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 正暦2025年 2月8日

 中央アメリカ ホンジュラス南部


 順調に中央アメリカに進軍していたフィデス軍であったが、ニカラグアを陥落してからその進軍速度は大幅に落ちていた。その原因は――。


「くそ!この前までの連中とまるで違う」

「正面。敵戦車!」

「次段装填は――」


 言い終わる前にフィデス軍の主力戦車「MT-8」は、アメリカ陸軍のM1A5戦車によって破壊される。

 フィデス軍の進軍が遅れている原因は、ホンジュラス付近に展開していたアメリカ陸軍の先遣部隊を突破出来ないからだ。さらに、メキシコ沖やカリブ海に展開している空母の艦載機やメキシコに展開している空軍の攻撃機による対地攻撃にも悩まされており中々進軍することが出来ていなかった。

 もちろん、フィデス側も対策を考えている。

 まず、空母に関しては空母をぶつける――とばかりにフィデス海軍唯一の機動艦隊をメキシコ方面に派遣しているし、空軍の戦闘機も敵機を撃退するために派遣されている。ただ、空軍に関してはアメリカ側が護衛戦闘機を出しはじめてから分が悪く。さらに、対地攻撃機もアメリカ軍の防空システムの餌食になっておりやはり上手くいっていなかった。



 コスタリカ サンフアン

 フィデス人民軍 前線司令部


「進軍が完全に止まっているな…」


 中央アメリカ進軍の指揮をとっているマリウス・ジーヘルト中将。

 彼は、コスタリカの首都・サンフアンで接収した国家警察の庁舎を臨時の前線司令部にしていた。パナマシティは軍の一部の暴走によって大部分の建造物が破壊されたが、このサンフアンに関しては中心市街地の破壊はある程度抑えられており政府庁舎などは無事なものも多い。

 ただし、今度は大幅に進軍が止まっているという問題があった。


「今度の敵はかなり装備が整っているようです。『MT-8』ではまったく歯がたちません」


 参謀長のクロイネン大佐の報告にジーヘルト中将は更に渋い顔をする。

 MT-8は4008年から配備が始まったフィデスの主力戦車だ。

 国産のディーゼルエンジンやトランスミッションを搭載し、主砲も国産開発された45口径125mmライフル砲を搭載している。ただ、自動装填装置の開発には失敗したので装填は手動になっている。

 これまでのフィデスは友好国であるルーシア連邦から技術供与などを受けて兵器を開発してきたが「MT-8」はそういった技術供与を受けずに作り上げた最初の戦車だった。

 ただ、仮想敵国であるアトラスが搭載する戦車に比べると性能面ではやや劣るとも言われていた。特に装甲面には問題がありアトラスの主力戦車の攻撃に耐えられないと言われてきたのだが、陸軍上層部はそういった声を封殺しているところだった。

 中米の戦いにおいてフィデス軍が戦った戦車は、ニカラグア軍のT-64やT-72であった。いずれも登場から半世紀以上たち更にニカラグアは満足に整備できる技術力もなかったことからフィデス軍の相手にならなかった。

 そのためか「ここの戦車は弱い」と誰しも思い込むようになった。

 だが、次に対峙したのはアメリカ軍のM1A5だ。

 このM1戦車も製造されてから半世紀ほど経っているが、その都度改良を施されており特にA5は現在の所最新のアップデートが施されていた。特に射撃指揮装置などが新型のものに変更されており(日本製のものを採用している)砲の命中精度が飛躍的に向上したとされていた。

 そのため、アメリカ軍の戦車中隊は離れたところからも的確にフィデス戦車を撃破していたのだ。また、メキシコ軍のM-90戦車(日本の90式戦車のメキシコ仕様)も初実戦でフィデス戦車を数両撃破していた。


「しかし、困ったな…すでに参謀本部から『進軍が止まっているぞ!どういうことだ!』と怒鳴られているし、総統閣下も気になされているという話だが。現状では打つ手はほぼないな」


 ため息を吐き出すジーヘルトにこのあとさらなる「悪いニュース」が届く。


「私だ――なに?」


 クロイネン大佐が電話に出てすぐに表情を一変させる。

 それを見たジーヘルトが思わず声をかけるが、クロイネンは表情を悪くしたまま、ただ電話からの声に相槌をうっていた。しばらくして通話を終えた電話をしまってジーヘルトに報告する。


「――北西部にあるエリアン空軍基地とブロアン海軍基地。そして我々の兵站拠点であったバーセン補給処が攻撃を受けたようです。被害状況は不明ですが…空軍基地と海軍基地は壊滅状態だということです」

「なんだと!?」




 カリブ海上空


 時は一時間前に遡る。

 カリブ海上空に、6機の大型機が飛行していた。

 この大型機は、1955年から現在まで実に70年間ほど運用されているアメリカ空軍の戦略爆撃機「B-52」だ。アメリカ軍はB-1やB-2――そしてB-20といった爆撃機を運用しているものの未だに最古参である「B-52」が前線で運用され続けていた。これは、後継として開発された爆撃機がいずれも高コストなどの問題を抱えている一方で、B-52は近代化改修を何度も繰り返しながらも「枯れた技術」によって兵器としての信頼性が新型爆撃機に比べても高いことからこうして前線で使われ続けていた。


 今回の任務はフィデス国内にある軍事施設への攻撃だ。

 フィデスの防空網はそこそこ強固なので上空に侵入して爆弾をふらせるわけではなく空中発射式の巡航ミサイルを使う。海軍の巡洋艦や駆逐艦も同じ時間帯に同一目標への攻撃を予定していた。


 B-52の周りには護衛機として海軍のF-35Cステルス戦闘機が飛行していた。


「片や70年前の爆撃機。片や最新のステルス戦闘機――なんというかシュールですよね」

「そうかもしれないが、こいつの信頼性は折り紙付きだ。100年飛ぶ予定だしな」

「…本気で上はこれを100年飛ばすつもりなんっすかね」


 かつては大量に配備されていた戦略爆撃機も弾道ミサイルなどの発達によってその使用用途が限られている。とはいえ、やはり大量のミサイルや爆弾を搭載できるのは魅力的だ。特にB-52はその後継となる爆撃機に比べて運用コストも安いため国防総省は本気でこのB-52を2050年代まで使う予定であった。B-1とB-2に関しては順次B-20に更新されているが、このB-52だけはB-20に更新されずに生き残るのだ。

 B-52を更新するために作られた爆撃機よりもB-52が長生きするというのはなんとも皮肉な話だが、アメリカ軍の場合は「枯れた技術」を使ったものが長く生き残り「最新技術」ばかり取り入れたものが早々に引退するというのは割りとよくある話であった。


「さて、そろそろ発射ポイントだ。目標は問題ないか?」

「目標の設定終わっています」

「よし――ミサイル発射」

「了解。ミサイル発射!」


 6機のB-52から約30発の巡航ミサイルが発射される。

 目標は、北アメリカに最も近いフィデス軍の基地3箇所だ。

 更に、艦隊からもトマホーク巡航ミサイルが発射された。



 アーク歴4020年 2月9日

 フィデス人民共和国 首都・アディンバース

 総統官邸


「我が国の領土が攻撃を受けただと?これはどういうことだっ!」


 フィデスの最高権力者――アルベルト・グリーンベル総統は自国領土が攻撃を受けたという報告を聞いて激昂する。報告を行った国防長官が思わず肩を竦めるほどの怒号だ。

 攻撃を受けたのはフィデス北部の軍事拠点。

 その中には海軍最大の造船所を擁する海軍基地や中米侵攻への補給拠点も含まれていた。そして、その造船所では現在同国二隻目となる空母の建造が進められていたのだが、ミサイルの着弾によって建造中の空母にも影響が出たというのだ。せっかく、多額の予算を注ぎ込んで建造されていた空母が被害を受けたこともグリーンベル総統の怒りに油を注ぐ結果となった。


「それで、攻撃したヤツはわかっているのか?」

「現在。前線で我が国と対峙している国の可能性が高いのですが、如何せん情報がなく…」

「情報長官」

「は、はい!」

「すぐに、そいつらの情報を集めろ。大至急だっ!」

「わ、わかりました!」


 同席していた情報長官が弾かれるように執務室から飛び出した。


「いいか。国防長官。どんな手を使ってでも我々に歯向かった奴らに地獄を見せるのだ。わかったな?」

「は、はい!」


 アトラス相手にも見せなかった怒りに国防長官はただうなずくしかなかった。

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