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 正暦2025年 2月1日

 日本皇国 四国南方沖

 芦原島


 四国南方沖に出現した九州並の面積をもった島を日本政府は「芦原島」と命名し、その周辺に浮かぶ島々を含めた島嶼全体を「芦原諸島」と命名した。現在、芦原島には四国を管轄する第11歩兵師団が島の環境調査のために派遣されており、北部の平地部分には調査のための滞在拠点が西部方面軍直属の第4工兵旅団の手によって整備されていた。

 拠点の近くでは軍艦が停泊できるような臨時の桟橋も作られており、現在桟橋には物資を積載した輸送艦が停泊していた。

 現時点で島の半分ほどの調査が終わっており、レアメタルの鉱床や油田などが発見されていた。更に、島北部には広大で肥沃な土地が広がっており大規模農地に適した環境であることもわかっており、第11歩兵師団の師団長である松本少将は「この島は宝の島だな」と表情を綻ばせ、同行していた内務省や資源エネルギー庁の職員たちも同様に喜びの笑みを浮かべていた。

 まあ、一から開発しなければならないのだがすでに来年度予算にこの芦原島開発計画の予算をつけようと資源エネルギー庁や経済産業省などは画策しており財務省と事前交渉をしていた。

 激務が待っているはずなのに、彼らの目は爛々と輝いていたという。


 


 芦原島中央部

 日本陸軍第11歩兵師団 第22歩兵連隊



「南の調査は苦労しそうですね」

「あの山があるからな」


 第11歩兵師団に属する第22歩兵連隊。

 愛媛県は松山に駐屯していたが1個中隊を除いてほぼ全部隊が芦原島の探索に駆り出されていた。第22歩兵連隊第3中隊第2小隊は本隊から少し離れた芦原島の中央部まで進出していた。

 彼らの目の前にあるのは高い山々が連なる山脈だ。

 島の南側にいくにはこの山脈を超えるか、南側の海岸から上陸する必要がある。すでに、呉の第6海兵連隊が強襲揚陸艦「国東」にて島の南側に向かっているので彼らとしては無理して山を超える必要はない。一方で、この山脈の調査もしなければならないのだがこちらは専門の松本の第50山岳連隊が派遣される予定となっていた。


「小隊長。この周辺も特に問題はありませんでした」

「そうか…じゃあ、そろそろ拠点に戻るか。これ以上は山岳装備が必要だからな」


 これほどの島ならば文明の痕跡くらい見つかりそうなものだが現時点でなにも見つかっていない。生息している動物なども地球で見たことがあるような動物が多かった。ただ、外見だけが似ている新種なのかもしれないがあいにくと彼らは動物の専門家ではないので区別はついていない。

 連隊本部からは「何がおきるかわからないのであまり野生生物に近づくな」という通達があり、小隊の兵士たちも小動物などを見つけても近づかないようにしていた。だいたい、この手の動物は妙な病気をもっていたりするのでいくら可愛い小動物だからって近づくのは感染や怪我のリスクを増やすだけだ。


「緒方。ここにいるのは未確認生命体だ。安全が確認されるまでは絶対に近づくなよ」

「は、はい!気をつけます」


 無意識のうちにウサギのような動物に近づこうとした女性隊員を小隊長が注意する。この隊員は小動物が好きなのでその姿を見てついつい身体が動いてしまったようだ。彼女はあわてて頭を下げた。



「はぁ…失敗した」


 前線拠点に戻り、自分のテントに戻った緒方理奈二等兵はガクッと肩を落とす。かわいいウサギのような動物を見つけたと思ったら無意識の内に近づいてしまった。地球の生物と外見が似ていても異世界の生物であるからむやみに近づくな――というのは最初の頃に言われていたし彼女もそれは理解していた。

 理解していただけに無意識のうちに近づいてしまった自分に自己嫌悪する。

 緒方二等兵は昨年の春に陸軍に入隊した新人だ。

 身体を動かすことが好きで更に災害現場などで活躍する陸軍の兵士を見て憧れたことから高校卒業後に陸軍の入隊試験を受けて合格し、地元である第22歩兵連隊に配属された。

 異世界に転移するのも想定外だったが、こうして未知の島の調査に派遣されるのも予想外だった。最初の頃は危険生物がいるのではと気を張り詰めたのだが幸いそういった危険生物には遭遇せずそのことで少し気が緩んでいたのかもしれない。

 自分の失敗は隊全体を巻き込むことというのは頭の中に叩き込んでいただけに己の行動に落ち込む。


「あー。まだ落ち込んでる」

「自己嫌悪の真っ最中…」

「それは言われなくてもわかるわよ」


 テントの中に入ってきたのは同じ中隊にいる同じ新人兵士の相澤佐知二等兵だ。


「あんまり引きずっているとまた怒られるよ?」

「うん…」


 ちなみに中隊長である大尉からは特に何も言われなかった。

 小隊長がすでに注意済みなので「今後は気をつけろよ」という声をかけただけだ。軍隊というのはどうしても言葉が強くなることが多いのだがこの部隊の指揮官は常識人なのか大人なのか声を荒げることはあまりない。

 もし、違う部隊だったら緒方二等兵が行ったことはかなり厳しい口調で注意されていただろう。とはいえ、このままずっと引きずった状態ではまた注意されてしまうだろう。今度はより強い感じで。

 もちろんそれは緒方二等兵も理解しているので「ご飯を食べて元気を出そう」と顔をあげた。


 翌日。食事を食べしっかりと休んだためか緒方二等兵はすっかりと元気を取り戻していた。その後も森林地帯の調査が数日間続いたが同じ失敗は二度と起こさずに任務を終え、海岸の拠点へ戻った。



 芦原島 南部

 強襲揚陸艦「国東」



 強襲揚陸艦「国東」

 大隅型強襲揚陸艦の3番艦で呉海軍基地を母港としている。

 全通甲板をもった満載排水量4万トンの大型揚陸艦で、海兵隊員約2000名を輸送することが可能だ。今は、芦原島の南部を調査するために呉の第6海兵連隊の兵士たちが揚陸艇や水陸両用車――艦載ヘリコプターなどを使って島への上陸をはじめていた。すぐ、側には同じ艦隊に属するドック型揚陸艦「黒埼」も同様に海兵隊員を吐き出していた。


 国東は揚陸艦として以外にも「軽空母」としても運用できた。

 ただ、今回は上陸任務のため艦載機であるF-35Bは搭載しておらずかわりに輸送機であるMV-22JとMH-53輸送ヘリコプターを搭載し、兵士たちの輸送を行っている。


「北と南でここまで違うとはな」

「南は本当に荒れ地ですね」


 艦長の栗橋大佐と副長の山崎中佐は艦橋から見える島の南側の光景に驚いた。島の北側は緑が広がっていた一方で島の南側は乾燥した荒れ地が広がっている。


「開発するのは大変だろうな」

「そうですねぇ。住むのに適しているのは北側ですね」

「だが、こういったところに『資源』が埋まっていたりするからなぁ」


 有名なのはアラビア半島だ。

 砂漠地帯が広がっているアラビア半島は世界有数の資源地帯であり多くの石油や天然ガスが埋蔵されている。芦原島南部もそんな資源地帯の可能性もあるので民間の調査チームもこのあとやって来る予定だった。

 他国から輸入しなくてもよくなるということで資源エネルギー庁や経済産業省はかなり積極的に芦原島の開発を進めようとしているようだ。


「海兵隊の上陸終了したとのことです」

「了解。呉に戻るぞ」


 次に、国東がここにやってくるのは調査を終えた海兵隊が帰還する時だ。




 正暦2025年 2月4日

 日本皇国 南洋諸島州 マーシャル諸島南方沖


 マーシャル諸島から南に300kmほどの洋上に発見した未知の島を調査するためにマーシャル諸島マジェロ海軍基地の第705飛行隊に所属する2機の飛行艇「US-4」が太平洋を南下していた。

 南洋諸島のようにサンゴ礁の小さな島があちこちに散らばっている地域では一般的な滑走路を作る場所も限られている。そこで活躍するのが飛行艇だ。現代では空港の整備などで殆どの軍で使われなくなったが、島国である日本にとってはまだまだ主力として活躍している。

「US-4」は2007年から配備が始まった飛行艇でこれまで94機が海軍に導入され、フィリピンやインドネシアなどといった海外へも輸出されていた。

 転移して一ヶ月経っているが未だに北太平洋では多くの島が毎日のように確認されていた。国境などの問題もあるが基本的に「自国の近くにある島はその国のもの」というなんとも曖昧な取り決めをイギリスなどとしているので南洋諸島周辺に出現した島の多くは日本が確保していた。


「そろそろ着水します!」


 パイロットが後ろにいる海兵隊員たちに声をかける。

 着水したら海兵隊員はゴムボートに乗って島に上陸する。

 あとは調査を行い明日やってくる予定の海上警備隊の巡視船にのってマーシャル諸島へ戻る予定だ。


「パッと見はこの辺の島とたいして違いありませんね」

「サンゴ礁はなさそうだけどな」

「代わりに山がありますけれど、あれ火山ですかね」

「その辺は学者先生方が色々と調べてくれるだろうさ」

「ですね」


 着水し島にゆっくりと近づきながら島の外観を確認するパイロットたち。

 その島は周囲にある島と見た目は似ていたが、周囲にはサンゴ礁などは存在していない。高い山があることから火山島かなにかなのだろうと山を見上げながら思った。その間に、海兵隊員たちはゴムボートに乗り込んでいた。


「お世話になりました」

「ええ。気をつけて」

「そちらも気をつけて戻ってください」


 などという会話を交わした後海兵隊は浜辺に向かってゴムボートを進ませる。海兵隊員たちが十分に離れたのを確認したパイロットはUS-4のエンジンを始動させゆっくりと加速しながら離水し、マーシャル諸島の基地へと戻った。


 島に上陸した海兵隊員たちは周囲を警戒しながら橋頭堡を築くと銃を構えながら森の中へと入る。途中何匹か野生動物が飛び出しそのたびに射殺するという動物愛護団体が見れば猛反発するようなことを繰り返しながら海兵隊員たちは一通り島の中を確認したがやはり島には人工物は確認出来なかった。

 

 それから数日後。同じくマーシャル諸島からやってきた海上警備隊の中型巡視船「すずか」が島に到着し海上警備隊員がボートで島に上陸。海兵隊は海上警備隊に任務を引き継いだが暫くは彼らの護衛も兼ねて島に滞在する。その間に海上警備隊員は国旗や観測機器などを島の各所に設置していた。

 そして、数日滞在した後海兵隊員と共に巡視船に戻り島を後にした。


 後日、島に生息していた野生動物はこの島固有のものだとわかったことから専門家などが島を訪れることになりその護衛としてこの島を調査していた海兵隊の小隊が再度この島へやってくることになるがこれはまた別の話である。


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