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樺太北方沖
ノルキア海軍 第1艦隊
空母「セルンスト」
「第一次攻撃隊全機未帰還だと?」
「はい。どうやら迎撃されたようです」
「ハリエット少佐を含めて精鋭ばかりだったのだぞ?それが未帰還だと…」
腕利きのパイロットたちで構成された飛行隊が全機撃墜された可能性が高いという報告を聞いて艦隊司令のゲインズ中将はショックを隠しきれなかった。同時に「やはり、こんな作戦を参加すべきではなかった!」と上層部の命令とはいえ最後までこの作戦の遂行に反対しておけばよかった、と自身を責めた。
「提督。すぐに第二次攻撃隊を発艦すべきかと!」
「そうです。すでに上陸作戦は始まっています。陸軍の支援をしなければ海軍は陸軍を見捨てなどと言われかねません!」
参謀たちが口々に第二次攻撃隊を出撃すべきだと主張する。
ここでゲインズが撤退を指示すればタカ派ばかりの陸軍はここぞとばかりにゲインズは勿論のこと海軍全体を批判するだろう。それが頭によぎったゲインズは暫く考え込みそして決断する。
「…わかった。第二次攻撃隊を準備させよう」
同日
東北州 青森県 三沢市
日本空軍 三沢基地
北部航空方面軍や北部防空司令所など北日本の防空警戒の拠点である三沢基地。3000m級の滑走路が2本持ち、一時期アメリカ軍の日本駐屯部隊も拠点していた空軍基地だ。北部航空方面軍は樺太・北海道・千島列島・北東北を管轄しており主にソビエト連邦からの領空侵犯などに対応している。
樺太領空に侵犯したノルキア海軍機は全機撃墜したが、依然として空母などの艦隊は領海へ侵入しており一部の輸送艦などはすでに陸地付近に達していた。そのため、統合参謀本部はこれらの艦隊への攻撃指示を北日本の各基地に発令した。
三沢からは第5戦闘航空団第51戦闘飛行隊のF-15GJが4機。
北海道の千歳からは第7戦闘航空団第71戦闘飛行隊のF-35AJが4機。
北海道の帯広からは第14戦闘航空団第410戦闘飛行隊の79式戦闘機(FJ-5)が4機。
海軍の間宮航空基地からは第8航空群の4式対潜哨戒機(PJ-4)が2機がそれぞれ対艦兵装あるいは対空兵装を装備して慌ただしく上空へと上がっていった。
三沢から飛び立ったF-15GJは複座の戦闘爆撃機だ。
F-15を戦闘爆撃機として改修したF-15Eの改良型であり、レーダーやアビオニクスなどがF-22やF-35相当に改造され日本空軍では110機ほどが運用されており三沢や帯広などに配備されている。
F-15戦闘機は大型の戦闘機で高い兵器搭載能力をもっていることからアメリカが戦闘爆撃機として運用。日本も対ソ連などを想定して導入したがどちらかといえば対艦攻撃機のような役割を持たされている事が多い。
今回も4発の97式空対艦誘導弾(ASM-3)が搭載されていた。
千歳から飛び立ったF-35AJはアメリカ・日本・ヨーロッパ諸国などが共同で開発したマルチロールタイプのステルス戦闘機で、空軍用のA型と短距離離発着タイプのB型。艦載機タイプのC型などが作られており、日本はアメリカと共に開発では主導的な役割を果たし、A型とB型を導入している。
日本空軍が導入したAJタイプは老朽化している79式戦闘機の一部やそれより更に古かった66式戦闘機のすべてを置き換えるために導入されており66式戦闘機は5年前に全機更新され、79式も老朽化した全体の3割ほどがF-35によって更新されている。
今回のF-35は制空支援として派遣されたもので対空兵装を搭載していた。
4式対潜哨戒機(PJ-4)は4発のターボファンエンジンを搭載した対潜哨戒機で大きさはリージョナルジェットほどある。空軍の早期警戒機である5式早期警戒機(EJ-3)とは部品の共通化などが行われているため外観はよく似ている。対潜哨戒機としてはもちろんのことかつての「陸上攻撃機」の如く対艦攻撃や地上攻撃にも用いる事ができ、今回も対艦ミサイルである87式空対艦誘導弾(ASM-2)を6発搭載していた。
樺太東方沖 オホーツク海
第5艦隊 第5駆逐戦隊第51駆逐隊
一方で海軍において現地に一番近い位置にいたのは奥端の第350護衛隊であったが、流石に小型艦艇3隻だけでは空母を含めた艦隊と対峙するのは難しいため応援部隊が来るまで少し離れたところで待機していた。
そして、樺太東方のオホーツク海を奥端方面へ北上していたのが樺太南部にある大泊海軍基地から急行している第10駆逐戦隊第51駆逐隊であった。
第51駆逐隊は第5艦隊に所属している駆逐艦部隊でミサイル駆逐艦「睦月」と汎用駆逐艦「五月雨」「浜霧」「朝霧」の4隻によって構成されていた。
「睦月」はイージス・システムを搭載したイージス艦である。そのため駆逐艦ながら満載排水量は8,000トンに達する大型艦だ。主武装は127mm速射砲1門。VLS96セル。対艦ミサイル発射機2基。哨戒ヘリコプター1機など。就役から20年ほどたっているがシステムなどは最新のイージス艦と同等だ。
汎用駆逐艦の「五月雨」「浜霧」「朝霧」はいずれも高価なイージス・システムは搭載していないが対水上・対潜・対空とバランスのとれた兵装を搭載した中型の汎用戦闘艦であるが、こちらも就役から25年~30年ほど経っていた。
ミサイル駆逐艦「睦月」CIC
「すでに一部は上陸を始めているようですね」
「住民はすでに避難しているし、陸軍も展開はしているから問題はないさ。空の連中も上がっているようだから我々が現地についている頃にはすべてが片付いている可能性もあるな」
「いえ、敵の規模からいって空軍のみですべてを片付けるのは難しいかと…」
「…そんなにいるのか?」
「輸送艦を含めて50隻だとか」
「よくもまぁそんなに準備したものだな」
もとより他の地域に侵略予定だったのか。それとも「力でゴリ押し」をしているのか判断がつかないが大軍勢の出現に呆気にとられる第51駆逐隊の指揮官である向井大佐。ちなみに傍らにいるのは旗艦である「睦月」艦長の細川中佐である。
「しかし、地球のほうが平和だったんじゃないかと錯覚してしまうよ」
「本来なら地球も地球でひどかったはずなんですがね…」
「少なくとも空以外はソ連が大人しかったからだろうな。おかげで、西ばかりに世間の視線も向いたからな」
逆に北方に注目されなくなり北方から一部の部隊を台湾や南西諸島に移す――なんて話も出たほどだ。ソ連の動きがまた活動的になったらどうする!と地元の樺太州などが抗議してその案はなくなったが、国防省の官僚ですら北方への関心がなくなった、と樺太州議会ではかなり荒れていた、という話を先輩士官から向井は聞いたことがあった。
実際、沖縄や台湾周辺での北中国の動きは活発であり、本気で台湾や沖縄のどこかへ上陸するつもりなのでは?と思われていたほどだ。
「司令。どうやら空軍と陸軍による敵艦隊への攻撃が始まったようです」
「いよいよか。敵ながら同情してしまうな…」
なにせ、これから行われるのは同盟国のアメリカですら「えげつない」「地獄のようだった」と述懐するような飽和攻撃なのだから。
樺太北西近海
ノルキア帝国 揚陸指揮艦「グロイモス」
「第一次攻撃隊が全滅しただと?海軍の奴ら精鋭パイロットを集めていたと言っていたではないか」
「どうやら敵の迎撃機はかなりのやり手だったらしいです。すぐに第二次攻撃隊を向かわせるという報告がありました」
「…まあいい。海軍の腰抜け共に頼らなくてもこの島を我が国の領土にすることなど我々陸軍ならば容易いことだ」
樺太北西部の海岸に到達したノルキア帝国の上陸部隊。
揚陸指揮艦「グロイモス」で陣頭指揮をとっていたスコープ中将は自分たちを支援するはずの海軍の艦載機隊が全滅したという報告を聞き、一瞬憤りかかるもこれで海軍の評判が下がるならばそれでいい、と考え直す。
すでに部隊の上陸は順調に行われている。今回の作戦に投入された陸軍兵力は約1万。本当はもっと数を出したかったが、輸送能力が限界だったことからこの数で妥協している。もちろん、本国から追加の部隊派遣を要請しているので最終的には3万人まで上陸部隊を増強するつもりだ。
そのうち2000人あまりは道中で発見した島を占領するために本隊から別れていた。この、発見した島というのは千島列島最北端にある占守島と隣接している幌筵島だった。
「だが、問題はこの寒さか…」
スコープは寒さによって凍りついた窓を複雑そうに見る。
外気温は氷点下20度に達しており、彼らは艦内にいながらも厚手のコートなどを重ね着している状態だが、それでも全く意味がないほどに身体は冷え切っている。
「雪中行軍なんてほぼ経験はないが。大丈夫なのか?」
「一応、北の植民地での戦いなどを経験している者たちを選抜はしているのですが。実際に動いてみないとなんとも言えませんね。それに、この寒さは予想以上ですし」
「まあ、こんな寒い場所にそんな軍を置いているとも思えん。なんとかなるだろう」
色々と不安な部分はあるがだからといって引き返すという選択肢は彼らにはなく無理やり「問題ない」と納得しようとする。
しかし――
「な、何事だ!?」
「わ、わかりません」
突如として「ズゴオオン」という何かが爆発するような轟音が聞こえスコープと部下は慌てふためく。すぐに、艦橋に外で見張りをしていた水兵がやってきて叫ぶようにこう報告した。
「み、ミサイルです!ミサイルが駆逐艦『オリラント』に命中しましたっ!」
「なにっ!?一体どこから飛んできた!それよりもレーダー員はなにをしていたっ!」
「ち、超低空を高速で飛翔しておりレーダーでは探知できません!」
「なんだと!?」
突然の攻撃に混乱するスコープ。
その間にも攻撃は続き付近にいた護衛の駆逐艦や輸送艦などに次々とミサイルは命中していく。これらのミサイルは地上に展開していた陸軍の地対艦ミサイル連隊が装備している11式地対艦誘導弾からのものだった。
早期警戒機などからの報告でノルキア軍が上陸するであろう場所を割り出しそこで待ち伏せする形で待機していたのだ。
11式地対艦誘導弾は射程500kmを超える長射程の地上発射型の対艦ミサイルだ。迎撃手段の進歩などに対応するために海面スレスレの超低空を超音速で飛翔する。AIも搭載されており搭載されたカメラで目標を判別し、妨害手段を受けたとしても正確に当初の目標を攻撃できるように設計されており、同盟国のアメリカからも恐れられているミサイルだった。
そして、対艦ミサイルはスコープたちが乗る「グロイモス」にも接近しようとしていた。
「高速飛翔体。本艦に急速接近中!」
「対空砲撃て!なんとしてでもうちおとせ!」
グロイモスの対空兵装は30mm機関砲しかない。
艦長の指示によって機関砲が接近するミサイルに向かって発射されるがミサイルを迎撃するには至らない。一応、機関砲はレーダーと連動しているもののレーダーが超低空を高速で接近するミサイルを捉えることが出来ずまた微妙に機動を変えているため命中しないのだ。
そしてそのまま、ミサイルは艦の右側面に命中。続けてもう一発も命中した。
「被害報告!」
「右舷に二発命中!被弾箇所から浸水あり!」
「機関部浸水!機関出力急速低下中!」
「総員退艦!」
乗員たちは急いで退艦を始める。その間にも浸水によって排水量6000トンを超える揚陸指揮艦は徐々に左へ傾き始めていた。避難する乗員の中にはスコープたち陸軍軍人もあった。スコープは誰よりも早く脱出しようと乗員たちを「どけ!邪魔だ!」と押しのけながら救命ボートへ向かう。もちろん非難の視線が集まるがそんなことを気にしている暇はないと誰よりも先に救命ボートへと乗り込んだ。
「どこのどいつだか知らんが。覚えていろよっ!もう一度戦力を再編成して必ず舞い戻ってやるからなっ!」
呪詛のような言葉を放ったスコープだが残念ながら彼の軍人としてのキャリアはこの日で終了する。
そして、揚陸艦隊から少し離れていたところにいた機動艦隊も第350護衛隊や対艦攻撃隊の攻撃によって壊滅。残存艦はコレ以上の作戦続行は困難として指揮官のケインズ中将の判断によってこの場から離脱した。




