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 正暦2025年 1月26日

 アメリカ合衆国 ニューヨーク

 国際連合 本部


 1946年に発足した国際連合。

 地球上にある200余りの国が加盟している国際機関だ。

 1918年に発足した国際連盟に変わる機関として発足したが、当初の加盟国は第二次世界大戦の戦勝国だけだった。その後、植民地から独立した国々などが多く加盟して加盟国が増えていき今では200余りの国が参加する巨大組織となったが、地域紛争などが頻発している地球では今ひとつその存在感を発揮することが出来ていなかった。

 これは、国連の決定に強制力がないのが一因であろう。

 そもそも、東西両陣営の盟主たちが国連の決定に従わないケースも多かった。おかげで本来ならば国連を拠り所――最後の手段にしたい途上国などからも国連の現体制に対しての不満が高まっていた。


 その、国連はこの世界に転移したことにより完全に機能を停止していた。

 それでも、国連本部にはニューヨークに駐在している各国の国連大使が情報収集目的で集まっている。ここ数日ほどはようやく一部の通信手段が解決したことにより母国と通信がとれるようになった国も増えていき少しずつだが転医後の各国の状況もわかるようになっていた。


「日本やアメリカは大変そうだな」


 他人事のようにつぶやくのはイギリス大使。

 早くから連絡がとれた日本・イギリス・アメリカなどの国連大使は行動を共にすることが多いのだがここ数日は日本とアメリカの大使が主にヨーロッパやアジア諸国の国連大使からの陳情で忙しそうにしていた。

 ちなみに、イギリスもヨーロッパ諸国の大使から囲まれているのだがこの日は近くにいたカナダ大使を巻き込んで逃げている――さすがは腹黒い紳士の国として有名なイギリスである。

 そのため、同じ部屋にいたオーストラリアやオージニア大使は「なにを白々しい」といったジト目でイギリス大使のことを見ていた。


「まあ、しかしどの国もだいぶ混乱しているようだな」

「ヨーロッパは軍事侵攻を受けていますし、アフリカの一部も異世界の国から軍事侵攻を受けているとか」

「中東も相変わらずの不安定さだったな。ソ連と北中国が大人しいのも不気味だな」

「あそこは他大陸を軍事侵攻しているからそっちで忙しいのでしょう」

「そういえば、北中国が軍事侵攻している大陸はレクトアやアトラスがあった世界の大陸らしいですな。双方ともに深い付き合いはないみたいですが、やはり同じ世界の大陸が侵略を受けているというのはいい気分はしないようで北中国に関する事を色々と聞かれましたよ」


 この場もまた情報収集の場だ。

 現在の地球諸国はどこもかしこも混乱している。

 ヨーロッパはバルカン半島での戦争でほぼすべての国が戦時体制に移行しているし、中米地域はコスタリカが陥落し隣国のニカラグアが現在攻撃を受けている最中だ。アメリカ軍はニカラグアの隣国であるホンジュラスに軍を集めておりニカラグア陥落と同時に本格的な軍事行動を出るつもりらしい。

 これまで情報があまりなかったユーラシア大陸(アジア部分)とアフリカ大陸に関しての情報も徐々に集まりだした。アジアであるが北中国とソ連がそれぞれ別大陸への軍事侵攻に集中していることから両国の対立はそれほど激化していなかった。

 かわりに、建国経緯から長年周辺のアラブ諸国と対立しているイスラエル周辺部でイスラエルに対立しているイスラム系武力組織とイスラエル軍との間の小競り合いが頻発しておりそれが周辺諸国の国土にも及び、周辺のアラブ諸国とイスラエルが一触即発の事態にまで発展していた。これまでは日本を中心に両者の仲介などをしていたのだが、今回の転移で日本など国際社会の目が離れたことで仲介する勢力がなく事態が悪化しているようだ。

 一応、中東において日本と関係が深いイランやトルコなどが両者の仲介に乗り出しているのだが、両国共にイスラエルと激しく対立しているイラクやシリアとの関係が悪いことから上手くいっていない。

 そして、転移前から各地で紛争やクーデターなどの問題が絶えないアフリカも転移によって国際社会の支援が停止したことで厳しい情勢になっていた。今のところエジプトや南アフリカ連邦などごく一部の国がなんとか国家として統治できているが、一部の国は政権が崩壊し部族単位での統治が始まるなどしているところもあるという。


 こういった国が支援を求める先が先進国なのだが、先進国の中で比較的余裕がある国というのは限られており各国から「余裕がありそう」と思われている日本やアメリカ大使に人が集中しているのだった。


「いやはや…ひどいめにあいましたよ」


 しばらくして疲れ切った顔をした日本大使が部屋の中にやってくる。

 アメリカ大使は未だに取り囲まれているという。


「我が国もそこまで余裕ないんですがねぇ…」


 と、ボヤく日本大使。

 日本も他国から軍事侵攻を受けるなどしているのだが、それでもヨーロッパからみれば「まだ余裕がありそう」と見られていたし、この場にいた大使たちも「日本ならまだ大丈夫でしょう」などと考えられていた。

 だが、霞が関はどこも深夜まで仕事がたまっているブラック企業も真っ青な状態でありこれ以上仕事を増やされるのは彼らにとって御免被りたい。


「そういえば、事務総長にもつかまってませんでした?」

「異世界の国際機関と協力して『新世界連合』を作りたいとか言われましてね。異世界の国と交渉したいから会議の場をセッティングしてほしいとお願いされたんですよ」

「国連改革してやるって意気込んでたからなぁ。ここで異世界を巻き込むことにしたのか」


 現在の国連事務総長は国連の世界的地位向上のための改革に熱心だった。

 ただ、それぞれの国の思惑などもあるので今のところ上手くはいっていない。そこにやってきたのが異世界転移である。事務総長は異世界の国際機関などと連携してより大きな国際機関を設立しようと画策していた。そのために各世界の国際機関と接触するために異世界の国と接触しようと考えていた。日本に頼み込んだのは「アーク」に存在する国際機関との接触を前準備である。とはいえ、簡単に進む話ではない。


「茨の道だと思いますけれどねぇ。それに仮に話し合いを行うにしてももう少し落ち着いてからじゃないと意味はないですよ」

「ということは断ったのか?」

「ええ。もう少し時期を見たほうがいい――それが政府の考えでもありますし」

「まあ、そうでしょうね。未だにこの世界の全容がわかっていませんから」

「各国共に衛星の打ち上げ計画があるので衛星が揃えばある程度の全容は見えてきそうです」


 ようやく、この時期になって先進国を中心に衛星の打ち上げようとしていた。アメリカ・日本は近日中に衛星を打ち上げると公表し、アトラスやソ連に北中国などもそれぞれ衛星を打ち上げる準備を進めていた。

 特にアメリカは、複数ある発射施設をフル稼働させてGPS衛星や偵察衛星を一気に打ち上げる計画を進めており、日本もロケットの準備ができ次第1ヶ月に10基のペースで衛星を打ち上げる予定だ。



 正暦2025年 1月27日

 日本皇国 鹿児島県 種子島

 航空宇宙庁 種子島宇宙センター



 鹿児島県は大隅半島の南60kmほどのところにある種子島。

 屋久島などと共に「大隅諸島」を構成した細長い島で約5万人が生活している。農業や漁業が主要産業なのだが、この島の南部には航空宇宙庁のロケット発射施設である「種子島宇宙センター」が置かれている。

 日本には種子島以外に、沖縄の糸満やトラック諸島。そして大隅半島の東海岸にロケットの射場が設置されている。このうち、大隅半島の射場は小型ロケット専用の発射場で他の3施設は大型ロケットの発射ができた。


 この日、種子島では軍の偵察衛星を搭載したH-4ロケット22号機の打ち上げが予定されていた。日本にとってはこの世界に転移して初のロケット打ち上げということで朝から種子島宇宙センター周辺には多くのマスコミや見物客が押し寄せていた。

 ロケットの打ち上げは事前に予告されていることもあって、他の発射場でも打ち上げの予告があるたびにこうして人々が集まってくる。ただ、トラック諸島に関しては発射施設とその周辺は一般人の侵入を禁止にしているので間近で見物することは出来ない。

 まあ、そもそもトラック諸島事態軍港を主体とした「軍事の島」なので一般人が立ち寄ることさえ難しいのだが(本土からの直行便も存在しない)

 すでに、前日。アメリカでロケットの発射が成功されており、この日はアトラスやソ連などでも発射が予定されている。各国間の通信は未だに限定的なのでソ連の発射に関しては国連本部で情報収集をしていた国連大使からもたらされたものだが、日本政府はそれほど「発射の順番」というものは気にしていなかった。

 ただ、マスコミは別のようで「この世界でアメリカに続くロケットの発射になる」などと大々的に伝えていたが、菅川官房長官が記者会見で「我が国が2番目という根拠はないのでやめていただきたい」と苦言を呈していた。


『いま、軍事衛星などを搭載したH-4ロケットが打ち上げられました!』


 発射場から数キロ離れた高台から空へと上がっていくロケットをテレビカメラは追っていく。見物客は無事に空へと上がっていったロケットを見て歓声の声を上げていた。

 打ち上げから一時間後。航空宇宙庁(JASA)は無事に搭載された衛星が切り離され、この星の衛星軌道に達したと発表した。



「次は一週間後か…ロケットは?」

「すでに到着しており最終チェックをしています」

「仕方がないこととは言え随分と忙しないな…明日は沖縄で打ち上げだったか?」

「ええ。気象衛星とGPS衛星を打ち上げるらしいですよ。その次は、トラックで――早期警戒衛星のようですね」


 無事、衛星を打ち上げられてもJASAの職員たちに休息の時間はない。

 なにせ、向こう半年までびっちりとスケジュールが埋まっているのだ。本来はそれほど短期間で多くの衛星を打ち上げることはないのだが、今回は異常事態なので「どうにか早くやってくれ」と科学技術省から無茶振りされているのだ。

 ロケットに関しては急ピッチで製造メーカーである「四葉重工業」によって製造されており、衛星に関しても各メーカーがやはり急ピッチで組み立てを行っているがさすがにそれぞれすぐに完成する代物ではない。

 現在、打ち上げられているのは事前に作られていたロケットや衛星などであり今後も衛星やロケットが用意され次第、打ち上げられる予定だ。

 輸送には海路以外に空路でも運ばれており種子島空港では毎日のように空軍の輸送機などが飛来し、必要な物資の輸送を行っていたし、海軍の輸送艦も全力投入されている。


「状況的に仕方がないが軍向けが多いな」

「今、一番優先度が高いですからね。軍用は」

「また、突然攻撃してくる国がいても困るからなぁ」


 直接上陸してこなくても、弾道ミサイルなどをつかって攻撃をしてくることも考えられる。そのため、今週予定されている衛星の中には早期警戒衛星も含まれていた。


「早く日常が戻ればいいんですがね」

「まったくだ」


 そして、消えてなくなった正月休みをとりたい、とセンター長は心の中で誓った。



 アーク歴4020年 1月29日

 アトラス連邦共和国 ノーリック島

 リッドウェール州南部

 アトラス連邦宇宙庁 ノーレス宇宙センター


 アトラス連邦を構成する主要な島の一つノーリック島は首都があるヴェルーサ島の南東120kmほどのところに位置している。島の南部にあるエイッドウェール州にはアトラスに3箇所あるロケット射場の中で最も大きい「ノーレス宇宙センター」がある。


 種子島でロケットが打ち上げられる1時間前。ノーレス宇宙センターでは早期警戒衛星を搭載した「SAS200ロケット」が打ち上げられていた。日本のメディアでは「日本がこの世界で二番目」などと言っていたが、実際にこの世界でアメリカに次いでロケットを打ち上げたのはアトラスであった。

 といっても、ここの職員たちも官僚から無茶振りをされて頭を抱えているところだった。


「一ヶ月に20機ですか。だいぶ詰め込みましたね」

「軍事・気象衛星の殆どがやられたからな…しばらくは軍事優先だそうだ」

「でも、うちってそんな製造出来ましたっけ?」

「どこも急ピッチで製造するって話だ。どこも休日返上だとさ」


 うへぇ…と嫌そうな顔をする部下。

 つまりは、彼らもしばらくは休日返上で仕事を続けなければならないということで、彼にとってはあまり喜ばしくないニュースであった。

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