でこんな話に?」と困惑した。


 そんな会話をしているとミサイル発射ポイントまで近づいた。

 本当は最大射程で行いたかったが今回はある程度近い所から発射する――といってもフィデス艦隊からはだいぶ離れたところだが。


「よし、アーサーやれ」

「はい。ファイヤー!」


 12機のF/A-18Fから一斉にAGM-158Cが発射された。


 同じ頃。第7空母打撃群の巡洋艦・駆逐艦からも一斉に対艦ミサイルとトマホーク巡航ミサイルがフィデス艦隊に向けて発射された。


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